私はあの日に戻りたい
いつもお読みいただきありがとうございます!
「聖女様には、まだお子様ができないのか」
「もう結婚して三年目だ。側室を入れるしかないのでは?」
「そうなるとやはり最有力候補はジョゼフィーン嬢だろうか」
「いいや、王太子殿下は最近クララ嬢を気に入っておいでだ。この前も夜会で話しておられた」
「クララ嬢はただの男爵令嬢ではないか。側室としてふさわしくなかろう」
「しかし、聖女様だって平民出身だ。だから高位貴族のジョゼフィーン嬢よりもクララ嬢との方が争いも少なくて済む」
「そもそも王太子殿下はジョゼフィーン嬢に見向きもしない。やはり聖女様のようにマナーのなっていない、あーいや……明るくて天真爛漫な方がお好きなのか」
通り過ぎようとしたが、なぜか足が止まってしまった。立ち止まったら後悔すると分かっているのに。
「やれやれ。結婚の時も思ったが、王族にとうとう貴族ではなくただの動物の血が混じるとは」
「魔王軍や魔物の襲撃で被害があったのだから仕方がなかろう。それに聖女様は英雄で民衆に人気があるのだから男爵令嬢と同列に扱うのはどうなのか」
「しかし、あんなマナーのなっていない妃で我慢しろと? この前の夜会でもちゃんと見ていたのか? ドレスの裾を踏んでみっともなく転びかけ、肉を山盛りで食べていたではないか。なんてはしたない」
「しかし、聖女様は見た目はいいではないか」
たまたま散歩中に庭で貴族たちの会話を聞いてしまった。
振り返ると私付きの侍女が震えていた、怒りで。彼女は神殿派の貴族家出身だから私の味方……いや聖女の味方だ。
「行きましょうか」
「聖女様。あの者たちには」
「そうね、あの者たちの腰痛や風邪は治さないようにしましょう。転んだ怪我もね。神殿に通達しておいて。重病・重傷なら相場の四倍で」
「はい」
部屋に戻りながら大股になっていることに気付いて、歩幅を小さくする。
バカみたい。なんで大股で歩いちゃいけないのよ。そっちの方がたおやかで優雅だから? 命の危機に瀕したら誰だって走るでしょ。私たちが魔王を倒す前までは、魔物が出たらみんな走って逃げ惑ってたでしょうが。
私はバカだ。
どうして王太子と結婚なんてしてしまったんだろう。
魔王を倒した後、転移によってみんなボロボロでお城に戻って。
その時に王太子であるテオドールに求婚されて舞い上がったのはもちろんある。私は恋人いない歴=年齢だったもの。神殿ってむさ苦しいか欲深いおじいちゃんしかいないのよ。綺麗でキラキラしたテオドールが跪いて求婚してきて、断る選択肢なんてないわよ。
でもよく考えたら、テオドールって私たちが命懸けで魔王と魔王軍と戦ってる間ぬくぬくこのお城で美味しいもの食べて待ってただけよね? ふっかふかのベッドで寝て。そりゃあお仕事もしてただろうけど。
補足すると、テオドール=勇者ではない。勇者ヘルムートは聖女である私と同じ平民だった。
貴族出身だったのは、魔法使いコレットと戦士ベルトラン。コレットは下級貴族だったからほとんど平民と変わりなかった。口も悪いのよ、彼女。
ベルトランは高位貴族だが、嫌な奴じゃなかった。最初は嫌な奴だったけど、一緒に戦ってたらさすがに仲良くなった。お貴族様って偉そうで見下した態度が基本なのよね。
そのベルトランだって、もう私にお小言は言わないに違いない。諦めているとも言う。
魔王を倒して平和が訪れて、魔物は少し残っているといっても平和ボケしているんだろう。
私は聖女だが、現在では貴族の病気だの腰痛だの、騎士団の騎士の怪我だのを治すのがメインだ。週に一回は神殿に出向いて平民たちの治癒も行っているがそれだけ。
以前のようにベルトランの千切れた足もくっつけなくていいし、棺桶に片足突っ込んだ状態のヘルムートも死の淵から無理矢理引きずり戻さなくていい。間違いなく平和だ。
絵本なら、聖女シャロンは王太子テオドールと結婚して子供を生んで幸せに暮らしました、で終わったはずなのだ。でも、私は結婚だけはしたものの子供もいなければ幸せでもない。庭であんな風に陰口を叩かれて。お肉だって山盛りで食べ……たわね。治癒したらお腹空くのよ。長くて重いドレスの裾踏んで転びかけただけでブツブツ言われる。
