表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twinkle Summer   あたしが千紗だ、文句あるか5  作者: たてのつくし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/57

もうすぐ夏休みだというのに その2

 問題の社会科テストの前日。

 それは期末テストの最終日前日であり、かなり疲れはたまっていたが、あと一晩頑張ればとりあえず試験地獄からは解放される、そんな日であった。


 千紗は鞄を持って教室を出ながら、さっき受けたばかりの数学のテストのことを考えていた。得意の数学は、千紗にとっての得点源。だから、勉強時間を多少犠牲にしても、数学のテストの前日はしっかり睡眠を取ることにしている。寝不足だと、ケアレスミスがあからさまに増えるからだ。ただ、しっかり寝ても、ミスはでる。油断は禁物だ。


 今回は得意の図形だったし、ケアレスミスさえしていなければ、まあまあの出来かなと、ぼんやり考えながら、階段を下り、下駄箱に向かった。ただ、昨日寝てしまったし、今日は相当頑張らないと、明日の社会がかなりまずい。これは、社会が不得意な千紗にとって、軽い拷問だった。


あ~あ、嫌だなぁ。テストなんて嫌いだ。社会のテストは特に嫌いだ。千紗は、川や山脈の名前、県庁所在地を覚える作業が、大嫌いなのだ。でも、今晩は逃げずに頑張らなければならない。

 千紗はため息を吐きながら、靴を履き替え、下駄箱に寄りかかって顔をしかめた。と、その時、廊下の向こうから、談笑しながらこちらに歩いてくる、菊池亮介の姿が見えた。


 菊池が見えた瞬間、千紗はドキッとして、下駄箱に張り付いた。張り付いたとて、自分の姿を隠すことは出来ないけれど。いや、そもそも、なぜ姿を隠さなければならないのかもわからないけれど、最近の千紗は、菊池を見かけると隠れようとばかりしてしまう。


 千紗は、クラスが違ってから、なぜか菊池と自然な会話をすることが、出来なくなってしまった。どういうわけか、変に力んでしまうのだ。だから菊池と話すときは、十分な心の準備が必要だった。そんな準備、出来た試しはなかったが。


 下駄箱と化しながら、そっと菊池を盗み見る。大股でこちらに向かって歩く菊池は、また少し背が伸びたようだ。

 不思議なことに、中学二年の夏休みを境に、多くの男子の背が急激に伸びた。そのせいで、夏休み明け、クラスで背の高い女子は、やたら男子と背比べをさせられた。女子の中で三番目に背が高い千紗も例外ではなく、色んな男子と背比べをさせられたものだ。


 菊池もその一人で、「ゴリエ、俺と背比べしようぜ」と頼まれて、背比べをしたのだ。結果、僅差で敗北したときは、小躍りする菊池に向かって悔しがって見せながら、内心はなんだかくすぐったいような気持ちになった。

 菊池は、千紗を抜くと、次に背の高い内海里佳を追い抜き、最後にはクラス一背が高い山田加奈子をも追い抜いた。

 そうやってどんどん背が伸びる菊池は、千紗より早いスピードで、成長してゆくかのよう見えた。もたもたしていたら、置いて行かれる。あたしもしっかりしないと、と、思う千紗だ。


 下駄箱までやって来ると、菊池は千紗に気がついた。

「あ、ゴリエだ」

菊池が、千紗を見てにやりと笑った。千紗の心臓がぴょんっと跳ねる。

「お、おう」

ぎこちなく片手をあげながら、どうしてこう、菊池を前にすると、男子みたいになっちゃうんだろうかと千紗は思った。これが長岡博にだったら、千紗が、ガキでもサルでもないと思う数少ない男子である長岡博だったら、千紗はもっと自然に、柔らかな返しが出来るというのに。その方がずっと千紗らしいのに。


 菊池は、下駄箱からスニーカーを取り出しながら、千紗を振り返り、

「ゴリエ、今日の数学、できた」

と、聞いてきた。

「う~ん、まあまあかな」

千紗は考えながら答えた。

「ケアレスミスさえ、していなかったらの話だけど」

千紗の返事を聞いて、菊池は、お、と言う顔になった。

「じゃあ、今回も競争すっか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