ベクトルインバーター
ロケットの中は狭い。それは古い常識である。今時轟音と煙をぶちまけて宇宙へ飛び立つなんて時代遅れで、ベクトルインバーター技術が開発されてからは音もなく、基本的にどんな質量のものも宇宙へ飛ばせるようになった。
ただし、まるっきり燃料やエンジンを積まないかというとそうでもない。宇宙に出てからはロケット自身の力で動かなくてはいけない。そのための小さなエンジンだけは積んでいる。
まず乗組員が乗ったりご飯を保存しておくような、居住区となる<部屋>と<エンジン>がくっついた今時のロケットを発射台にセットし、管制塔からベクトルインバーターでそれらを完璧にスキャンする。後は時間になったらインバーターを起動して重力を反転させる。上向きに1Gがかかり、そりゃ当たり前のように飛ぶわけだ。それも宇宙に出てしまえば役目を終えて、通常の無重力になり、ミッションをこなしたら積んでおいたエンジンで地球へ帰る。楽そうだろう。事実、楽なんだよ。部屋も広々と設計できるし、今や宇宙に行くことは海外旅行感覚になった。もちろん、まだ訓練した人しか行けない世界だが。一般人が宇宙に行ける時代もそう遠くないだろう。