もっと優雅に歩け、大口を開けて笑うな、近隣三カ国の言葉はできないとだめ、お菓子をたくさん頬張るな、カスを落とすな、食事中にナイフとフォークの音を立てるな、両手に肉を持つな、騎士団の治癒に行った時に「なにやっとんじゃボケ!」って言うな、口が悪すぎるなどなど。その他たくさんのことを毎日注意される。
テオドールと結婚して、そんな細かいことばっかり言われるなんて誰が教えてくれたんだろう。少なくとも私の読んだ絵本には書いてなかった。絵本の嘘つき。作者と出版関係の人間、全員呪いたい。
今、私が歩いている王宮の庭はそれはそれは美しい。私が育った家には申し訳程度しか庭がついていなかったが、その何倍の広さだろうか。そもそも家が何個入るレベルだろう。なにせお水ジャバジャバ流れる噴水まである。
ほら、見て。そこかしこに咲いているバラなんて真っ赤っかだよ。私はそれを見て誰かの面影を思い出しそうになって頭を緩く振る。激しく振るとまとめた髪がばらけてしまうし、またお小言を言われる。死体も魔物もなく、こんな風に花を見ながらゆっくり散歩ができるのは平和な証拠だ。
テオドールの母親が前から歩いて来た。
王妃だと思うだろうが、そうではない。テオドールの母親は側室だ。
もちろん、王妃は存命だ。王妃の息子(元王太子)もいたのだが、勇敢にも魔物と戦いその怪我がもとで亡くなったらしい。私たちが魔王討伐に出かけていた間のことなので見たわけじゃない。しかし、聡明な元王太子だったようだ。王妃はそれでふさぎ込んでおり、側室が大きな顔をしてのさばっている。
そう。私はこういうことを全部隠されて、何なら知りもせずに魔物が襲ってきた時に真っ先に逃げたテオドール(現王太子)と喜んで結婚してしまったバカな聖女シャロンだ。
「あら、聖女様。ごきげんよう。良ければお茶でもいかが」
「ご一緒させていただきます」
どうせこの人、このシワ取ってとか言うんだろうな。ほうれい線とかさ。できるけど。
案の定そう言われて、取ってあげた。馬鹿馬鹿しい。
「聖女様。まだ息子との子供はできないのかしら」
できない理由は分かっている。
私の魔力量が多すぎるのと、テオドールの魔力量が少なすぎるからだ。つまり魔力量に差がありすぎるから子供ができない。魔王も討伐されて魔力量なんて表ざたにならなくなったからまだ隠し通せているけれど、魔力量が私くらいあれば他人のそれがどれほどかは簡単に分かる。
中でも賢いお貴族様たちは分かっているようだが、彼らは批判や陰口を言わない代わりに庇ってくれるわけでもない。敵でも味方でもない。
「王族の役目には次代をつなぐことも含まれているのよ」
「そうですね。あれほど魔力量の少ない王太子の子供を作ったところでどうなるか分かりませんけど。私に似ればいいですが。もしまた魔物の襲撃があったら苦労するでしょうね。逃げ足だけは速そうです」
しれっと言い返すとピクリと扇を持つ手が揺れる。なんでお貴族様のご夫人って扇持ってるんだろう。誰かをぶつため? たまに武器にできるのを持っているご夫人見るけど。殺傷能力は低いよね。近接向きだもの。
彼女はねちねち子供ができないことでいびって自分が優位に立とうとしてくるが、シワを取ってもらえなくなるのは困るのだ。シワくらいそのままでいいのに、どうにも若さへの執念が拭えない。美容を頑張れるのは平和であり良いことだが、この母親はなんだか痛々しい。
魔法使いコレットとはよく喧嘩をした。お互いのいびきがうるさくて寝れないだとか、鍋のカレーの最後のジャガイモは自分のだとか。彼女とはこんなバカみたいな会話じゃなくて、殴り合いで解決できたから楽だったのに。
今日は結構言い返した方よ。最初は気に入られたくて良い嫁キャンペーンをして何も言い返さなかったら、平民聖女だからってバカにされ始めたから最近では言い返すようにしている。でも、子供ができないとやっぱり会うたびにネチネチは言われるのだ。これなら魔王軍の方が話通じたんじゃないかしら。
「シャロン。側室を迎えることになった」
「そうですか」
「ごめん。なかなか子供ができないから、大臣たちにせっつかれてね」
「どなたが側室になってくださるのですか」
「エッガー男爵家のクララ嬢だよ」
庭であんな会話を聞いてから数日後の夜に、ベッドに腰掛けた状態でテオドールからそう告げられた。なんと、お伺いですらない。決定事項で事後報告だ。
