姉と弟 5
その晩、夜の勉強を終えると、千紗はベッドにドサリと横になった。両手両足を大きく伸ばし、網戸の向こうに広がる夜空を眺める。
あの夏祭りの夜から今日まで、長かったような、あっという間だったような、不思議な感じがした。ほんの数週間前のことなのに、夏祭りの頃の自分は、なんだか遠い昔の自分のような気がする。
時はどんどん流れる。
それは時に、自分すら置いてきぼりにされているようで、時々、千紗を不安にさせた。でも、と、千紗は寝返りを打ちながら思った。いろいろあったけど、なかなか良い夏休みだったかも。だってあたし、何にも努力しなかったのに、こんなに痩せられたもん。
今の千紗にとっては、しっかり勉強したことより、密かに家族を支え続けたことより、体重が減ったことが、一番嬉しかったのだ。
ダイエットなんてすっかり忘れて、毎日お腹いっぱい食べていたのに痩せられたなんて、これってきっと、神様からの贈り物よね。千紗は、両手を頬に当てながらそこまで考えると、さっとベッドから起き上がった。そして、衣装ケースから、一着のワンピースを取り出した。
それは、去年の夏休み、街で菊池とばったりあったときに着ていた、特別なワンピースだ。
母が縫ってくれたそのワンピースは、体にぴったり合った上半身に小さなかわいい袖がついていて、スカートの部分はふわりとふくらんでいる。ウエストのところでリボンを結ぶように出来ていて、そこが特にお気に入りだ。
不思議なことに、このワンピースを着ていると、よく似合うと人から褒められるので、これを着ている時、千紗はいつも少し晴れがましい気持ちになれる。
だから、明日はこれを着て出かけるつもりだ。なんたって明日は、待ちに待った花火大会なのだから。
菊池は、これを着た私を見て、一年前のあの日のことを、少しでも思い出してくれるだろうか。コンビニ脇の階段に腰掛けて、一緒にアイスキャンデーを食べた、あの日のことを。
あの日、千紗は、夏休みの学校登校日だったことを、すっかり忘れて寝坊をし、お昼近い時間に、駅前の通りをのんきにぶらついていたのだっけ。
いや、本当は少し違う。
本当は、夏休み直前に正式に両親の離婚がきまり、父が出て行った後の家の中で、一人戸惑い、途方に暮れていたのだ。だからあの日の千紗は、お気に入りのワンピースを着ながら、少し俯いて歩いていたはずだ。
千紗が、学校帰りの菊池とばったり会ったのは、そんな夏の日だった。
あの日、菊池はふとした話の成り行きから、千紗にアイスを奢ってくれた。そして、コンビニの脇にある階段に並んで腰掛けて、一緒に食べたのだ。
あの日の菊池は、不思議なことに、千紗をちゃかしたりからかったりしなかった。親友みたいに、真面目に話を聞いてくれた。だから千紗も、素直にその時の気持ちを、菊池に打ち明けられたのだ。
明日、このワンピースを着た私を見て、菊池は思い出してくれるだろうか。何か、感じてくれるだろうか。
その晩、千紗はあれこれ思って心が乱れ、いつまでたっても眠れなかった。




