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第3物語り ガブリー

「またですか!」

 エンドリアの中枢で、ワーム族の秘宝を手にした敵に向かってカーズローが叫ぶ。

 周囲に唾をまき散らしながら叫ぶので、敵は秘宝を上に持ち上げていた。

 ぞろぞろと中枢へ戻ってきたワーム族は、敵を崇めるように頭を垂れる。

 まるで、敵が秘宝を上に掲げて自分が族長だと主張しているようだ。

「この秘宝を手にすれば他の種族でもワーム族の族長になれる。どうやらあの者が言ったことは正しかったようですね」

 認めたくなさそうにカーズローが言う。

「人類種の言葉を話せる個体はいるか?」

 先ほどのカーズローの、またですかをスルーするように敵は群がるワーム族に話しかけるが反応はない。

「こういう時のためのあの者ではないのですか?」

 カーズローが蒸し返す。

 ガブリーが暇をもらったことが納得できないのだ。

「それもここ最近多すぎます。何か悪だくみでもしているのではないですか?」

 カーズローが憤慨する。

「もしそうなら全力で倒すまでだ」

 ふっ。と敵が余裕の笑みを浮かべる。

 それに。と付け足した。

「あいつのこと信用してないんじゃないのか?」

 にやり。と敵が意地の悪い笑みを見せる。

「信用はしていません。ですが、使える時には使わなければ! 我々人類種は今までもそうやって生き残ってきたのですから」

「俺はあいつの情報は信頼しているよ」

「敵殿。1つ聞きたいのですが、何をそこまで信頼させるのですか?」

 身振り手振りで、ワーム族をひれ伏させながらカーズローが問いかける。

 どうしてもカーズローには、そこまでガブリーに対して全幅の信頼を置けないのだ。

 ガブリーの性格もその原因だろうが。

「そうだな……他種族なんて駆逐の対象でしかない、こんなくそみたいな世界において、俺とガブリーは何度も戦った」

「えぇ。今でも覚えていますよ。機械族のテリトリーにいきなりやってきた時には死を直感しましたからね……」

 そう言いながらカーズローは機械族のテリトリーでガブリーと対峙した時のことを思い出していた。


 ●


「こんにちは。鉄くずどもと生きている価値のない種族」

 大きくて真っ白い羽を広げながら、ガブリーが深々とお辞儀をする。

 その登場のせいで、隠れ潜んでいた敵とカーズローは機械族に見つかってしまった。

 ここには、文字通り鉄くずがそこら中に落ち散らばっている。

 そのどれが機械族でどれが本物の鉄くずなのかを見分けるのは至難の業だ。

「またお前か……」

 機械族にバレたことと、何度も見た顔に敵は苛立ちを隠せないようだった。

「知っているのですか?」

 天使族の知り合いがいることに、カーズローは素直に驚いた。

 そして驚愕する。

 この場に機械族がいることは当然だが、天使族が敵となって現れたとなると、命はない。と。

「あぁ。何度も俺の邪魔をするくだらん堕天使だ!」

 敵が腰に備えた剣を抜いて、ガブリーに切りかかる。

「キミたちは単純だねぇ」

 クスクスとガブリーが笑う。

「あの時もそうだったよね。ワタクシと初めてお会いした時も」

 今度はガブリーが、敵と初めて出会った時のことを思い出していた。


 ●


 穏やかな風が吹く草原で、敵はたった1人身を潜めていた。

 何者かの気配を察知したからだ。

 もうじき日が暮れる。

 今夜は月が出そうもないので、頼れるのは星灯かりだけになりそうだ。

 そうなる前に、気配の正体を掴んでおきたい。

 敵が焦るが、そんな敵をあざ笑うかのように正体は現れてくれない。

 一瞬、辺りが暗くなったことで敵の集中が途切れる。

 いや、正確には敵の注意が暗くなった原因の方へ向く。

 上空に大地が浮かび、影を落としてたのだ。

「大地族だと……しかもでかい……」

 敵は草陰に身を潜めて大地族をやり過ごした。

 ほう。と安堵の息を吐く。

 先ほどの気配の正体はこれだったのか。と気を抜いた瞬間、背中に鋭い痛みを覚えた。

「こんにちは。生きている価値もない種族。そしてさようなら」

 敵の目の前に現れたガブリーは、正に天使そのものだった。

「天使族だと? 俺たちの言語まで話せるとはかなり個体種が上位のようだな」

 腰に受けた痛みは、魔法による刃だと推察した敵は、すぐさまにガブリーとの距離を縮めた。

「単純……おや?」

 ガブリーは何かに気づいたみたいだが、それに気を取られている暇はなかった。

 敵の攻撃は今までガブリーが戦った、どんな種族よりも速くて正確だった。

 しかし――

「人類種は空を飛べないからねぇ」

 フワリとガブリーが宙に浮く。