「そう」
「魔物の襲撃で王族が減ってしまったからどうしてもね」
テオドールはそう言いながら私の手を取った。
しげしげとテオドールの顔を見る。本当に彼は絵本で見た通りの王子様だ。勇者ヘルムートにも戦士ベルトランにもない繊細な美貌。金髪に青い目。日焼けしたこともないような白い肌。ナイフとフォークよりも重い物を持ったことのないだろう指。
顔がいい。とにかく顔がいい。シャロンが求婚に頷いたのは彼の顔や雰囲気に惚れたからだ。何しろ求婚の時が初対面だったのに、性格に惚れていたらそれはただの綺麗ごとだ。
「いつ側室を迎えるの?」
「準備が出来次第すぐに。一カ月以内には」
商店の閉店セールよりも短い期間でさっさと迎えるのね。びっくりよ。
「私も、仲良くなれるかしら」
「明るくていい子だからシャロンの話し相手にもなれるはずだよ」
「そう」
産まない男は言うことがお気楽でいいわよね。
顔に一目ぼれした男は、私以外の妻を娶って抱くのだ。庭で貴族のお喋りを聞いてしまった時から覚悟はできていたのに、心が重くなる。どこの女が本気で側室と仲良くしたいのか。
自分以外の妻と夫を共有するなんて、この国は基本一夫一婦制で、平民ではあり得ないことだ。むしろ王族ならではだろう。
自分の下履きを洗濯せずに他の女が勝手に履いたようなこの不快感。その逆も然り。歴代王妃はどうやってこの不快感を乗り越えたのか。あるいはゆっくりと飲み下したのか。
側室となるクララはすぐにやって来た。商店の閉店セールもびっくりの早さだ。前にしただけで分かる、彼女の魔力量は少ない。
「私はバカですし、聖女様のような特別な力はないので安心してください!」
……履いてますよ? あ、違った。これ魔王討伐の時に流行ってた庶民ネタじゃないの。どうも下履きネタになってしまうわね。いかんいかん、最近落ち込んでいるせいかどうも平民時代に頭が戻ってしまう。
「何を安心するのかしら」
お城に住み始めて無理矢理特訓させられた笑顔を張り付ける。頬もだが、心も痛い。楽しくもないのに笑うなんてほんとバカみたい。
「私は子供を産む係というだけなので! 決して王妃の座が欲しいなんて思ってません! 聖女様は憧れの存在ですし!」
なるほど。テオドールの母親とは違う。聖女の私を尊敬し崇拝しているタイプ。こういうのが一番気持ち悪いのよ。最初は尊敬していて、段々私の立場になりかわろうとしてくる。
「それはつまり、私は仕事と治癒だけやってるお飾りの王太子妃になれってことかしら」
子供が産めない王太子妃。マナーのなっていない王太子妃。平和になれば、魔王を倒したパーティーメンバーの聖女でもそうなのだ。治癒ができるだけマシではあるが、彼女が出産すれば私の肩身はどんどん狭くなるだろう。彼女の腹が膨らんで、やがて子供が生まれて育っていく様子をただただ私に眺めていろと言うのか。
「え? だって聖女様はいらっしゃるだけでいいではないですか」
いるだけでいい、か。なんて便利な言葉。
私がこの国にいればそれだけで他国にもアピールになる。他国から重病人が来て治してあげたら恩も売れるし。たまに治癒するお飾りの王太子妃。国は勇者も聖女も戦士も魔法使いも国から出て行かないように頑張って報酬を与えたけれどね。
聖女だと胸を張っていられればいいのに。私たちは魔王を倒した。素晴らしいことじゃないか。それなのに、私はどうして、こんなどうでもいい側室を前にしてうんざりしてしまっているのだろう。とても疲れた。
魔力量が同じくらい少ないからだろう。クララはすぐに妊娠した。ウサギかと思うほどの速さだ。
子供がすごく好きなわけでも、欲しいと思っていたわけではないのに私の心はさらに疲弊する。テオドールが私のところに来ないわけではない。むしろ私の元に以前より多く来てくれるが、正直来てほしくない。ただ一人愛されないということがこんなに堪えるものなのか。
「聖女様、何か召し上がりませんと」
「要らないわ」
「お医者様を」
「それも要らないわ。自分で治癒できるもの」
「でも……」
「心配ありがとう。妊娠じゃないから放っておいて。あの魔力量の差じゃあどんなに頑張ったところで私は妊娠しないわよ」
結婚してから初めて知った。こんなに「後継ぎを」「子供を」と一年経った頃からせっせとせっつかれるなんて。知ってたら魔力量の差で断ってた。奇跡的にできる場合もあるけど、本当にそれは小さな小さな可能性だ。
