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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第三章 世界征服編
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81 ほおずきの実

カガチ視点です。

 目的の話も済ませたので、ガランサス殿たちが戻る前に自国へ帰ることにした。

 ミオ氏は昼餐も食べて行けばいいのにと残念そうにしていたが、あまり長く城を開けると仕事が溜まるのだと答えると、アフタヌーンティー用のサンドイッチと焙じ茶を魔法瓶のような魔道具に注いだ物を包んで持たせてくれた。

 おそらく、拙者が一人でいると食事を疎かにしがちなのがバレているのだろう。研究者だった彼もかつては同じような食生活を送っていたのかもしれない。

 変に遠慮した方が心を煩わせてしまうお人好しだというのはわかっているので、素直に受け取ってゲートを潜った。


 魔王様のお帰りだと喜ぶ亜人たちからの挨拶を交わしながら城へと直帰して、仕事部屋である書斎へと入る。

 複数枚のモニターが並ぶ前へ腰かけると、サンドイッチの入ったバスケットを開きながら各国の烏たちの映像記録を倍速で流し始めた。

 重要そうな情報はAIが判断してピックアップしてくれるように設定してあるが、それでも漏れがあるかもしれないので自分の目でもチェックするようにしている。

 サンドイッチは卵、ポテトサラダ、ハムチーズの三種類が入っていた。ポテトサラダにはかぼちゃとにんじんが使われていて、そういえばユーカリプタスの野菜事情は早期に解決していたのだったなと納得する。

 拙者も魔王になった直後、魔素が満ちた土地での野菜や果物の栽培を定着させるのに手こずったのだがまさかこんなに早く解決させてしまうとは。

 やはり同じ研究者として尊敬に値する人物だと感心しながら、サンドイッチを咀嚼する。

 サンドイッチの名前をこの世界で広めたのは拙者なのだが、ダチュラ氏がそれに気付いたのには驚いた。

 どうやらサンドイッチの名前はあちらの世界に実在した人物の名前が由来だという説があるらしい。

 知らなかったこととはいえ、勝手に名前を使ってしまい申し訳ないがもう今さら改名もできないので諦めてほしい。


 重要そうな情報は概ねAIが判断した通りだったので精度に安心したが、ところどころ気になるシーンもあった。

 ミオ氏の周りに、小さな蝙蝠が一匹まとわりついていることが多いのだ。

 まさか他国の間諜ではなかろうかとその正体を探ってみると、どうやらミオ氏の側近である吸血鬼の男の眷属のようだ。確か、男の名前はクレマチスだ。

 書類仕事をこなすと同時に眷属の目を借りて主人の安全を見守っているのかと思っていたのだが、どうも違う。

 ミオ氏が楽しそうにしているとクレマチスの顔が緩んでいるし、ガランサス殿がミオ氏に近付くと般若のような顔になっている。

 つまりストーカーだ。ドン引きである。いや、拙者もこうして人のプライベートを盗み見ているので人のことは言えないが、目的が違うので許してほしい。

 

 というか、ガランサス殿なんか近くない?たまに近すぎてミオ氏びっくりしてるけど?

 ミオ氏の匂いをクンカクンカしているのではと疑うくらい近いんですけど。アネモネたそがそれを見てすごい顔になっているんですけど。

 それにしても、アネモネたそも前までならガランサス殿に近づく奴は男女問わず問答無用で滅するって感じだったのに随分丸くなりましたなぁ。

 その優しさを爪の先だけでもいいから拙者にも向けてほしいところでありますが。


 話が逸れた。映像記録のことだ。

 スノーフレーク王国ではドワーフたちがひたすら武具を作っているし、日輪の国では怪しげな研究が以前にも増して盛んに行われている。

 そしてブランダ王国では、外交係の王弟殿下が何やら演説をしている。聖女の再臨がどうとか言っているようだが、なぜに今更聖女?

 アネモネたそが聖女の身体を乗っ取ってからはあの国に聖女は生まれていないはず。拙者がこちらへ来たのは百年ほど前なので、それ以前の情報はこの目で見たわけではないのが何とも言えないが。

 本当に聖女が再び生まれた、もしくは聖女に仕立て上げようとしている人物がいるならばこの男が接触するだろうし、しばらく監視を強化してみようか。

 そしてモンステラ王国では、相変わらず国王夫妻は病に臥せっている。王太子夫妻が生き生きとしているのを見るに、病というのが本当かどうかも疑わしいが。

 

 いや、王太子はこの際どうでもいい。モンステラ王国で注意すべきなのは、傾国の美女である王太子妃のアスタだ。

 この女はユッカ王国の王女だったが、嫁いでからは頻繁にユッカ王国の第二王子と秘密裏に連絡を交わしていた。

 魔道具で送り合っていた手紙は読んですぐに燃やされていたので中身を確認することはできなかったが、国王でも第一王子でもなく第二王子と連絡をとっていたのは何か理由があったのだろう。

 ミオ氏が処刑される前夜も、何やら連絡をとりあっていたのでアスタはお人好しの錬金術師が発明した賢者の石の存在ももしかしたら知っているのかもしれない。

 賢者の石に蘇生の効果があることは魔王になった後に判明したことなので書かれていなかったはずだが、ユーカリプタス魔王国がこんなにも早く国として機能したことを考えると賢者の石に秘密があるのではと勘付く可能性が高い。


「魔王は世界征服を企む悪しき存在、ねぇ」


 四国同盟を組む際にアスタが口にしていた台詞を思い出しながら、拙者は眉根を寄せる。

 世界征服を企んでいるのは、むしろ彼女なのではないだろうか。いや、さすがに魔王相手に勝つつもりがあるほど愚かな女には見えないので思い過ごしか。

 拙者が倒した鬼の魔王は、ククク奴は魔王の中でも最弱……なレベルだったので改造したモデルガン程度でも倒せたがガランサス殿はそうもいかない。

 だから、モンステラが愚かにもユーカリプタスに喧嘩を売ったとしても勝算は一ミリもないはずだ。

 仮に万が一ガランサス殿もアネモネたそも助けに行けない状況になったとしても、拙者と式神が加勢するだけでも充分だ。


 それが当然のはずだ。それなのに、この焦燥感はなんなのだろう。

 アスタの自信に満ち溢れた横顔を眺めながら、拙者は頬張ったサンドイッチを不安と一緒に焙じ茶で流し込むのだった。

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