7 初めてのお茶会2
「ちょっとあなた見慣れない顔ね。どこの家門なの?」
鼻息荒く小偉そうな振る舞いをしてるのは、本日のお茶会ホストのクララ・ラーク伯爵令嬢。
なんだか、ラが多い名前…。ラとクばかり…と心の中で突っ込む。あ…失礼…。
「私は…ジャック辺境伯の娘で、リナ・フォン・ジャックと申します」
「へー!辺境伯の子なの!?辺境って田舎でしょ。そんな田舎もんがよく王都に顔出して、お茶会までノコノコ出てきたわね!あなたなんて呼んでないわよ!」
「え、でもお父様が王様から今日こちらでお茶会があると伺って、王妃様からも出席出来るように手配したからとのお声がけを賜ったので、まかりこしたのですが…」
あんまりな言い様だったので助け舟を出した。
「ラーク伯爵令嬢はご存知なくても、ご両親様、特に王妃様からのお声がけとのことならば、ラーク伯爵夫人はご存知なのでは?夫人から何か言付けはありませんでしたか?」
「お母様からは、侯爵家レベルのご令嬢がもうひとりお越しになると聞いてるわ!辺境伯の娘みたいな田舎もんなんて知らないわ!」
「侯爵家レベルなら、辺境伯令嬢のリナ様のことでしょう。リナ様以外に予定外の方、他にいらして?」
ここで、ラーク令嬢の取り巻きの子爵令嬢と男爵令嬢がまたアンポンタンなことを言い出した。
「でも!辺境って田舎でしょ!」
「そうよ!田舎だわ!田舎の伯爵家と王都の伯爵家では格が違うわ!」
実際、田舎家門と王都にいる貴族では、同じランク爵位でもは格差がある。そんな場合もある。ただ、広い領地を持っているアーサーやアンの家は、広いので領地は当然田舎にもあるので、そのような僻地偏見は全くなく、その地域で頑張ってくれる家臣や領民のおかげで自分達も成り立っていると、一番大事な根幹部分として教育を受けてきたので、正直この小娘達の認識や言い分には、「あ?」なアンだった。
何より、盛大に間違っている。
「あの…先程から認識誤りがあるようですが…辺境伯は侯爵と同格で、伯爵家以下の方として言葉遣いに気をつけたほうが良いのでは?因みに私も侯爵家なんですが…。」
「え?辺境伯って田舎の伯爵じゃないの?辺境って田舎って意味でしょ」
「うーん…まぁ、確かに辺境は田舎みたいな印象ですし、辺境伯って名前が紛らわしいんですが。辺境伯と言うのは国境を守る防衛大臣のような方で国No.1の軍事力を誇ってる場合が多いです。国の要とも言える重責のため、伯がついていても伯爵より上の階級の侯爵家と同格になります。また、それだけの軍事力の家門が敵国に寝返ったらどうなります?なので軍事力だけでなく、王家からの信頼が絶大の家門でないと辺境伯は任せられないんです。だからこそ、子供のお茶会なのに王様や王妃様が動く程の丁重ぶりなんですよ。ジャック辺境伯ご令嬢のリナ様だからです。」
「え…嘘…知らなかった。」
「やだ、無礼なこと言いまくったわ…攻め込まれたらヤバいんじゃん」
「それもだけど、そんな王家が動く程の重鎮なのに、王家に睨まれたら王子様との婚約者候補になれない…」
うん。なんか、最後のラーク伯爵アホ令嬢、自分のことよりまずは謝ろうか。あと、伯爵家では王家に嫁ぐには家格が低いから婚約者候補にはなれないと思うよ。
それこそ、公爵家、侯爵家、辺境伯、または海外の姫様レベルかと。まぁ、夢を壊すのもなんだから黙ってるけど。
「皆様、まずは謝罪が先では?申し遅れました。わたくし、レッド侯爵家のアンと申します。リナ様嫌な思いをされたんですし、格上ですから言いたいことはおっしゃって構いませんことよ。」
煽る私。子供のケンカだ。言いたいことは言ったほうがいい。なめられないように最初が肝心だ。
「い、いえ!かばって下さってありがとうございます!本気を出せばとんでもない力を持っているからこそ、普段は寛容であれと常日頃父から言われておりますし、急なことで多少の行き違いもあったと思いますし、今後ともよろしくお願いしますと言うことで…。お願い致します。あ!ご挨拶がてらに私の特技見て頂けますか!?」
というと、近くにいた護衛の刀を借りると見事な剣技を披露された!
私はリアルの世界の時代劇や宝塚の男役の人のような格好良さに思わず歓声をあげたが、アンポンタン娘達は顔面蒼白になっていた。万一があれば切られると脅しの剣技に見えたようだw
それからはほのぼのとしたお茶会で、一応私もアン侯爵令嬢も物知りで怒らせたらヤバい認定をされたようで、心配もどこへやら、その後の社交が楽勝になってしまった。
尚、行き違いと言うには杜撰な伝え方をしたのでは?とラーク伯爵夫人のクララへの教育も含め、たとえ本当に格下の田舎貴族だとしてもあの態度はないわ…と思ったので、社交の花と称されてる我が母とアーサーの母ちゃんにチクってやったw
「あらそう〜♪随分楽しそうなお茶会だったこと。アンちゃん初めてのお茶会なのによく頑張ったわ!流石将来の娘♪」
「でもさ、サリーこれ問題よね、王妃様からの声掛けなのにそんな扱いをしたっていうのは。」
「そうよね、マリラ。見方によっては王家を蔑ろにしてるようにも見えるわね。」
「どうする?注意しとく?」
「いや、ほっとおきましょう。どのみちジャック家の護衛からも影からも耳に入るでしょうし。ひょっとしたら、敢えての連絡不足でそれにどう子供達が対処するか力量を見る為でもあったかもだし。」
「あ〜あれか、王子様の婚約者候補の選定か!」
「「ありえるぅ〜」」
そして、二人の母はバッと私を見る。そして、アーサーも見る。
「生まれた時からの許婚にしてて良かった〜!」とサリー=アーサー母
「婚約してなかったらアンが婚約者候補になってる可能性あったわね…」とアンの母マリラ。
「「王家なんて面倒くさいとこごめんだわ〜お金持ちで適度に忙しくて適度に暇がある今の地位が一番よぉ〜!」」
ハモる母達を温かい目で見る中身中年の子供達であった。
因みに王家はお茶会騒動の話を当然把握しており、アーサーが婚約者でなければ、アンを婚約者候補ではなく、婚約者に据えようとしていたらしい。普通の貴族の婚約者なら破棄させてるところだが、筆頭公爵家のグリーン家を敵に回すなど、ジャック家を敵に回すより恐ろしいことになるので、アンを諦めたということを知っているのは両家のパパ達のみである。
さらにさらに因みに…。軍事力No.1は実はグリーン家で政治力と資金力も王家を超えている。軍事力No.2がレッド家とジャック家なのである。グリーン家を辺境に行かすとマジでシャレにならないし、レッド家の情報収集能力とグリーン家の蜜月はたまったもんじゃない。
ある意味一番素直で従順で清いのがジャック家だったため、辺境伯に選ばれたのだ。
そういう諸々を把握してるので、グリーン家もレッド家もジャック家に対しては感謝の気持ちなので、パパ達からジャックん家の子供が困ってたら助けるようにと実はミッションを受けていたアンとアーサーなのであった。
まぁ、今回はご令息が上京しなかったので、アーサーは気楽に他の令息達と遊んでただけだった。