心配そうにしていた侍女は押し黙る。
「神殿に、期待するのは無駄と伝えておきなさい」
お貴族様や王族や神殿上層部は権力争いが好きだ。私にはさっぱり分からない。だって拳で殴り合った方が分かりやすいし早いもの。
王族は聖女を取り込んであわよくば治癒の力を持つ子供が欲しい、神殿は聖女が国母になることで権力を高めたい。それぞれにどこぞの貴族がついて……こうなるともう訳が分からない。聖女は結婚したところで力を失わないものね。
「あの……聖女様。お辛かったら神殿に戻られても」
「考えておくわ」
腐ったオヤジのバーゲンセールはお城でも神殿でも一緒じゃない。早くくたばればいいのに、ああいうのが一番図太く長生きするのよ。私も図太い方だと思ってたけど、お城で王太子妃というのは思ったよりも神経を削られる。
どうしてだろう。
私たちは命懸けで戦って魔王と魔王軍を倒したよね。でも、どうして私は絵本の中の聖女様やお姫様みたいに幸せじゃないんだろうか。
私の千分の一も努力していない、命を張ったこともない人たちが幸せそうにしてる。治癒力の特訓は死ぬかと思うほど大変だった。あの時は努力したら報われて、平和な世界で幸せになれると信じていたから乗り越えられた。でも、現実はそうではなかった。
テオドールが夜に訪れたが、面倒なので治癒を強めにかけて眠らせる。ソファに彼を放置して夜風に当たるためにバルコニーへと出た。
「全然幸せじゃない」
魔王を倒して持て囃されて、テオドールと結婚したのに私は全然幸せじゃない。
世界は平和になったのに、私は幸せじゃない。
こんな大きなお城に住まなくても良くて、キラキラした宝石だってつけられなくって良い。重苦しいドレスだって着たくない。
小さな家に住んで毎日日焼けをしながら畑をやって、たまに動物を狩ってお肉焼いて。
急に魔物や魔王軍に襲われることなく、愛する人がいなくならず傷つかない。たった一人の唯一で一番に愛される。そんな幸せがいいと思っていたはずなのに。
キラキラした世界を見て、絵本のお姫様になれると思ってしまった。いくら聖女という特権があっても、平民がお貴族様の世界に入るのは無理だった。
子供ができなくてマナーがなってないって言われて、自分と同じくらいアホそうな側室を入れられてその子はさっさと妊娠する。
変なの。私が聖女じゃなかったら、子供はすぐにできていたかもしれない。そもそも、聖女じゃなかったらテオドールとは結婚していない。
でも、あの男爵令嬢は聖女でもない下位貴族なのに、聖女の私に子供ができないからって側室になれるんだ。それこそ、いいとこどりじゃない? 彼女は私くらい努力したの? 魔王を倒すくらい?
「シャロンはいてくれるだけでいいんだよ」
とさっきテオドールも言っていた。それは私が聖女だから。聖女じゃなかったら離婚なのだろう。言葉は正確に使わないとね。シャロンはいてくれて困ったら治癒してくれて、民衆の人気取りしてくれてついでに仕事もしたらいいんだよ、でしょ。
私がモデルの絵本がもし出るとすれば。最後はこう締めくくられるはずだ。
聖女シャロンはとってもおバカでした。自分の心に嘘をついたから彼女は幸せではなかったのです、と。
「あの日に戻りたいな」
「どの日だよ」
「魔王倒して帰ってきた日。いや、そもそも魔王倒してハイになってるのに転移で戻ったのが間違いだったのよ。ゆっくり荷馬車でみんなで雑魚寝しながら戻ってくれば良かった。帰りにお肉一杯食べてさ。エールもいっぱい飲んで。飲んだくれて騒ぎながら帰っても良かった。それで帰った途端パレードで」
そう答えて顔を上げると、長い赤い髪がたなびいているのが見えた。まるで勇者ヘルムートの髪だ。思い出さないようにしていたが、彼の髪は庭のどのバラよりも赤かった。
「よぉ」
おかしい。目の前にヘルムートに大変良く似た男がいる。しかも空中に胡坐をかいて片手を挨拶のように上げて、浮いている。ヘルムートは魔法を使えないからこれは夢ね。
「まぁ~。あのシャロンがこんなにたおやかになっちゃって。すごいわね。シャロンを令嬢に仕立て上げるのってオリハルコンを加工するより難しくない? 待って、今のつまんない。サルが人間になる方が簡単じゃない?」
