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キミだけが知らない物語り  作者: shiyushiyu


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第10物語り カーズロー

 月のない夜。

 星灯かりもなければ街灯もない。

 暗闇の世界とはこのことを言うのだろう。とカーズローは、何も見えない空を見上げながらぼんやりと考えていた。

 世界は混沌としていて、人類種は絶滅の危機に立たされている。

 その大きな要因は、魔力がないから。

 他種族との戦いで優位に立てないのだ。

「剣の腕なら負けねぇーのになぁ……」

 ボソリと呟いた言葉も虚しく、辺りには誰も反応してくれる人はいない。

 人どころか、生命体が存在しているのかすら怪しい。

 かつては、繁華街として栄えたこの地も、虫人種の侵攻によって跡形もなく滅ぼされてしまった。

 しかも襲ってきた虫人種は、人類種を食糧とするマンイーターバグ族だった。

 巨大なカマキリのような姿をしたそのモンスターに、人類種は為す術なく滅ぼされたのだった。

 せめて襲われた時に、鳥人種などが近くを通りかかっていれば、マンイーターバグ族を食べてくれたかもしれないのに。とカーズローは嘆いた。

 いや。そもそもこんな世界で他種族に助けを求めるなどあり得ない。

「自分にもっと力があれば……」

 人類種の中でも強い方だと自負しているカーズローだが、虫人種にすら勝てないことに後悔をせずにはいられなかった。

「いつまで嘆いているつもりだ?」

 そんなカーズローに声をかける人物がいた。

 敵だ。

「なぜ、助けてくれなかったのですか?」

 分かっている。

 これは八つ当たりだ。

 悪いので全て己の非力さゆえだ。

 敵がやってきた頃にはもう、マンイーターバグ族は撤退していた。

 しかし、それでも人類種最強と呼ばれる敵がいたならば、自分の家族や友人を助けられたのではないか? と思ってしまう。

「剣の腕が立つそうだな。その腕で世界を救うぞ」

 ――今なんと言った?

 カーズローは耳を疑った。

 あろうことか、人類種最強の敵は、仇を討つのではなく世界を救うと言う。

「ふざけるなぁー!」

 カーズローは、自信への怒りと敵への怒りの全てを込めて叫んだ。


 

 カーズローが剣で切りかかるのを、敵はいとも簡単に避ける。

 しかしカーズローも弱くはない。

 避けられるのは計算の上だ。

 カーズローの上から下への切りつけを、敵は右に回避した。

 カーズローはそのまま剣の軌道を左へと移動させる。

 つまり、避けた敵を剣が追う形となった。

 三日月の軌道が闇夜に光る。

「本当に剣の腕が立つようだな」

 感心したように敵が言う辺り、まだまだ余裕なのだろう。

 そんなところがカーズローにとっては腹立たしい。

「それほど強いというなら!」

 剣を左下に切り終えたカーズローは、切っ先を上へと返して、すかさず右上へと切り返した。

 反撃してくる敵に、攻撃の隙を与えるつもりはなかった。

 右上へと切り上げた剣は、顔の高さで停止させいつでも敵のことを突き刺せる構えを取る。

「世界を救のではなく、人類種を救ってくださいよ!」

 これを突き刺したら、人類種最強は死ぬかもしれな。

 人類の希望が居なくなるかもしれない。

 それでも――

 カーズローは、顔の高さで構えた剣で敵を突き刺す。

「見事な剣捌きだ」

 なんと驚いたことに、敵は人差し指と中指だけでカーズローの斬撃を止めていた。

 真っすぐにカーズローの剣先を見つめたまま、敵が話し続ける。

「人類種だけを救うことはできない。この世界を救うんだ。それがひいては人類種を救うことに繋がる」

「訳のわからないことを!」

 力任せに剣を引き抜こうとするが、敵に捕まった剣はびくともしない。

 そこでカーズローはある噂を思い出した。

 人類種最強の敵は、魔法が使える――

「魔法……ですか」

「正解だ」

 パッ。と敵が剣を放す。

「剣の腕が立つだけじゃ世界を救えん。魔法が使えなくても知識を身に付けることはできる」

「……仰っている意味は理解できます。が、自分と剣技のみで戦っていただけませんか?」

 カーズローは、自分の剣技が敵にも通ずるという確信があった。

「いいだろう。俺が勝ったら大人しく俺の言うことを聞いてもらう。お前が勝ったなら何でも言うことを聞こう。魔法は使わない」

 敵が落ちていた木の棒を拾う。

「バカにしているのですか?」

 真剣に対して木の棒で戦おうとする敵を見て、カーズローがいら立つ。

「すぐに分かる」

 敵が素早くカーズローの懐に飛び込む。

「!」

 ギリギリで反応するも、剣が長すぎて柄の部分で棒を防ぐ形となった。

『あれが真剣だったなら指を切られていた……』

 ジンジンする指の痛みを我慢しながら、カーズローはそんなことを考えていた。

 カーズローがそう思うように、敵の棒によってカーズローは指を叩かれていた。

「長物相手ならば懐に飛び込めばほぼ勝ちだ」

 カーズローの剣の柄を力任せに敵が押し込む。

 体勢的にも力の入れ具合的にも、敵に部がある恰好だ。

 グンッ。と敵が一気にカーズローを押し込み、そのまま後ろに倒す。

 しかしさすがのカーズローも体幹がしっかりしているので、よろける程度で転びはしなかった。

 しかし、敵の場合はそれで十分だった。

 カーズローの目と鼻の先に棒を突き付ける。

「な? 俺の勝ちだ」

 カーズローは素直に負けを認めた。


 ●


 敵と行動を共にして改めて分かったことがある。

 敵にはカリスマ性がある。

 以前戦った時、カーズローは敵が手にした木の棒を切れと言われたが、太すぎて切れなかった。

 敵は、それすらも計算にいれた上で戦っていたのだと言う。

「勝つべくして勝っているのですね」

 素直に敵の凄さを褒めたが、敵は戦いは決断で決まると言った。

「いくら予め準備をしていても、相手が必ずその通りに行動してくれるとは限らない。何通りものパターンを予測するよりも、その瞬間に素早く自分が決断できるかがカギだ」

「しかしその決断が間違っている場合もあるのではないでしょうか?」

「間違っていたら、すぐにまた決断すればいい。どうやって修正をするのかを」

 さも当然かのように敵が言うが、それができれば苦労はしない。

「それは幾千もの死線をくぐり抜けてきた敵殿だからできる芸当だと思います」

「ならばこれからは、たくさんの死線を共にくぐろうじゃないか」

 手を差し伸べて改めて敵が握手を求める。

 カーズローは思った。

 この人には、上に立って私利私欲にまみれたり弱者から吸い取るような野心がないのだと。

 純粋に世界を救い、人類種を救おうとしているのだと。

 だからこそ。カリスマ性があり、不思議な魅力があるのだ。

 この人ならばもしかしたら。

 そう可能性を信じずにはいられなかった――

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