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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第三章 世界征服編
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95 前頭葉

 ゼフィランサスが配膳してくれた雪華にんじんのフリットは、細切りのにんじんと雪の結晶の形をした葉を薄い衣で揚げたものだった。

 オレンジ色のにんじんは野菜とは思えないほど甘く、葉はパリパリとした食感で香りもいい。

 このにんじんならば野菜嫌いのコリウスも食べられるかもしれないので、いくつか購入してもいいのではないか。

 スノードロップは水木の国と違って貨幣が流通しておらず物々交換なので、ユーカリプタスで育てている野菜と今回紹介された新しい食材を交換すればいいだろうか。

 そこまで考えて、私は現実逃避を諦めた。今は、新しい食材のことよりも優先して考えなければいけないことがある。


 ガランがおそらく魔王の力を使って、魔物を生き返らせたという事実だ。竜の血を飲むと不老不死の効果が得られるという伝説は聞いたことがある。

 しかしガランは、一度死んだ魔物を生き返らせることはできないと以前発言していたはずだ。

 実際にエビネを助けた時も、蘇生ではなくドラゴンゾンビとして蘇らせて眷属の契約を交わしている。もし竜の血に本当に不老不死の効果があるのだとしたら、エビネも不死者としてではなく普通に蘇生されていただろう。

 となると私が作った賢者の石の効果を知ったガランが、もしかすると自分の血にも伝承通りの効果があるのではないかと考え、たまたま命を落としたゼフィランサスに試してみたところ成功してしまった、という説が有力ではないか。

 普通の人間や魔物ならば「死者を蘇生することはできない」という固定観念を一度抱いてしまうと覆すのが難しいが、幾千年の時を生きるガランは持ち前の柔軟な発想力であっさりと克服してしまったのかもしれない。


「ガラン、一角兎であるゼフィランサスが獣人のような姿をしているのはあなたと眷属の契約をしたからなのかしら」


「あぁ。兎の姿のままでは細々とした作業が難しいので俺の力を分け与えて変化させている。エビネは不死者なせいで味覚が鈍いため、今はゼフィランサスが調理を担当している」


 なるほど、確かに調理を担当するのであれば獣人姿の方が勝手は良さそうだ。広くて古い城をエビネだけで維持するのは大変なのではないかと常々思っていたし、仕事を分担できる者が増えたのは純粋に喜ばしいことだ。

 本来ならば城を管理するには使用人などもいるべきなのだが、ガランが他者を信用していないため眷属である者しか城に入れないとエビネに聞いたことがある。

 それならば仕方がない、大量に眷属を増やすわけにもいかないだろうし――と思い至ったところで思考が止まる。

 本当にあり得ないことだろうか。死者を蘇生することはできないという常識を短期間で覆し、自覚なく魔王の力を使いこなしているガランが、もしこの城をさらに快適にするために使用人を雇う必要があると感じてしまったら。

 軽い気持ちで手当たり次第に転がっている死体を蘇らせて眷属にしてしまうくらいのことは、してしまいそうなのではないか。

 恐る恐る顔を上げると、青い顔をしたままのカガチと視線がぶつかる。同じことを考えていたのだろうか、小刻みに震えている姿はまるで怯える小動物のようだ。


「ちょっとお化粧室を借りてもいいかしら」


「あ、拙者も行こうと思っていたので案内するでござるよ」


 何も言わずとも私の意図を察したのか、カガチが案内役を申し出てくれた。

 ガランが自分だけ残されるのはつまらないのかついて行きたそうな顔をしていたが、全員が席を空けるわけにもいかないので渋々見送ってくれる。

 食堂の扉を閉めると、私たちはすかさず顔を見合わせた。


「先ほど言っていたガランサス殿のあれ、魔王の力ですよね?」


 化粧室へ向かいながら、小声で私たちは互いの意見を口にする。化粧室へ到着すると、私は戻った時に不自然に見られぬようリップを塗り直しながらため息を吐いた。


「カガチ、魔王の力のことはガランにちゃんと話した方がいいと思うわ。彼が力の実態を知らぬまま無意識に使い続けたらどうなるかわからないもの」


「ミオ氏はいいとして、拙者が今まで黙ってたことがバレたら逆鱗に触れませんかね……」


「そこはまぁ、その、なるべく擁護できるよう努力するから」


 ガランが怒ったところを今まで見たことがないため実際に怒ると私に宥められるかどうか自信がないので、どうしても歯切れの悪い言葉しか返せない。

 竜の逆鱗に触れると殺されるという(ことわざ)が残っているくらいだから、竜を怒らせて無事でいられる方がめずらしいのかもしれない。

 そう考えると尻込みをするカガチの気持ちはわかるのだが、これ以上秘密を打ち明けることを先延ばしにする方が酷い目に遭いそうだ。


「ガランに話すならアネモネにも話さなければいけないし、ただでさえ他国の情勢が芳しくないのにしばらく心労が絶えないわね。よく効く胃薬を分けてあげるわ」


「うぅ、死なばもろとも、ミオ氏も一蓮托生にござるよ……!」


 心配せずとも、カガチを見捨てて自分だけ安全圏に避難しようなどと思っていない。

 これから起きるであろう波乱に頭を悩ませながら、私はポーチから取り出した胃薬のチュアブルを口に含むのだった。

3月は多忙のため週一更新になります。ご了承ください。

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