おかしい。目の前に今度は魔法使いコレットによく似た女が浮いている。濃いオレンジの髪を片方の側頭部で縛る、いかにも禿げそうな髪型。引っ張りたい。
何度か瞬きした。ヘルムートもコレットも消えずにぷかぷか浮いたままだ。
「もしかして、本物?」
「本物よ。アタシの魔法を疑うっていうの? このコレット様の?」
「いや、そうじゃなくて。どうして……」
どうしてここに? 私はあの日、テオドールからの求婚を受けて。皆はそれぞれ報酬をもらって別れた。手紙のやり取りはありつつも、最近は皆忙しいのか途絶えてそれっきりだったはずだ。コレットはベルトランと結婚して、この間子供が産まれたよね。
「どうしてって。仲間だから?」
「ヘルムート、髪伸びた?」
「今、それ関係なくない?」
ヘルムートは私の頓珍漢な受け答えに笑いながら、バルコニーの柵までふよふよ浮いてやって来ると柵に腰掛けた。
「シャロンが大変そうだってウワサで聞いてさ。来ちゃった。側室だって? あの王太子ふざけてんな」
褐色の肌で筋肉質の勇者ヘルムートが「来ちゃった」なんてハートでも飛びそうな言葉を口にするなんて。普通の状態のシャロンであれば、吐く真似でもしていただろう。でも、今はそんな真似はできなかった。
再会に胸がいっぱいでしばらく沈黙していると、コレットがその沈黙を破る。
「こいつさぁ、あたしとベルトランのとこにほぼ毎日押しかけて来て酒飲むのよ」
「あなた、またお酒を飲んでるの?」
ヘルムートは酒癖は悪くはないが、とにかく酒を好んでいた。魔王討伐のプレッシャーのせいかと思ったが、元から酒好きのようだ。
「やめてくれよ『あなた』なんて。寒気がする。シャロンなら『お前』や『あんた』って言うだろ」
お城で勉強を始めて、徹底的に言葉遣いを直されたから。思わず視線を落とす。
「ねぇ大丈夫? シャロン。元気ないよ?」
いつもジャガイモをめぐって喧嘩していたコレットが心配そうに顔を覗き込んでくる。こちらは浮いたままだ。
「お城で苦労してるんじゃないかと思ってな」
「うん」
「まさかこんなに変わってるとは思わなかった」
「うん」
そんなに私は変わったのか。外側だけはお貴族様みたいになったのだろうか。
「今のシャロン、気持ちわりぃよ」
「ヘルムート、失礼でしょ。令嬢教育はマジで大変なのよ」
ヘルムートの素直な言葉にふふっと笑う。自分の不幸せを嘆いていたところだったから彼の言葉はしっくりきた。私が言い返さないことにコレットは戸惑っている。
「俺はさ。両手に肉持って食ってるシャロンもカレーのジャガイモ狙って取っ組み合いの喧嘩してるシャロンも、俺が死にかけてたら『勝手に死ぬんじゃねぇ! 髪の毛全部むしるぞ!』って言いながら現世に戻してくれるシャロンも好きだよ」
「うわ、性癖歪んでる」
「でも、今のシャロンはほんとに気持ちわりぃ。俺は今のシャロンは嫌いだ」
コレットが茶々を入れているが、私も今の自分は嫌い。大嫌いだ。だから私はあの日に戻りたい。魔王を倒したあの日、私は間違いなく自分が好きだった。
「なぁ、俺はずっと後悔してた。あの日に逃げ足だけが速い王子に求婚を許してしまったこと」
弱すぎてそもそもノーマークだったし……とヘルムートは呟いている。
「そうよ、その後悔を口にしながら我が家で酒飲んでくだを巻かれる私たちの気持ちにもなってよ。子供の教育にも悪いわ」
「そういえばベルトランは?」
「留守番で子守りよ」
「あ、そうなんだ」
戦士だったベルトランが剣と盾をガラガラとミルクに持ち替えたのか。私の質問を何か誤解したらしくヘルムートが言う。
「あんな魔力量へなちょこ王子じゃあ、子供できないだろ」
「そうね」
ヘルムートだって見れば分かるのだ。そのへなちょこ王子である夫はすぐ後ろの部屋のソファで寝ているのだが、朝までは起きないので大丈夫だ。それにコレットのことだから結界を張って気配や音を悟らせないだろう。
「そうね、なんてお上品に言うのやめろよ。そんなのシャロンじゃないだろ」
私じゃないって? じゃあ、どれが私なのよ。
私は大して欲しくないけど子供の産めない王太子妃? 大したことない治癒ばっかりしてる聖女? 両手に肉持ってガツガツしてる女? 頑張って礼儀作法を覚えて背伸びしてお城に入って貴族のフリしてる野ザル?
