10 御礼と謝罪
今、目の前にロッテとクララがいる。
帰って頂きましょう!と言ってから、サリーとマリラはクララの母親、ラーク伯爵夫人のロッテを呼び出した。
色々クララの勘違いが酷すぎた。上位貴族家族が勢揃いしている場に下位に当たる伯爵家のしかもただの令嬢が自分を優先しろ、しかもアンが告げ口をしたから自分が怒られたと八つ当たりな上、王様王妃様からの招待者のリナ・ジャック辺境伯令嬢に対する侮辱と陰湿なイジメをアンのおかげで未然に防げたのに、それを逆恨みするのは、もう子供の喧嘩レベルでなく、
ラーク伯爵家ではどんな躾をしとるんじゃ?おら?
なレベルになったので、ロッテ・ラーク伯爵夫人を緊急呼び出しをしたのだ。
勿論、下手に公爵夫人と侯爵夫人が出て幼いクララに説教をするのも、子供任せにするのも危険と判断したからだ。
子供のケンカに親がしゃしゃり出てくるなんて…という理論もケースバイケースで、今回の事象は、この世界の貴族にはその理論はまかり通らないのだ。
つまり、この機会を有耶無耶にしてしまっては、物事や世の中に対しての根幹に関わってくる。ある種、伯爵令嬢としての貴族女性としての資質がこんな幼い年齢で問われる話で、
今ここでちゃんと軌道修正しておかないと、どんどん取り返しのつかない勘違いお嬢が出来上がってしまうことを、長年の貴族令嬢を見てきたサリーとマリラは経験則でも嗅覚でも感じ取れたのだ。
まぁ、どーもこのロッテ夫人。サリーとマリラのアカデミー時代の一学年下の後輩で二人を憧れのお姉様〜♪と慕うほどで、鬱陶しいくらいにファッションもヘアスタイルもとにかくコピーか!ってな程に二人の真似をしていた崇拝ぶり。
その憧れのお姉様からの緊急呼び出しに、ウッキウキで来ちゃう天然夫人だったが、お姉様のすん。とした冷めた表情が何を意味するのか流石の天然ロッテも熱狂崇拝のお姉様のご機嫌や心情はある種ヲタクだからこそつぶさにわかり、恐怖の面持ちで今対面のソファに座っている。
早馬で事情は聞いていたはずなのだが、久しぶりにお姉様にお会いできる!とテンション爆上がりで肝心な緊急出頭理由はレッド侯爵家に到着して執事長のセバスから概要を聞いて、我が娘のやらかしに背筋が凍りついた。
ロッテの謝罪から始まった。
「申し訳ございません…。うちの娘がアン様のおかげで救われたにも関わらず逆恨みに文句を言いに押しかけ、さらには皆様の大切な昼食パーティーをぶち壊すような真似を…。ちゃんと再度言って聞かせますので、今後二度とこのようなことがないように致しますので…。」
「あのね、ロッテ。謝罪もだけどまずは御礼も言わないとじゃない?それは私ではなくうちの娘にね。謝罪も私達よりうちのアンに対してよね。別にね、恩着せがましく御礼を言ってくれとかこれっぽっちも思って無かったけどね。高位貴族としての務めをアンは果たしただけだから。
でもこうなるとまずはあなたのお手本が必要だわ。クララ様の今回の騒動の何がいけなかったのかの根本原因は、貴族の序列の把握の無さとやイジメをすることが絶対にダメなことを理解してないことだと私は思うのよね。その初めの一歩の為にも御礼と謝罪の大切さ、なぜ御礼を言うのか、なぜ謝罪をしなければならない事態になってるのかをちゃんとクララ様に教えるために、家庭教師頼みじゃなく、あなたがクララ様に向き合って、クララ様が解らない何故をまずあなたが理解しないとじゃないの?」
マリラの言葉にロッテは涙ぐんだ。熱狂崇拝してるだけあって、ロッテは心根も良くサリーとマリラ程ではないが、頭も悪い人ではなかった。もっと剣もほろろに出禁になるんじゃないかとビビっていたが、マリラの怒らずに窘める、怒るというより叱り教え導く内容に感動していたのだ。
「マリラ姉さま…ありがとうございます!見放されても仕方ないのに。うっ…。クララあなたも謝るのよ。詳しい理由は家に戻ってから話すけど、イジメは絶対にダメなの。
人をばかにするのも相手の事情も知らないのにアレコレ本人が傷つくようなことを言ってはダメなのよ。
アン様はね、あなたがいけないことをしようとしたから止めてくれたの。もし止めてくれなかったら、私たちは王都に暫く住めなくなっていたかもしれないのよ。
それとね、アン様は告げ口していませんよ。あれだけの方々をお茶会にお招きしたんです。あなたがリナ・ジャック辺境伯令嬢にしたことなんて、みんなが見ていて、みんながクララのしてること言ってることはおかしいと思って、お茶会の様子を帰宅して皆さんご両親にお話になったり、護衛の方々が現場を見ていているから最初から全てバレてるの。
みんなが見てるのよ。貴族はみんなの模範にならなければならないの。だから御礼と謝罪はセットよ。わかる?わからなければ何度でもお母様付き合うわ。あなたがわかるまで。見放さないから。だからもうこんなことしたらダメよ。そして後日、リナ様にも謝罪しにいきましょうね。」
厳しいお母様にまた強く怒られると思っていたクララは、目をきゅっと瞑って胸の前で両手を握りしめていたが、
「お母様は怒らずに丁寧に教えてくれた。叱られたけど怒ってなかった。
でも、厳しいけど大好きなお母様は叱りながら泣いている」と思うと途端に悲しくなってわんわん泣き出してしまった。
そう、ロッテは泣きながらクララに話していたのだ。マリラの優しい導く叱り方から、自分は今までちゃんとクララの話を聞かずに怒鳴りつけていただけでは無かったか?と思い至り、すぐにマリラを真似たのだ。まずは真似からでいいのだ。そこから真似という実践をすることで学べたりするのだ。
何故ならロッテはサリーやマリラを真似たおかげで幸せを掴んだ体験がある。だから、すぐにマリラの姿勢を取り入れて真似をするのだ。天然でもあり信念でもある。
クララはなんだか解らないけれど、ロッテが泣きながら一所懸命に自分に向き合ってることで、まだ解らないけれど、何か自分が間違っていたのだと解った。解らないけどなんだか解った。
一部始終を見ていたサリーとアーサーは当事者ではないので口は挟まずに見届人に徹していたが、サリーが徐ろに口を開いた。
「ねぇ…お腹空かない?」




