8 チートと現実の努力
本日も変わらずアーサーとアンは一緒にご飯を食べてた。アンの作る遅いお昼ごはんを食べてた。
実はアンもこちらの世界に来たら健康優良児と思っていたが、この前のお茶会で話してる内容や他の子達の様子を見るに
この世界でもアンは健康優良児ではないのでは?と思い始めた。
実際、異世界に初めて来た日アンは寝込んでいて、そのお見舞いに来たアーサーが宏樹だとわかったあの日で、確かにリアルに比べたらまだ子供だから元気なほうで、
さらに言えば何を食べても太らず美少女のままというとてもチートな体型を手に入れ、これまでリアルで我慢していたものを異世界に持ち込み、アーサーと二人で時には周囲も巻き込み食べまくっていたので、てっきり健康優良児だと思っていた。
スタミナが持続しないのは、まだ子供でそこまで体力がないからだと思っていた。
だが、他の子はあんな重そうなドレスを着ても結構走っていて侍女や護衛を困らせてるし、男の子に至っては貴族の子供にしてはわんぱくに走り回ってこっちで言うところの、ドッジボールやらサッカーみたいなことをして走り回っていたのを見て、これはひょっとして?と思ったのだ。
そして、7歳の子供の体型と、この身体で料理をするというのはなかなかに大変で、結構体力を使い、鍋を持ったりちょっと物を切るにしろ、大人と勝手が違うのだ。
なので、これはマズイと思った羽奈はリアルの世界で下ごしらえをして冷蔵庫に入れておく。
もちろん異世界に来る直前に下準備が出来れば直接持ち込めば良いのだが、羽奈自体がアンよりもっと体力や元気に波があるので、時間帯関係なく体調が良い時に作っておいて、食べる時間に作るのは下ごしらえが出来ない物や簡単なもので済ませるようにしてるので、直前だろうがなんだろうが、とにかく新鮮さを保つ為に冷蔵庫に入れておくのだ。
その冷蔵庫に保管したものでも異世界モニターに表示されれば持ち込める。購入していないものでも支払いボタンに異世界の通貨を入れれば取り出せるようになっていた。
ありがたいけど、なんなんだ…このチート度合いの進化の仕方は…。
と思いつつもありがたく使わせていただく。
なので、極論を言えば…リアルで下ごしらえしたくても、今日はあれが足らないわ…となったとき、リアルならすぐに買い物に行く必要があり、ネットスーパーで注文しても即日届けてくれるかどうかはわからない。即時なんて無理だ。
だが、異世界ならどうだ…。とんでもないことだが、モニターからなら即時に手に入る。だから、足らない状態で下ごしらえをして、異世界でそれをモニターから取り出し、尚且つモニターで足らない素材を入手し、異世界で完成させるということが出来るが、その場合はこの小さな身体で調理をするので、どの楽ちんを選ぶか?ということになる。
因みに異世界で購入した場合、その品はリアルで使われてる物という認識の為か、リアル自宅に戻るとき直接手にして戻るか、一旦モニターで「しまう」をしてから戻れば、自宅冷蔵庫の中にちゃんと保管してあったり、食材でない場合はリビングや元々置いてあった部屋に戻っていたり、こちらが探し回ることなく上手い具合にもどしてあるのも、このリアル自宅自体が何かしら異世界と繋がっていて、その行き来の出入口が寝室なのだろうと、わからんなりにそういうことにしておいた。
こんな非常識なこと真面目に考えても解るわけないし、何かしらのレベルも上がってるのか便利機能も増えてるから、謎のモニター出現にさらに進化したりするんだろう…と思うほうが精神衛生的に平和に思うからだ。
で、ここで話が戻るのだが、宏樹の場合は元々健康優良児で、唯一が腰痛だけがもんのすごい辛い状態だった。
それも生まれつき背骨が曲がっているので、その背骨が真っ直ぐだったら、あと5センチは背が高かっただろうな〜という理想を遥かに飛び越え、アーサーの場合、これはもう普通に成長したらもうモデル並みだろうな…ってな容姿端麗で腰も全く痛くない!という本当の健康優良児&頭もいいぞ、賢いぞ!ってな具合。元々宏樹は大企業に勤務しそこそこ出世している程には賢い部類ではあったので、能力云々についてはチートか実力がさらに発揮されたのか、どちらかと言えば後者だと信じたい。
そんな時、アーサーもお茶会に出席し、初めて異世界の他の子達を見てからは、やはり私がやっぱりそこまでの強い子じゃないことに気づいたようで、こっちでも気遣ってくれるようになった。
きっと、これはもう仕方のないことなのだろうが、羽奈の潜在意識に何気に「あまり強くないから夫に優しくしてもらてる。大事にされる要素のひとつ」とでも組み込まれてんじゃないのか?って思うので、身体は7歳でも中身は羽奈なので、異世界でも影響があるのだろう。
長い前置きになってしまったが、難なく楽勝に料理してるわけじゃないということを解って頂きたい。
それを踏まえて現在。アンが作ろうとしてるのは、炊き込みご飯とけんちん汁のような具沢山味噌汁に卵焼き。酢の物、自宅で作り置きした黒豆。