「シャロン。俺たちと行こうぜ」
「は?」
また冒険にでも出るような言い方だ。ヘルムートはニッと笑った。
「俺のもらった領地に来いよ」
ヘルムートを他国に行かせないために、国は領地を与えたのだ。年頃の王女はいなかったから結婚はさせられなかった。他にも公爵令嬢とかいたはずだけどヘルムートは断っていた。
「なんか病気でも流行ってるの?」
「はやってねーよ」
「魔物が出て怪我人でもいるの? 報告はあがってないけど」
「聖女の仕事じゃねぇ。シャロンとして来ないかって意味だ」
聖女も私だし、シャロンも私なのだけれど。まぁ、テオドールは聖女の私とだけ結婚したのかもしれない。
私とヘルムートの不毛で言葉足らずな会話を見かねたようにコレットが口を出す。
「あのね、シャロン。子育てには山が必要なのよ」
「なんで? スローライフ?」
「足腰鍛えるのに。だから私たちもヘルムートのもらった領地に引っ越したの。また四人でワイワイやりましょ」
「ヘルムートのもらった領地って……この国で一番高く険しい山があるわね」
「そうよ、あのチョモレンマ山を毎日散歩してるの。将来、うちの子の土踏まずは綺麗なアーチをえがくはずよ」
コレットは土踏まずフェチだ。土踏まずよりも先に、体力お化けなベルトランみたいな子供ができるだけだと思う。次の勇者か戦士でも育てているのか。
「魔物の生き残りもいるから、また焼肉もしようぜ」
「カレーもね。ジャガイモめぐってまた喧嘩しましょ。やっぱり勝ち取ったジャガイモが一番うまいのよ。私、ベルトランと鍛えてたから今のシャロンには余裕で勝てちゃうかも。ふっ、これでカレーのジャガイモはすべて私のものよ」
「俺にも一個はくれ」
「ヘタレ勇者はその辺の人参でも食ってな」
「俺、人参キライ」
「シイタケでも食ってな」
「シイタケもキライ」
「うるさい。農家さんに謝れ。草でも食ってろ」
あの日々と変わらない二人の様子に、ぽろりと涙が出た。
この瞬間だけ切り取ったら本当にあの頃に戻ったみたいだ。
「え、シャロン。気持ち悪いわね。なんで泣いてんの」
コレットまで気持ち悪いと言い出した。
「だって……私、あの場でホイホイと王太子の求婚に頷いて……今までみんなと会ってもなかったのに」
「そりゃ仕方ないわよ。アタシだってあの状況、ときめいたもん。こいつだって、もし金髪巨乳な王女様がしなだれかかって結婚してって乞われてたら即鼻の下伸ばして頷いてたはずよ」
「なわけないだろ。俺のタイプは銀髪でほっそりして貧乳で見た目はどっかのお嬢様なのに、口を開けばゴロツキみたいで両手で肉の塊持って食う女だよ」
ヘルムートの金色の目が私を射抜くように見た。
戦場を駆け抜けて来た人の目だ。殺し合いをしないとこんな目にはならない。
「なぁシャロン。あの日に言えなかったことを今言ってもいいか」
「散々告白紛いのこと言ってるけど、通じてないからアタシが許すわよ」
コレットがまた茶々を入れるが、私は首を横に振った。通じてはいる。この三年、散々言葉の裏を読まされたのだ。
「ううん。言わなくていい。でも、ありがとう」
私の言葉にヘルムートもコレットも戸惑っているのが伝わってくる。
「みんなで暮らそうって言ってくれて嬉しかった。でも、私は結婚しちゃってるし。あの日、ホイホイでも頷いたのは私だから。またここでホイホイ頷いて全部投げ出して行くわけにはいかないの」
ベキッと音がする。ヘルムートが手を置いていたバルコニーの柵が盛大にひしゃげて壊れていた。
「げ、あんた。抑えなさいよ」
コレットが瞬時に魔法で直す。ヘルムートはそんなコレットを無視して、私に近付いて来た。さすが勇者だ。正面からだと凄い気迫。久しぶりにこれを浴びた。あっという間に壁まで追い詰められる。
「そんな悲しそうな顔して俺たちと行きたくないって?」
「そうよ」
「そうよ、じゃねぇよ」
今度はヘルムートが手をついていた外壁が一部砕ける。
「ぎゃー! 城を破壊しないの!」
コレットが叫びながらまた魔法で直すが、その部分を確認することもできずにヘルムートに顔を覗き込まれる。私は有機物の治癒しかできないから修復はコレットに任せた。
「あの日、俺がシャロンに何も言わなかったのは。シャロンがあのへなちょこに求婚されてとんでもなく嬉しそうだったからだ」
テオドールに求婚されて、とんでもなく舞い上がった自覚はある。どんな顔をしていたかは自分では分からない。
「でも、今のシャロンは全然幸せそうじゃない。そんな顔させるために俺はあの日に引き下がったわけじゃない」
男女二人ずつのパーティーでどっちかの相手に惚れるなというのは難しい。でも、あれってそういう状況だったからでしょ? 恐怖どころか命の危険が常にある吊り橋効果。
「治癒した私相手に惚れるのは誰でも普通でしょ」
