一瞬の交錯
「……榊圭吾、彼はここに相応しくないのよ」
あんなふざけた能力名を恥ずかしめもなく言い放った男を見ながら私は呟く。
そもそも、異能対策委員会はこの第三都市の目玉と言ってもいいほど有名で、委員会に入るためだけにここに進学する人間が多い。なのにあんなパッとしない男が選ばれるなんておかしい。最底辺のEクラスだとしてももっといい人材がいたはずよ。まぁ、いいわ。ここで彼を完膚なきまでに叩き潰して、私の強さと彼の無能を証明してあげるから。
「おお、意外とデケェな」
呑気に感想を言っているあいつが代表だと思うと何度でも苛立ちが再燃する。しかし、彼が持っている武器を見ると怒りが一周してもうなんとも思えなくなった。
「ふざけてる」
思わず呟いてしまったこの言葉は紛れもなく確信を持っていた。今までの気に食わないと言うだけの気持ちではなく、この榊と言う男が持っているどこか達観しているような、それとも舐めているような雰囲気を感じ取ったからだ。それはどうやっても真剣な人間からは出てくるはずのないものだから。
「あぁ、これ?いやぁ、武器とか使ったことないからさ、これだったら野球で使ったことあるしちょうどいいと思ってな」
男は何食わぬ顔で自身が持っている一般的な長さの金属バットを見せてくる。全体を見ると腰にはスモークグレネードが着いているのか確認できた。勝負を投げているわけではないことが伺えるがそれでも違和感を覚える。
「そんなことよりさ、さっさと始めようぜ。決闘。俺は今日大事な用事があんだよ」
「……わかったわ。始めましょうか」
目線を観客席に向けると相田先生と委員会の先輩方が揃っていた。私が手を挙げて準備OKの合図を出すと先生がマイクをとった。
「準備できたみたいだしお互いそこにある赤い線まで下がってくれ。よし、お互い位置につけたな。じゃあ少ししたらブザーをならす。それまで動くなよ」
そう言ってマイクがオフになる。そしてこの白い空間は自身の息遣いの音と、目の前にいる憎たらしい男が映る映像のみが私を包む。この静かさも一瞬だろう。
彼の能力は聞いたところだと五感の拡張と行ったところ。本当のことを言っていたらだけど。まぁ、でも純粋にMAXまで加速すれば私は時速二百キロまでいける。普通の人間が少し五感を優れさせたところで問題ないわ。
ブザーがなった。
加速全開放、あいつの右斜め後ろに強襲よ。スモークなんてたかせる暇はないわ。よし完全に背後を捉えた。あいつはまだバットを構えただけ勝ったわ――
――目が!これはフラッシュバン……!なんで……
「起きたか、柏木」
気がつくと私はベットに横たわっていた。
「あいつが容赦なく頭を殴ったからな、一応治療は終わったが頭に違和感はないか。記憶が飛んでるとか」
何も思い出せない。どうやって負けたのか。なぜフラッシュバンあったのか。そしてなんで私の攻撃を避けれたのか。目が見えなくなったとしてもあそこまで体は動いていた。もう止まらなかったのだ。だから、あのままあいつの後頭部に剣が当たっていたはずなのに。
「……違和感はないです。でも、あいつはどうやって私の攻撃を避けたのかわかりません。そしてなんでフラッシュバンを持っていたのかも」
私が疑問を投げかけると先生は少し困ったような顔になった。
「いやあのフラッシュのあと、柏木の攻撃は見事に榊の後頭部に直撃したよ。パックリ傷が入って血もドバドバ出てた」
「え……じゃあなんで……!」
「あいつ、榊は攻撃を受けたそのまま怯むとか痛むとかなく、一直線に柏木の頭に向かってバットを振るったんだ。たぶん能力であらかじめ痛覚を切ってたんだろうな」
「……っ!だとしても、どうしてフラッシュバンをもっていたんですか!それになんで近づいてきたタイミングがわかったのかも」
「それはな……どうやってタイミングを取ったのかは俺もよくわからんが、フラッシュバンはな、あのスモークグレネードの中に忍ばしてたんだよ」
スモークはブラフだったってこと……うそ、だって私もスモークが最適解だと思ったのに
「わかるぞ、スモークは【加速】の対処法としては定番だ。だから柏木は速攻を仕掛けたんだろ?」
「はい」
そうなのよ。速度に対処できなかったり、自身の能力の邪魔にならない限り、スモークを焚くことで居場所をくらませるのが定番。なのになんでフラッシュなの……!
「あいつはお前が武器庫から出て行った後すぐに工作を始めた。はなっから使う武器を決めてたのかもな。それで俺がどうしてフラッシュなんだって聞いたら、あいつ『柏木さんは近接で速攻で倒しにくるから』ってさ。確信してたよ。お前が近接で来るって」
「どうして……!」
「そこら辺は榊に聞けよ。まぁ、今日は用事があるっていって、治療終わったらさっさと帰っていったけどな」
「……そうですか」
一体何者なの、榊圭吾。彼は何を見ているの……