わーい、夏祭り 6
千紗は、長岡博と会話をしながら、頭の中では菊池のことばかり考えていた。さり気なくあたりを探しているのだけれど、いっこうに菊池の姿は見あたらなかった。ついでに言えば、今夜はまだ、鮎川さやかたちの一団も見かけていなかった。
「おお~い、見つかったぞ!」
先頭を歩いていた藤原が振り返って言った。隣で奈緒も、早く早くと両手で千紗たちを呼んでいる。それを見て、みんな人混みをかき分けながら走り出した。
藤原と奈緒が見つけた店は、見事なほど望み通りの店で、狭い露店のど真ん中に氷を削る大きな刃のついた機械を置いている。そして、昔気質な雰囲気を持つ店主が、ねじりはちまきでシュルシュルと音を立てながら、氷を削っては売っていた。
奈緖はイチゴ味、理沙と長岡博がメロン味、千紗は練乳、そして藤原と山崎が宇治金時を選んだ。全員買い終わると、去年みんなで集まったあの階段脇の小さな広場に移動して、ゆっくり食べることにした。
「確かにうまいな、これ」
「ほんと。おいしい」
「今度から断然こっちだな」
みんなが絶賛してくれるので、自分が作ったわけでもないのに、奈緒も千紗も得意でならない。
「そういえば、今日は鮎ちゃんたちを見かけないね」
本当は、菊池のことが知りたいくせに、千紗はそう言った。
「あれじゃない」
と、長岡博が言った。
「今日、港の花火大会をやっているから、確かそっちに行く約束していたよ、菊池たちと。だから、そっちに行ったんだと思うよ」
「え、マジで。あいつら二人で?」
藤原が驚いて言った。
「いや、なんかあの辺みんなで行くみたいだったよ」
「へぇ。でもなんで、それお前が知ってるの?」
変に高いテンションで山崎が言った。千紗には、彼が千紗と同じくらい、動揺しているように見えた。
「だって俺、塾のクラスが一緒なんだよ」
長岡博は、淡々と言った。
「しかし、よっくやるよなあ、あいつらも」
藤原は。例によって嫌みたっぷりだ。
「ま、お似合いなんじゃねえの。みーちゃんはーちゃんのグループ交際」
「まったそんな言い方して。藤原は言葉にトゲがあるんだよ」
山崎が言った。
「でも当たってるだろ。あの菊池って気取ってやがるし、鮎川はブリッ子だし。お似合いだよ」
それに対して、千紗と山崎が同時に何か言いかけて、結局黙り込んだ。山田奈緒も、千紗に何か言おうとしたが、結局もごもごして黙ってしまった。
千紗は、かき氷を一生懸命かきこみながら思った。鮎川のブリッ子は当たっているけど、菊池の気取り屋ってのは違うぞ。まあ、少しは当たっているところも、あるかもしれないけど。だからって、あんな風にライオン狸にずけずけ言われる覚えはないぞ。
千紗は、急に何もかもが、色あせてつまらなく思えた。夏祭りがなんだ。出店がなんだ。ロングスカートであろうがジーンズであろうが、そんなの、どっちでもいい話だ。そもそも、あたしはもう、はっかパイプなんぞ、ほしがる年じゃない。
一人、二人とかき氷を食べ終え、この後どうしようかと、みんなでだらだらしながら話していると、通りの向こうから、目玉ばかりがぎょろぎょろと目立つ、見覚えのある少年が、息せき切って走ってくるのが見えた。
こうやって改めて見ると、なんて貧相でやせっぽちなんだろう。机に向かって勉強ばかりしていないで、お日様にあたって、もっとしっかりご飯を食べるべきなんだよな。そんなだから、小さなことに神経をとがらせて、イライラしてばかりいるんだ。
千紗がそんなことをぼんやり思っていると、その少年は自分に向かって、なにやら大声で叫びながら手を振り始めた。弟のただならぬ様子に反応するように、千紗は空っぽのかき氷の皿を手にしたまま立ち上がった。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
伸行が、人混みをかき分け、やっと千紗のところに着いた。
「大変だ。お母さんが、具合悪いって、吐いちゃったんだ」




