表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twinkle Summer   あたしが千紗だ、文句あるか5  作者: たてのつくし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/57

一学期終了 1

「はい、静かに」

 担任のハンガー山本が、珍しく大きな声を出した。授業の終了を告げるチャイムはとっくに鳴り終わっているのに、教室の中は、もらったばかりの成績表を手に、いつまでも騒ぎが収まらない。

「静かに。まだ成績表をもらってない者、いたら手を挙げて」

「いませ~ん」

「宿題のプリントをもらってない者は」

「それは、いりませ~ん」

 教室にどっと笑い声が響いた。


 ハンガー山本も一緒になって笑っている。そして、笑い声が鎮まるのを十分に待ってから、ゆっくりと口を開いた。

「それじゃあ、夏休み中、事故やけが、病気に気をつけて。また九月に全員元気で会いましょう。はい、日直」

「起立!」

 日直が、この日一番生き生きとした声を上げた。ガタガタと音を立てて、クラス中が一斉に立ち上がる。

「礼」

「さようなら!」


 わっと、何かがほどけたようなざわめきが、教室に広がった。鞄を抱えて仲間と教室を飛び出す者、座って荷物の片付けをする者、仲良しとおしゃべりを始める者、どれもいつもの放課後の風景のようだけれど、やはりみんな、いつもよりテンションが高めだ。


 バラ色の夏休みが待っているわけでもないのに、そんなもんかねえ。皮肉のこもった目で教室を見回しながら、千紗はふふんと鼻を鳴らした。やっぱり中学生ってどこかまだ無邪気というか、子供なんだよな。柄にもなくニヒルを気取る訳は、先ほど配られた成績表がどーんと心に暗い影を落としているからだ。


 はあああ。千紗はついに我慢しきれず、ため息を漏らした。こりゃ、夏休みは背水の陣で勉強しないとまずいよな。ここで不屈のがんばりを見せないと、その後、もっと大きなため息をつくはめになるもの。

 千紗は、のろのろと荷物をまとめ、数人の友人たちと名残を惜しんだ後、いい加減、空腹を覚えて、中西理沙とともに教室を出た。


「さっちゃん」

「お~い、ゴリエ」

 その声を聞いて、千紗は思わず眉間にしわを寄せた。こんな風に自分を呼ぶのは、鮎川さやかと菊池亮介に決まっている。この二人がセットでくると、千紗にはろくなことがなかった。

「なに? 何か用?」

 千紗は、感情的になるなよと自分に言い聞かせ、菊池にというより鮎川さやかに対して失礼がないように、にこやかに振り返った。にもかかわらず、次の瞬間、がくっと膝をつきそうになった。


 目の前に並んで立つ二人は、なんてお似合いなのだろう。世の中には、見た目が不釣り合いなカップルというのもあるけれど、その点、この二人は嫌になるほどぴったりだ。実はそれほど背が高くない菊池なのに、さやかが華奢なせいか、いつもよりすらりとして見えるし、さやかも、浅黒く精悍な顔つきの菊池と並ぶと、スミレの花のような可憐さが際立つ。つまりこの二人は、並ぶことでお互いを引き立て合える、名コンビなわけだ。


 千紗はゆっくりと二人に歩み寄りながら、頭の中では忙しく、では自分が菊池の隣に立ったらどんな風に見えるだろうか、と想像した。さやかがスミレの花だとしたら、あたしはなんだろう。精一杯前向きに頭を働かせてみるのだが、良く言ってエリンギ、もっと言うと丸太ん棒か土管?くらいにしか、見えないような気がする。そうだ。細身の菊池と並んだら、あたしなんて土管くらいが丁度いい。


「おおお! 馬場猪木コンビは、体育以外でも健在か」

 菊池が、千紗と理沙を見比べながら、すでに充分に折れている千紗の心を、さらに踏みつけてきた。

「うるっせーな」

 千紗は、眉間にしわを寄せ、低く唸った。さやかの前で、こんな態度はとりたくなかったが仕方がない。


 馬場猪木コンビ。

 最近、中西理沙と二人で連れだっていると、ドアホな男子どもからよく投げかけられる言葉だ。いつもの千紗なら、笑って聞き流せる軽口だ。そもそも、この手のジョークをさらりとかわせないなんて、全く千紗らしくないことなのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