騎士団の騎士たちだって治癒する私が女神のごとく見えるらしい。口を開いたら終わりだけど。私がいるからって怪我してもいいやなんていう気持ちで訓練されていたら堪らないから、その弛んだ精神に厳しめに言っているだけ。
再度外壁がバキバキと音を立てる。
「俺は聖女だからシャロンに惚れたんじゃない。惚れたシャロンが偶然にも聖女だっただけだ」
「聖女じゃなかったら私たち出会ってない」
「俺だって勇者じゃなかったら出会ってない」
不毛。その一言に尽きる。私とヘルムートはお互いのエゴを押し付け合っているだけだ。
「ねぇ、なんであんたら二人で会話させたらそんな意地になってんの。ヘルムートは酒飲んで情けなくグチグチ言ってる内容をシャロンに言えばいいだけでしょ。それとも酒飲んでないと告白もできないヘタレ勇者だったわけ?」
コレットの呆れたような声が上から降ってくる。相変わらず彼女は口喧嘩でも相手を煽るのが上手い。魔法使いなのに殴り合いも口喧嘩も強いのだ。ベルトランは尻に敷かれているに違いない。
彼らと最後に会ったのはおよそ三年前。あれからいろいろあった。私も彼らも。
「シャロン」
ヘルムートの声に如実に好意が滲んでいるのを感じ取って、私は制止した。
「言わないで。私は結婚してしまったし。ヘルムートには他にいい女性がいるはずだから」
「だから?」
だから、なんて言われても。言わないでって言ってるじゃない。
結婚してるのに「連れてって」なんて言える女じゃないのよ。そんな軽くない。幻滅するじゃない、絵本のお姫様がホイホイ他の男について行ったら。私はもうこれ以上、自分を嫌いになりたくない。
「側室が出産して、なんなら子育てまでさせられて都合のいいように扱われて死ぬのか」
私の未来は、きっと今の王妃様なんだろう。今の王妃様は息子を亡くしてから生ける屍のように仕事をしているだけ。あの情けない、逃げ足は速くて顔だけの王太子を生んだだけの側室が大きな顔をして。私の治癒は心までは治せないから王妃は助けられない。
「あのへなちょこ。他の女も側室で入れるかもしれないぞ」
「そうかもね」
クララが妊娠したら、私の方にテオドールは構い始めた。でも、私があまり相手をしないので他の女をまた夜会で探しているのは知っている。放っておいても王太子という身分とあの顔で令嬢は寄って来るもの。
「いいのかよ」
「いいもなにも。あの日に私がホイホイ頷いたのが全部悪いのよ。それを後悔しながら生きていくんでしょう」
「ふざけんなよ」
ヘルムートが力で外壁を壊しては、コレットが魔法で修復する。
「今日は来てくれてありがとう。コレットも。とっても嬉しかった。今度無理矢理誰かを脅してあなたの領地に旅行に行くわ。それでいいでしょ?」
ヘルムートの体を押しのけて部屋に戻ろうとするが、彼はそんな私の手を掴んだ。
「ヘルムート。放して」
「俺はこんな城は全部壊せるし、王族だって全員今すぐ殺せる」
よく見ればちゃんとヘルムートは帯剣している。剣などなくても彼ならできそうだ。
「やめて。あなたは勇者でしょ。それじゃあまるで魔王じゃないの」
「魔王は倒して勇者の責任は果たした。もう、どう生きようと勝手だろ」
「私はもう王太子妃なのよ」
「だからどうした。一回結婚に失敗しちまっただけだろ。俺は責任の話はしてない。シャロンがどうしたいのか聞いてるんだ。今が幸せでこのまま生きていきたいって言えるんならいいけどな」
幸せな女はあの日に戻りたいなんて口にしないだろ、と彼は続けた。
俯いて唇を噛む。ヘルムートのことを考えたら、きっぱりはっきりここで断るべきだ。それなのに口から彼を拒絶する言葉は出てこない。代わりに目から涙がこぼれた。
「国滅ぼすのもいいけど。アタシたちだってこの国から出て行ってもいいんだし。住むところに山は必須よ、山は」
「シャロン。どうしたいんだ」
剣の鍛錬を欠かしていない、硬い手のひらが私の頬に触れて涙を拭う。
「そんなにお城に住みたかったのかよ」
「ううん」
「ドレスや宝石くらい俺でも買ってやれる」
「それはもう要らない」
「じゃあ何だ。あのへなちょこがそんなに好きな訳か? そんな気持ち悪い笑い方して、マナーだのなんだの背伸びして頑張るくらい好きだったのかよ」
黙って首を振った。しばらくヘルムートの手の温かさを感じていたかったから。
「私、お姫様になったみたいで……嬉しかったの。聖女は確かに特別だったけど、そうじゃなくて私はお姫様みたいになりたかったの。誰かのたった一人のお姫様に」
「分かるわ~。あの状況で夢見たのはほんっと分かるわ~」
コレットの同意が夜空に響く。
「でも、私。お姫様は向いてないみたい。もう疲れちゃった。全然馴染めないよ」
「そうだな。全然向いてない。むしろ気持ちわりぃ」
「お肉だってたくさん食べたいし、大股で歩いて大口開けて笑いたい。私以外の奥さんはいたら嫌だ」
