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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第三章 世界征服編
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94 Water Lily Flower


 機嫌を損ねてしまったガランは、しばらく私を離してくれなかった。仕方がないので手を握られたまま雑談をしていたが、背中に突き刺さるクレマチスの視線が痛い。

 コリウスがいじけてしまった時に似たような行動をとるので、ガランなりに私に甘えてくれたのかもしれないが、まるで子供がもう一人増えたようで複雑な気分だ。


 そうこうしているうちに昼餐の時間になり、エビネが呼びに来たことで私の手はようやく解放された。

 食堂へ向かう際、カガチに「やっぱりガランサス殿には力のことは秘密にしておいたままで正解でござるな」と耳打ちされる。

 確かに、今でさえガランの機嫌を損ねた時に戦々恐々しているのに、もしガランが魔王の力を自在に操れるようになっていれば手がつけられなくなってしまう。

 しかしただの雑談で仲間外れにされただけでこれだけいじけてしまうのだから、魔王の力についてという重大な情報を彼に秘密にしていることを知ったら、果たしてガランはどうなってしまうのだろう。

 少し想像しただけで恐ろしくて震えた私は、この件についてはもう少し検討を重ねた方がいいかもしれないと思い始めていた。




 スノードロップ魔王国は極寒の地であるため、作物は一切育たない。だからこそ私に出会うまでガランは肉しか食べておらず、今まで食す機会のなかった野菜を使った調味料や果物に興味を示した。今までは、そう思っていたのだが。


「こちらは氷蓮のサラダです」


 昼餐の席で、前菜にサラダが出てきたのだ。しかもユーカリプタスでは見たことのない野菜で、カガチも首を傾げているので水木の国から買い上げたわけでもなさそうだ。

 エビネの顔を見てもにこにこと微笑まれるだけなので、とりあえずサラダを食べてみることにした。

 氷蓮の名の通り形は睡蓮の花によく似ているものの、まるで氷のように透き通っている。

 フォークを刺して口へ運ぶと、口の中でシャリシャリと軽やかな音が響いて心地良い。まるで薄い氷を食べているようだ。


「本日は、スノードロップ魔王国で発見された新しい食材をこのように皆様に味わっていただこうと思いまして」


 私たちの反応がよかったことに胸を撫で下ろしたエビネが、本来の思惑を打ち明けてくれた。

 どうやら、氷蓮というのはスノードロップ魔王国に自生している野菜らしい。

 こんなに美味しい野菜があるのならなぜ今まで使わなかったのか不思議に思っていると、エビネが言葉を続ける。


「恥ずかしながら、僕は今までガラン様は食に興味がないのだろうと思い込んでおりまして。野菜を食べるドラゴンなど聞いたことがありませんでしたし、長い年月の間野菜を探すことすらしていなかったのです。しかし他国と交流してからはガラン様が色々な食材に興味を持ち始めたので、それならば美味しい物を食べていただきたいとスノードロップ魔王国に自生している野菜を探し回ったところ、いくつか見つけることが出来たのでそれを使って料理を試作してみました」


 だから、他国の魔王である私たちに試食をしてもらい、意見を聞きたかったのだと言う。

 こんなに寒い土地に自生する植物が存在することに驚きつつも、この土地が氷漬けになって千年も経っているので、環境に適応した種が存在してもおかしくないのかもしれないと納得する。


「普段食べている野菜とは食感がまるで違うから楽しいわ。夏になってユーカリプタスでも扱えば人気の食材になりそうね」


「サラダも美味しいですが、シロップをかけて氷菓として売り出してもよさそうですなぁ。かき氷よりも映えが見込めますし」


 他にも氷蓮だけだと味が単調なので季節のフルーツと合わせてサラダにするのはどうか、水っぽくなりそうなのでサンドイッチの具にするのは避けた方がよい等の意見を聞いて、エビネは真剣にメモをとる。

 意見交換に白熱していると、一人の魔物が扉からひょっこりと顔を覗かせた。


「あのう。次の料理もう出来てますよ。このままだと冷めまっせ」


「ゼフィランサス!あなた勝手に……!」


 慌てた様子のエビネにゼフィランサスと呼ばれた男は、垂れた長い耳とベージュの柔らかい髪を見るに兎の獣人のようだが、額にはユニコーンのような角が一本生えている。

 頭の中で魔物図鑑の情報と照らし合わせて、彼の種族に思い当たった私はゼフィランサスに声をかけてみることにした。


「もしかしてあなた、一角兎……アルミラージかしら」


「よくご存知ですねぇ。はい、こちら雪華にんじんのフリットです」


 フリットを配膳するゼフィランサスは、角が生えていること以外は獣人のような容姿をしている。

 しかし、アルミラージは本来人の身体より大きな兎に角が生えた魔物のはずだ。

 ガランに目線を送って説明を求めると、咀嚼していたフリットを飲み込んで何の気なしに口を開く。


「そいつは俺の眷属だ。この前死んでいるのを見つけたから、試しに血を飲ませてみたら生き返った。ちょうどいいので城へ連れてきてエビネの補佐をさせている」


 ちょっと待ってほしい。魔物を生き返らせることができるのは、賢者の石でのみ可能なはずではなかったのだろうか。

 ガランまで魔物を生き返らせることが出来たということは、もしかしたら魔王の力を無意識に使ったのかもしれない。

 さらりと告げられた衝撃的すぎる事実の羅列に驚いた私は、思わずカガチの顔を横目で見る。

 おそらく私の顔も同じような色をしているのだろうなと笑ってしまうほど、彼の顔は真っ青に染まっていた。


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