表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twinkle Summer   あたしが千紗だ、文句あるか5  作者: たてのつくし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/57

姉と弟 2

 さて、そんなある日のことだ。

 英語の長文問題と格闘し終えた千紗は、ふと空腹を覚えて顔を上げた。時計を見ると、もう一二時半を過ぎている。

 むっふふふ。思わず口元に笑みが浮かぶ。図書館に来たのは九時だから、今日の午前中は三時間以上勉強したことになる。お腹も減ってきたし、そろそろ帰るか。千紗は、手早く問題集をしまうと、荷物を持って立ち上がった。


 トイレにより、エレベーターではなく、階段を使って下りることにする。千紗はどうも、エレベーターが苦手なのだ。なので、トイレの奥に階段を見つけてからは、ずっと階段を利用している。

 朝も、重たい鞄を抱え、四階まで階段で上がる。息が上がるが、体中を血が巡って、むしろ頭ははっきりするような気がする。冷房の効いた館内では、汗もすぐに引くし、呼吸を整えて机に向かうと、不思議にすっと勉強に入れた。


 さて、ハンカチで手を拭き拭きトイレから出てきた千紗が、小さく鼻歌を歌いながら、三階に下りてきたときだった。

 広いフロアの奥の方から、何やらからかうような子供の声がする。あたりを気遣ってか、ひそひそと押し殺した声ではあるが、静まりかえった空間では、かえって響くというものだ。声の感じから、平和なやりとりではないのが、千紗にはわかった。


 どうしてだかわからないが、千紗は、本能的に嫌な胸騒ぎを覚え、そのまま三階のフロアに入って行った。声のする方に足音を忍ばせ、近づいて行く。本棚を盾にしてそっと奥をのぞき込むと、三人の少年が、自習机に向かっている伸行を囲んでいるのが見えた。昼時なためか、部屋の中はほかに人影がない。少年たちは、それを十分に承知し、そこにつけ込んで大胆になっているようだった。


「だから、夏休み帳はどうしたのかって、聞いてるだろうが」

「持って来いって言っておいただろう。早く出せよ」

 伸行は、参考書に向かったまま、置物のように動かない。 

「しばらく見かけないと思ったら、こんなところに隠れやがって。結構、探したんだからな。なんで、あっちの図書館に来なくなったんだよ」

「へ、逃げたんだろ、弱虫」

 耳障りな甲高い声を上げたのは、明らかに子分格と思われる小柄な少年だ。

「どこに逃げたって、こうやって必ず見つけ出されるだけなのに、ばかめ」

 口々に言いたい放題だ。


「おい、固まってねぇで、なんとか言ったらどうなんだよ」

 三人の中で一番体の大きな少年が、いらだったような声を出した。

「こんなのいいから、早く夏休み帳をだせっての」

 少年が乱暴に、机の上のノートや問題集を振り落とした。すると、それまで置物のようにじっとしているばかりだった伸行が、さっと身を翻して下に落ちたものを黙って拾うと、また元通りに腰をかけた。


「けっ、ちゃんと動けんじゃねぇか」

 少年たちは、小馬鹿したように笑うと、

「おい、どうすんだよ。お前が夏休み帳持ってこないと、俺らの夏休みの宿題、終わんないんだよ。わかってんだろ」

 と、再び机の上のものを振り落とした。


 今度は、伸行は動かない。動かない伸行を、ガキ大将が小突いた。すると、残りの二人がそれに続いて「おい、わかってんだろうな」といいながら、次々に伸行の頭を小突いた。小突かれた反動で、伸行の小さな頭が、右に左に揺れている。


 それを見た瞬間、千紗の目の奥がかっと熱くなった。もう、我慢できない。弟をいじめる奴は、あたしが相手になってやる。千紗は、目の奥の熱さもそのままに拳に力を込め、ゆっくりと一歩大きく踏み出そうとした。その時だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