引き出しの中の旧友
この作品は、しいな ここみ様の『瞬発力企画』のお題『コンパス』の参加作品です。
初めてキミに会ったのは、俺がまだ小学生になったばかりの頃だったかな。
親父が貸してくれた、ちびた鉛筆を挟み込む真鍮色した小さなコンパスだったっけ。
面白くって、色鉛筆なんかも挟んで、中心の針がズレちゃう失敗もしながら丸ばっかり描いていたっけ。
小学校では、先生が黒板にチョークを挟む大きなコンパスで丸を描くのを目を輝かせて見ていたと思う。
そのうち算数で使うようになり、図工で使うようになり、デザインの学校に入った時は髪の毛の10分の1という細い線で円弧を継いだりしていたっけ。
漫画を描く時にも使ってたなぁ。
今の仕事に就いてからは、文字通り、二人三脚で仕事をしてきたね。
楽しい時も、つらい時も、キミはいつも傍らにいて仕事を手伝ってくれた。
いつか、図面はコンピュータが描くようになり、円も楕円もパソコンで描けるようになった。
俺もかなり粘ってはいたんだけど、時代の波には抗えず‥‥。
いつ頃からか、キミを引き出しの中に置き去りにしたままにしていたね。
この企画のお題を見て、キミのことを思い出して引き出しを開けてみる。
キミは変わらない姿でそこに居てくれた。
いや‥‥。お互い、少し古びちまったかな。
久しぶりにキミの仕事を見せてくれ。
みんなにも見せてやろう。
なに、2Bの芯でワトソン紙に描いた、ただのまるだ。
ただの‥‥ ま る
了