お昼ご飯にしては豪勢なので、こういう日は夕食はあまり取らない。
ちゃんと必要な栄養素を寧ろお貴族様の豪勢であることを優先したディナーより、アンのごはんのほうが余程健康的なのと、異世界の人から見ればお嬢様の作るお食事は絶品!との評価のため、誰もこのスタイルに文句を言うものはおらず、寧ろ、アンとアーサーだけでは当然食べきれず、残りを自分達の両親にもお裾分けするので、双方の両親もそれはそれはアンの作る絶品ご飯を楽しみにしていたのだ。
それどころか、デートの邪魔はしませんよ、オホホとか言いつつも、グリーン家公爵夫婦までついてきて、実はアンの作る出来立てごはんを狙ってのレッド侯爵夫婦との座談会であることも何気にわかっているので、もう、こっちの大金貨を使ってアンの部屋にアンの使い勝手の良いキッチンを作って欲しいと頼むと、それを聞きつけたグリーン公爵家も
「アンちゃんはゆくゆくはうちのお嫁さんと言うより、今も娘に思ってるし、うちに来た時も不便がないようにお揃いのキッチンをアンちゃんの部屋に作っておきましょう♪」
と言う公爵夫人サリーの鶴の一声謎のセレブ発言で、グリーン家にもレッド家同様のアンちゃん用システムキッチンが装備されることになった。
当然、システムキッチンなんてものは異世界にはないのだが、
厨房が元々なかなかのクォリティーであったことや、アンのリアルでの希望のシステムキッチンが明確にあったことから、フルオーダーオッケーというか、お貴族様に既製品という概念はなく
アンというか羽奈の理想のシステムキッチン爆誕!
うん。夢よ。夢の中の事なんだから豪勢に行こうじゃないの。
と相成ったのだけど、アーサーが待ったをかけたのだ。
「アンはそんなに体力ないんだから子供2人分作るだけでも大変なのに、さらに大人4人分作るとなるとかなりの負担になります。余ったものをお裾分けするのと、最初からありきで作るのは全く違う。
父上、母上。あなた達は自分で料理したことありますか?大人でもどれだけ大変かわかりますか?その負担を少しでもラクになるようにとの優しさからのシステムキッチンなら賛成ですが、システムキッチンを作ってあげたのだから、当然アンちゃんが作るときは私達の分もね!って暗黙の掟で強要の為のシステムキッチンならいりません!」
と吠えたのだ。確かに…素敵な提案で盲目になっていたが、
金を出すからには口を出すってのが大人のルールはどこの世界も同じ。それに、炊飯器もなぜかこっちでも使えて、カセットコンロと包丁やまな板も持ち込んでいるし、野菜も洗浄済みを持ち込んで、広いお部屋で洗面台もなぜか2つ3つあるし、そのうちの1つをシンク代わりにしても問題ないよねってな具合で、2人分ならば、然程不便もなく本格的なおままごとをしてる感じなので、宏樹の言うのも尤もでもあった。
それを聞くと確実に作れますってなわけじゃなく、これまでのように余ったのでお裾分けとか、たまに事前に来られることが解ってたら、カレーとか大量に作れるものを厨房のシェフ達に指示しながら作ってもらうほうが楽ちんだなと。
そうなると、そこまでのシステムキッチンが必要なのか?ってのや、自炊したいけど任せたいの境界線が量と体力と気力であったので、もう少し考えたいと保留にしたいとアンもそう言ったのだが、
アンの母ちゃんのマリラとアーサーの母ちゃんサリーいわく
「せっかく金持ちで無駄遣いでなく、子供が興味を持っていることが明確でそれを便利にするものならば、システムキッチン作っておいて損はないでしょ。それが無駄になるかどうかを考えるのは子供達への投資にならないわ。もちろんアーサーの言うような強制はしない。突撃座談会も確かにアンちゃんのごはんが食べたかったのは本当だけど、二人の負担になるようなことはしないわ。」との勧めもあり、まぁ、それなら…と言うことで予定通り注文することになった。
そうか。確かにうちの親もそうだった。
上手になるかはわからないけれど、羽奈が興味を持ってるならエレクトーン買ってあげよう。買わないと上手くもならないしな。
実際、レッスンはあまり好きではなかったのだが、エレクトーンを弾くということは大好きだった為、羽奈は一度聞いた音楽を再現することが出来る耳コピーを身に付けていたことがわかった。絶対音感の中でも何の音か?を示すほうではない再現能力のほうの絶対音感。かつて一度聞いた曲を再現する能力ことを絶対音楽と言われていて、絶対音感は200人に1人、絶対音楽は2000人に1人とエレクトーンの先生にもそう教わり言われていたが、今は絶対音楽は中世の作曲法として伝えられているので、絶対音感のひとつが羽奈にはあると表現するしかない。
豊かな発想の異世界の両親は、リアルでは既に他界している羽奈の両親と通ずる点があり、アンは涙してしまった。
アーサーはその涙の意味する真意が宏樹として解ったので、背中を撫でてあげた。