「そりゃそうだろ。むしろよく殺さなかったな、偉い偉い」
さっきまで柵や外壁を壊しまくっていたヘルムートは嬉しそうに私の頭を撫でてくる。
「俺たち四人でいたら最強だろ。また一緒に一生バカなことしようぜ」
「立ち直るまで酒浸りで三年かかっといて言うことそれかい。とんだヘタレね。ほらさっさと跪く」
「俺はそういうキャラじゃないんだよ」
「女の涙にハンカチくらい出せや、こら」
「ハンカチなんて持ってねーよ、お貴族様かよ」
コレットのツッコミに頭をガシガシかいて、ヘルムートは再度私を見た。
「俺は城壊して王族皆殺しにしてもシャロン連れて行ける。でも、シャロンが嫌ならやめる。俺は魔王を倒したらシャロンに求婚するつもりだった。だから、俺もずっとあの日に戻りたいって思ってた」
ずいっと彼の大きな手が私の目の前に差し出される。
「だから、シャロンもあの日に戻って返事をしてくれ」
「あー、星が綺麗ねー」
コレットは空気を読んで反対側を向いた。
差し出されたヘルムートのてのひらを見る。テオドールの手とは全然違う、人々を守って最終的に魔王を殺した手だ。自分の涙でその手はぼやけて霞んでいる。
「俺ならシャロンと同じものを背負ってるし、さらに背負えるはずだ。気持ち悪い笑い方もマナーも気にしなくていい。俺と一緒に肉食って酒飲んで過ごそう。もう責任なんていいんだよ。魔王を倒したんだから最高に無責任に楽しく生きよう」
思わず笑ってしまった。こんなに大口を開けて笑ったのは久しぶりだ。笑い方を忘れたのかと思うくらいに。
お姫様になんてならなくて良かったのに、どうして私はなろうとしてしまったのだろう。あの日、テオドールに跪かれた求婚はとても素敵だった。
今の私は泣き笑い状態で不細工で、ヘルムートは跪いてなんかない。肉と酒で求婚。でも、これが良かったのだ。
ヘルムートの手のひらに自分の手をそっと重ねる。
「先に離婚しないと」
「それもそうだな」
「はい、離婚の書類」
魔法で盗んできたらしい離婚書類をコレットが差し出す。
「さすが勇者パーティーの魔法使いは違うよな」
「子育ては時短が命」
「じゃあ、書いて置いてくか?」
「ううん。側室入れるのが事後報告だったから私も離婚を事後報告する」
ソファで眠っているテオドールを何度か叩いたが、起きる気配がない。
「治癒をかけすぎたかしら」
「殴るか?」
「いや、アタシがやるわよ」
コレットがパチンと指を鳴らすとテオドールが目覚めた。鮮やかな髪色の男女がいるのに気付いて驚いている。赤とオレンジだものね。
「テオドール。私、あなたと本日をもって離婚するから」
「は? シャロンなんで?」
「平民に王族は向いてなかったの。私は両手でお肉の塊が食べたいし、ちびちびお酒を飲みたくない。大ジョッキで飲みたい。他にもいろいろあるけど……とにかくあなたとじゃあ魔力量の差で子供はできないわ。それを延々グチグチ言われても困るし。治癒が必要なら勇者が治める領地に来てくれてお金払ってくれたらするから。あなたのお母さんのシワも取ったげるわよ」
テオドールの顔に離婚書類を押し付けて、ヘルムートとコレットの手を取った。あの日のように一瞬で目の前の景色が変わる。最後にテオドールが何か叫んでいたが、よく聞こえなかった。
「シワ取りできるならアタシにもやってよ」
「コレットは骨盤のゆがみの方が先じゃない?」
「まぁ、とにかく乾杯しよう」
「あんたは酒が飲みたいだけでしょ。ちょっと息子の様子見てくる」
ヘルムートたちが住んでいたのは与えられた領地の古城だった。明らかに吸血鬼なんかが出てきそうなお城だ。
コレットが子供の様子を見に行ってしまうと、ヘルムートに抱き寄せられた。
「あの日みたいね」
「一体どの日だよ」
「ヘルムートが魔王城の手前で死にかけて、治癒した後に抱き着いてきたでしょ」
「あぁ、覚えてたのか。俺は髪の毛をむしられてハゲる一歩手前だった」
あの時は魔王城の手前だった状況だけにすぐに引きはがして引っぱたいたけど、不謹慎にもドキドキしたものだ。
「さすがに魔王城の手前で勇者に死なれたら困るから」
「そりゃあ魔王と戦うの怖いからな。死ぬかもしれないのに好きな女に抱き着いとかない選択肢はない」
ヘルムートはいつも飄々としていたが、彼でも怖かったのか。手は震えていたが、彼は絶対に「怖い」とは言わなかった。
「やっと、俺だけの聖女が戻って来てくれた」
筋肉質な彼の肉体を感じながら、私は彼の首に手を回してまた笑った。
お城で笑っていなさすぎて、頬が引きつった。私は本当にお城で心から笑えていなかったのだ。
「俺たち四人でまた最強だな」
「うん」
もう、私はあの日に戻りたいなんて呟く必要はない。
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