【漫才】女子大生キョンシーの体験入部放浪記
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風に!」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「唐突だけどさ、蒲生さん。学内公認サークルの二次勧誘がボチボチ始まったね。」
ツッコミ「ボチボチって…キョンシーの貴女がボチボチと言うと、墓場を連想しちゃうなぁ…」
ボケ「そんな事言いなさんな、蒲生さん。漫才は捗捗しく進めていこうよ。」
ツッコミ「それ、絶対わざと言ってるでしょ?確かに前期日程の講義にも慣れてきた今の時期になると、『やっぱりサークルに入りたい!』って思う人は多いからね。」
ボケ「まあ、私としては色んなサークルを体験入部出来るから有り難いんだけどね。部費も払わなくて良いし、部員の人達も皆優しいし。」
ツッコミ「成る程、要するに冷やかしか。」
ボケ「そりゃ私はキョンシーだからね。体温なんか完全に冷めちゃってる訳だし。」
ツッコミ「そう言う事を自分で言ってちゃ世話がないよ。それで、どんなサークルに体験入部してきたの?」
ボケ「よくぞ聞いてくれました!体験入部で最初に行ったのは、確か中国拳法部だったかな。」
ツッコミ「そりゃまた随分とアクティブな所に行ったね。貴女にそんな体育会系な所があるとは、私も思わなかったよ。」
ボケ「だって校門の所でスカウトされたんだよ、私。『もしかして、拳法みたいな中華圏の文化に興味があるんですか?』ってね。」
ツッコミ「そんな格好してたら誰だってそう思うよ。貴女位だよ、こんな清代の満州族みたいな格好で通学しているのは…」
ボケ「おっと残念!今日は明代の儒者を意識したコーディネートなんだ!だから満州族じゃなくて漢族だね。」
ツッコミ「清から明って…王朝が一つ古くなってるじゃないの!でも体験入部って事は、最終的には拳法部には入らなかったんだよね?」
ボケ「私としては割と楽しかったんだけどね。でも部長さんや顧問の人と話し合った結果、方向性の違いで…」
ツッコミ「ロックバンドの解散理由じゃないんだから…だけど私、貴女が入部しなかった理由が大体分かったよ。腕を前に突き出しているから、拳法の型を出来なかったんだ。」
ボケ「失敬な!これでも正拳突きとか蹴りとか、色々出来るんだよ。」
ツッコミ「わざわざ型を披露しなくて良いから!だけど貴女、よく身体が動くね。死後硬直で関節がガチガチになっているんじゃなかったの?」
ボケ「死後硬直だって緩むよ、こんなに温かくなったんだし。まあ、カルシウム取り過ぎたらまた固まっちゃうけど…」
ツッコミ「煮干しとか食べ過ぎたらアウトじゃん…だけど貴女、なかなか良い筋してるじゃない!」
ボケ「拳法部の勧誘の人にも言われたよ。『もしかして経験者ですか?』って。自慢じゃないけど、まだ生きていた頃に少しね。」
ツッコミ「へえ、貴女に武道の心得があるとはね…ちなみに何処で習ったの?」
ボケ「聞いて驚かないでよ、蒲生さん…それはズバリ、漫画雑誌の裏表紙に広告を載せていた通信教育!」
ツッコミ「それ、そんなに威張れないよ!にしても通信教育とは随分手軽に済ませたね…」
ボケ「あの時は、途中で飽きてギター教室に鞍替えしちゃったからね。通信教育の続きを拳法部で教わろうと思ったんだけど…」
ツッコミ「だけど、方向性の違いから入部には至らなかった。そりゃまた何故?」
ボケ「試合に出られないから駄目だって。男子の部と女子の部はあるけど、死人の部の試合は開催されてないんだ。」
ツッコミ「そりゃ参加者を集めるまでが大変だもの。」
ボケ「その次に行ったのが華道部だけど、ここは私の方でギブアップだったの。」
ツッコミ「どうして?華道なら供花という意味合いでも、キョンシーの貴女に似合いそうだけど…」
ボケ「それが桃の枝を生けようとしている人がいたから、怖くなっちゃったんだ。桃の木で作った剣だと、キョンシーの私には物理ダメージが入っちゃうからね。」
ツッコミ「大丈夫だよ、華道部には道教の道士なんていないから。」
ボケ「それから料理同好会にも行ってみたんだけど、魚の血抜きが始まったので回れ右をしちゃったんだ。」
ツッコミ「へえ、意外だね。魚が捌かれるのを『可哀想…』と思っちゃうタイプ?」
ボケ「ううん、違うよ!魚から血がドバドバ流れるのを見ると、思わず『美味しそうだな…』ってなっちゃってね。」
ツッコミ「うわあっ!そっち?そんな所でヘマトフィリアが発動しちゃうの?」
ボケ「えっ、トマトドリア?」
ツッコミ「ヘマトフォリア!血液に執着する人の事だよ。まあ、貴女の場合は体質もあるから仕方ないけど…」
ボケ「それからチアリーディング部も覗いてみたんだけど、みんな血色が良くて健康そうだからね。私みたいに真っ青な顔色の人は一人もいなかったよ。」
ツッコミ「そりゃ貴女は死体だからね。健康とか以前の問題だもの。」
ボケ「私の顔色だとチアはチアでも、チアリーディングじゃなくてチアノーゼなのかな。」
ツッコミ「またそんな事言ってる…言っちゃ悪いけど、元気一杯なチアの子達の中にキョンシーの貴女が入ったら流石に浮いちゃいそうだよ。」
ボケ「流石の私も、まだ浮く事は出来ないなぁ…進化して飛殭になれれば、空中浮遊も飛行移動も自由自在だけど。」
ツッコミ「えっ?キョンシーって進化すると、ゴースト・ひこうの複合タイプになるの?それじゃモンスターを連れてバトルさせるゲームだよ。」
ボケ「その理屈で言うと、道教の道士みたいにキョンシーと一緒に戦う人はキョンシートレーナーと呼べるね。蒲生さんさえ良ければ、私のトレーナーになってくれて構わないよ。」
ツッコミ「いやいや、私はトレーナーにもテイマーにもならないし、キョンシーバトルを運営するジムもリーグも日本にはないから。それで結局、サークル入部の話はどうなったの?」
ボケ「色々あったけど、最終的には国際交流協会って所に籍を置く事になったんだ。あんまり顔を出さなくても大丈夫みたいだから、講義やバイトとの両立も出来そうだし。」
ツッコミ「確かに貴女の場合は、運動部より文化系の方が無難かも知れないね。」
ボケ「それに活動目的は留学生の相互扶助と多文化共生だから、台湾からの留学生である私にはうってつけかと思って。」
ツッコミ「貴女の場合は台湾だけじゃなくて、清代と冥府という別の文化要素も入っているからね。」
ボケ「さっきも言ったけど、今日の私は清代じゃなくて明代の儒者を意識したコーディネートだからね。」
ツッコミ「うわあ、まだ言ってる!」
ボケ「大事な事だから二回言いました。」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」