「あぁ。そうだな」

 そんなガブリーを見て敵がニヤリと笑う。

「バカな!」

 ガブリーが絶句するのも無理はない。

 なんと空中にロープが仕掛けてあったのだ。

 敵はガブリーと戦いながら、宙にロープを張りガブリーの退路を断っていたのだ。

「俺と戦えば絶対に空を飛ぶだろうと思っていたぜ。じゃあな。生きる価値のない種族」

 ガブリーはクモの巣にかかった虫のごとき、身動きが取れない。

 大きな羽もここでは仇となった。

「この借りはでかいですよ!」

 小さなポン。という音がしたかと思えば、その場にガブリーはいなかった。


 ●


「あの時みたいにまた空間魔法で逃げるか?」

 相変わらず、敵の攻撃は速くて正確だった。

 ガブリーが避けるであろう箇所を先読みしてそこに切りかかる。

「ワタクシと何度戦ったと思っているのですか? ワタクシがキミの戦いに慣れないとでも?」

 ガブリーが余裕のある言い方をするが、敵もまたそれは同じだった。

「魔法とやらを使わないのか?」

 にやりと敵が笑う。

 敵は知識として知っている。

 魔法の論理を。

 1つ。魔法は集中しなければ使えない。

 1つ。魔法は魔力がなければ使えない。

「カーズロー! 機械族を止めておけ! ここでこいつを狩る!」

「キミは本当に面白い。ワタクシに勝てると思っている……」

「お前こそ。俺に勝てると思ってるのか?」

 敵が宙に浮かぶガブリーにジャンプしながら切りかかる。

 その勢いのまま、ガブリーを地面に叩き付ける。

「他種族なんて駆逐の対象でしかない。こんなくそみたいな世界で、お前らは何の目標もなく生きている! くその中のくそだな!」

「ワタクシがくそだと?」

 地面で組み伏せられながらガブリーがわなわなと震える。

 大きく広げた羽がぴくぴくと動く。

「あぁ。くそだ! 殺戮しか能がないくそ天使さんよぉ! 聞いてみたいもんだね。生きる価値もない魔力を持たない人類種は、どんな理由で駆逐されるのかをよ!」

 敵がガブリーに留めを刺そうとした瞬間、ガブリーは敵ごと空を飛んだ。

「ここでお前を殺せば俺も死ぬってか? そんなんで俺がためらうと思ったのか?」

「家畜……」

 ボソリと言ったガブリーの言葉に、敵は手を止めた。

「全ての種族は家畜。そういう考えがかつてあったのをご存知ですか?」

「あぁ。神人種の考えだろ?」

「この世は理由もなく種族同士の争いが繰り広げられています。キミはそんな世の中をくそみたいな世界だと言った」

「あぁ。目標もなくただ日々を過ごすのは退屈だ。理由もなく争っているならそれは退屈を紛らわしているだけだろ? 俺の目標は全ての種族の統一だ。そのためにはまず世界中に散らばってしまった人類種をまとめ上げる必要がある。俺には壮大な目標がある。お前にそれがない限り、お前はくそだし俺には勝てん」

「理由があれば負けないと……その道理は理解できないけどキミの言うことも一理ある。キミがこの世界をもっと面白いものに変えてくれるというならば、このガブリーが手を貸しましょう」

「はぁ? 何言ってんだ? お前は今俺に殺されかけてるんだぞ?」

「ワタクシが死ねば、この高さからキミは墜落するよ? それにこの世界がくそみたいな世界だというのはワタクシも思っていたところ」

「脅しのつもりかよ!」

 敵がガブリーの背中を剣で刺す。

「いいえ。世界を変えたいという思いは一緒ですよ? ただワタクシは思っていただけ。キミはそれを行動に移していた。ただ他種族を殺していたイカれたやつかと思ったらそうではなかった」

 くるりをガブリーが敵の方を向く。

 今2人は、物凄いスピードで上昇している。

「ワタクシの気持ちが本物であることを証明しようじゃないか」

 はるか下でカーズローが複数の機械族と戦っている。

「これを」

 小さな光の玉をガブリーは敵に渡す。

 玉は敵の体の中に入っていく。

 すると、玉はガブリーの幼き頃の記憶を敵に与えた。

 戦いに明け暮れて心を痛めるガブリー。

 仕方なく戦いを繰り返すガブリー。

 心を殺すガブリー。

「この玉は、ワタクシの感情です。今のワタクシの感情もわかるでしょう?」

 ガブリーは今、機械族と争うことで悲しんでいた。

 本当は争いなんてなくしたいと、心から願っていた。

「その玉がキミの体の中にある限り、ワタクシはキミに嘘がつけない。さぁ、終わりにしよう。キミの仲間が危ない」

 その場でガブリーは雷を発生させ、カーズローに群がる機械族をせん滅した。

 その姿は天使なのかどうか――

 ガブリーは問う。

 ワタクシはくそですか?

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