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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第三章 世界征服編
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85 知らない間に

 草木も眠る丑三つ時。ダチュラのいた世界でそう呼ばれる時間は、幽霊や魔物が跳梁跋扈すると言われているらしい。

 最も、ユーカリプタスに住んでいる魔物たちは元が人間であるためか、生活スタイルも人間と同じなため繁華街を除いた国中が静まる時間となっている。

 そしてそれは魔王であるミオソティスも例外ではない。本来この時間は、草木どころか魔物も魔王すらも眠る丑三つ時、である。

 そんな時間に、城内で暗躍する影が四つ。


「ミオソティス様はお休みになっているか?」


「えぇ、抜かりなく。今日は寝る前の全身マッサージでアロマを焚きましたし、熟睡していただけていますわ」


 円卓に座っているのは、クレマチス、ピオニー、コリウス。ダチュラが彼らにカモミールティーを淹れて、彼女自身も席に座る。

 

「それではこれより、四天王会議を行う。今回の議題は、ミオソティス様の心労についてだ」


 ミオソティスも知らない、秘密裏に定期的に行われているこの会議。ただ今回は、昨今のミオソティスの様子を訝しんだ彼らが緊急に開いたものだった。


「皆も気付いているだろうが、ここ数日ミオソティス様の顔色が優れずため息も多い。具体的に言えば、以前は長時間の作業後くらいにしかつかなかったため息を、一週間で平均して一時間に約5.6回――」


「細かい回数はどうでもいいですわ。とにかく、お母様が何を悩んでいるのかを突き止めませんと」


 前置きが長くなりそうなのでダチュラが横やりを入れると、クレマチスが険しい顔で八の字を寄せる。


「原因はわかりきっている。ミオソティス様が変調を来しはじめたのはカガチ様が頻繁に訪れるようになってからだ。恐らくあの男がミオソティス様の御心を煩わせているのだろう」


「あのデリカシー皆無男がきっと余計なことを言ったのですわ。懲らしめてやりたいのですけれど、あの男腐っても魔王なので私程度では敵いませんし口惜しいですわね」


 柳眉を逆立てて勝手に盛り上がっている二人の会話に、それまで黙していたピオニーが口を挟む。


「確かにカガチ様と二人で魔道具の開発を始めた時期と一致しているが、カガチ様が直接的な原因だと決まったわけではないだろう。カガチ様が訪問してきた後、母上は悲しんだり不愉快そうな表情ではなく何かを真剣に思い悩んでいる風であった。傷つけられた等ではなく、我々に話せないような機密情報を聞いてその件について悩んでいるのではないだろうか」


「このお茶甘くないから、お菓子食べてもいい?」


「虫歯ができるから駄目だ、コリウス」


 会議に退屈しているコリウスが満場一致で要望を却下され、しゅんと項垂れた。

 魔族の歯を蝕むことのできる菌が存在するのかは定かではないが、まだ幼いコリウスに習慣を学ばせるために人と同じように規則を決めている。

 

「ガランサス様たちを交えてではなくお二人でいる時に話さなければいけない内容なら、当然私たちにも話していただけないでしょうね。歯痒いですわ」


「あの男、ミオソティス様と秘密を共有するなどなんとうらやま……けしからん」


 クレマチスの口から本音が漏れているが、カガチから得た情報が原因で思い悩んでいて、そしてその内容を話すことができないのであれば、四天王である自分たちにはなす術がない。

 我々は何と無力なのだろう。文殊の知恵を寄せ合っても何の解決策も思い浮かばず、どんよりとした空気が会議室を包んだ時だった。


「ママの元気がないならさ、僕たちと一緒に遊んだらママも元気になるんじゃない?」


 その言葉を聞いて、四天王たちの目から鱗が落ちた。

 皆ミオソティスの心労の原因を取り除くことばかり考えて行き詰っていたが、原因に触れることが叶わなくても気分を晴らすことはできるかもしれない。

 そんな単純なことに今の今まで気付かなかった。コリウスの言葉を聞いた途端、天啓を得たかのように次々とアイディアが浮かんでくる。


「確かミオソティス様は、学生時代は多少娯楽を楽しむことはあったが錬金術師になってからは多忙で趣味に費やすお時間はなかったと聞く。責任感の強いお方だから魔王になってからも勤勉で、我々がお休みいただくよう進言しても読書や買い物にお出かけになるくらいで趣味らしい趣味に勤しむ姿は拝見したことがないな」


「お一人で休ませるといつ呼び出されてもいいように城内に待機するか、買い物と称して城下へおりたとしても視察に近い行動しかとっておりませんわ。根っからの仕事中毒ですし、私たちがお供することで羽根を伸ばすよう誘導できるのは理に適っていますわね」


「ユーカリプタス魔王国は、建国してから一年未満だとは思えぬほど産業も農業も発展してはいるが復興を優先した結果娯楽施設がまだ少ないだろう。先日水木の国へ行った際に日輪の国と同じような座敷遊びのできる茶屋や、伝統芸能を上演している劇場を見つけた。母上を連れて行けば喜んでもらえるのではないか?」


「ちょうど、そろそろユーカリプタスでも異世界の大衆演劇を参考にした演目を上演したいと思っていましたの。そのための視察だと言えばお母様も素直についてきてくださるのではないかしら……ついでに温泉宿に泊まって疲れを癒していただくのはどうでしょう」


「緑豊かなシルベストリス魔王国へ行ってピクニックをしていただくのもいいかもしれないな。書類仕事をしていると魔族といえど疲れ目が出てくるが、あの国の森はお誂え向きだ。しかしそうなるとスノードロップ魔王国だけ行かないのも角が立つ。あそこの獣竜に話を聞いて何か考えるか」

 

 先ほどまで暗かった雰囲気が一転、あれよあれよという間に意見が寄せられてミオソティスの強制休息計画ができあがる。

 ぽかんと口を開けているコリウスの頭を、ピオニーの毛むくじゃらで大きな手のひらが撫でる。


「今回の会議の功労者はお前だな、コリウス」


 人差し指を口の前に立てて内緒のポーズをした後に、ピオニーがコリウスの小さな手のひらに飴玉をひとつ乗せてくれた。

 目を輝かせたコリウスは、音を立てないように包装紙を剥がして飴玉をそっと口の中へと転がしてみる。

 ご褒美に貰った蜂蜜味の飴は、いつもよりうんと甘い味がした。

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