第7物語り ミカー
目もくらむような閃光が辺りを包み、視界が奪われているというのに、ガブリーとミカーは激しい攻防を繰り広げていた。
驚くべきは、その攻防が全て魔法で行われているということだ。
2人が居た場所は、緑豊かで自然に囲まれた土地だった。
今では見るも無残な姿へと変貌している。
荒地。と呼ぶのがふさわしいその地で起きた戦闘は、激しさを物語っていた。
「腕をあげましたね。堕天使ちゃん」
「アナタは腕が鈍ったんじゃない?」
ミカーが白い羽を針のようにして飛ばすのを、ガブリーは優雅に風を巻き起こして防いでいた。
「ホントにイラつきますねぇ。あなたなんていなくなればいいのに。我らの創生主である神人種をなんとも思わないなんてどうかしてます!」
ミカーが風で吹き飛ばされた羽を再び動かす。
羽はガブリーが巻き起こした風を上手に回避して、ガブリーを包み込んだ。
「さようなら。堕天使ちゃん」
ミカーの目が意地悪く光る。
「別に神人種をなんとも思っていないわけじゃないけどね。ただ面白い人類種がいただけ」
包み込んだ羽から無理やりに抜け出てガブリーが言う。
全身血だらけだ。
「おやぁ? 魔法を使わずに抜け出したんですか?」
ミカーがにたぁ。と笑う。
「命を粗末に扱うからこんな低級魔法にすら打ち勝てなくなるんですよ。あなたがしていることは命の冒涜ですよ?」
無理やりに抜け出たガブリーに向かって、ミカーが再び白い羽で覆おう。
「ほら。さっさとこんな低級魔法打ち消してごらんなさいよ」
本来であれば、ミカーの言う通り簡単に打ち消せる程度の魔法である。
「本当にごちゃごちゃとうるさいね……」
ガブリーは白い羽に包まれながら、その体の周囲を赤く染め上げていた。
まるで、白い羽が赤く染まっていくようだった。
「ようやく本気を出しますか」
その様子を見てミカー戦慄する。
ガブリーの周囲が赤く染まったかと思ったら、急激に周囲の温度が上昇した。
「思考停止野郎はここで焼かれ死ね」
ガブリーの目が赤く光り、熱波がミカーへと向かう。
「熱波を操りますか……」
その様子を見て、ミカーが呟くとガブリーが、先ほどのミカーの言葉の意味を訊ねた。
「ワタクシのどこが命を冒涜しているというのかな?」
「あなたの作品は、あっちの世界とこっちの世界。その両方に1つの魂が存在するというもの。1つの魂が2つ存在することになるんですよ? こちらに新たな命を作ろうとでもしましたか? それではまるで神人種ではないですか。あなたは神人種にでもなったつもりですか? これを命の冒涜と言わずになんと呼ぶのですか」
ミカーが寒波を出して熱波と相殺する。
「ワタクシは違う! ただあちらの世界からこちらの世界に移動できないか試したかっただけ!」
「空間の移動ですって? 神にでもなったつもりですか!」
ミカーは激しく怒り、ガブリーの上空から雷を落とした。
雷はガブリーに直撃し、空を飛んでいたガブリーを地上へと墜落させた。
「神が神人種を作った。そして神人種が私たち他種族を作った。あなたは何様ですか?」
ミカーの呟きはドサリと地上に落ちたガブリーに届いていたのかは不明だった。
しかしミカーにはそんなことはどうでもよく、更に続けた。
「神になれなかった堕天使ちゃん。さようなら」
ミカーが大きな羽を振り上げて、そのまま振り下ろすと空気でできたギロチンがガブリーに向かって振り下ろされた――