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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第二章 四国同盟編
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67 DERRINGER

 晩餐が終わり、カガチの秘密を見せてもらえることになった私は彼の書斎へと移動した。

 薄暗い部屋へ足を踏み入れると、書斎というよりは工房と呼んだ方が正しいのではないか、という印象を受けた。

 デスクの上にはどう見ても魔道具であろう複数枚の光る板が並べてあり、壁にもいくつもの見たことのない魔道具が飾られている。

 デスクの右側の壁には床から天井までの備え付けの本棚があり、全ての段にびっしりと本が埋め尽くされていて入りきらない本が床に積み上げられていた。

 

 今、この部屋には私とカガチしかいない。アネモネも面白そうだとついてきたがっていたが、カガチが全力で拒否したのだ。

 無理もない、魔王を倒した秘密なのだから彼にとっては他の魔王を敵に回した際に対応できる唯一の策であるはずだ。

 しかし、それならばなぜ私には見せてくれる気になったのだろう。他の魔王に見せるのは気が進まないはずなのに。

 それとも、私がそれを知ったところで脅威にはなり得ないと思ってのことだろうか。


 私とカガチが二人きりになることについて、ダチュラとピオニーは最後まで渋っていた。そこまでして秘密を知る必要があるのかと。

 おそらく、カガチが私に危害を加えるのではないかと心配しているのだろう。今までの彼の気弱な様子からはそのようなことは考えられないが、実はあの態度が演技である可能性もある。

 しかし私は好奇心には抗えず、どうしても見たいと説得して扉の傍でピオニーが待機することを条件にようやく許可をもらうことができた。


「ミオ氏、お待たせ致しました!こちらが魔王殺しの武器であります」


 カガチの思惑がわからずに漠然とした不安を抱きながら待っていると、カガチは事も無げに魔王殺しの秘密をテーブルに置いた。

 触ってもいいか聞いてみると、手袋を差し出しながらどうぞどうぞと勧めてくる。

 困惑しながらも手袋をはめて武器を手に取ると、手のひらにおさまるサイズながらもずっしりとした重みがあった。

 武器といっても、刃がついているわけではない。小さいレバーのようなものが付いた筒状のその武器は、拳銃という名前らしい。


「何を隠そう拙者、ミリオタでして……いや本職のミリオタの足元にも及ばない程度の微々たる知識ではありますが、好きなアニメに登場した銃のモデルガンを集めるのが趣味でして、実はモデルガンは本来発射機能のない模型が多いのであります。しかしそちらはサバゲ―用のエアガンと呼ばれる空気の力で弾を飛ばす仕組みになっている玩具でして、殺傷能力はないのですが一応弾が出るので、戦闘能力のない拙者でも切り札になり得るのではないかと錬丹術を勉強して魔法の弾を撃てるように改良したのです。国にこの武器がバレると取り上げられる可能性があったので理由を偽って錬丹術を学んだのですが、初めはそんなものを勉強するより魔王討伐の旅を早く進めろと圧力をかけられまして、仕方なく元の世界の便利グッズを錬丹術で作った物を魔道具として登録を申請するとしばらくは見逃してもらえたのでその隙に改良を進めて無事完成させたのですよ!フヒヒ!」


 なるほど、言っている意味の七割はわからないが色々と腑に落ちた。

 カガチやダチュラが時折口にするアニメというものは、大衆演劇のようなものなのだろう。有名な作品の舞台に出てきたドレスや宝石等を買い集める趣味の人は多い。おそらくカガチも、同じような感覚でこの武器を購入して愛でていたのだ。

 そしてちょうど部屋で手に取っていた時に召喚され、この武器も一緒にこの世界へやってきた。

 本来は一般人が取り扱っても危険がないように処理が施されていたが、カガチは錬丹術を学んで本当に武器として扱えるようにした。

 そしてそれを隠し持って魔王討伐に臨み、いざ魔王と対峙した時に活躍したというわけだ。


「手のひらにおさまる大きさだから隠し持つのに最適だし、狙いを定めるのが難しそうだけど慣れれば誰でも扱えそうな素晴らしい武器ね。普通に魔法を撃つ時と同様に反動はあるの?」


「さすがミオ氏、一目見ただけでそこまでわかるとは!こちらの銃は反動は少なめなので手に負担はないのですが、銃身がぶれやすいので利き手は引き金に指をかけて反対の手で銃身を下から支えるように包み込んでですな……」


 カガチが私の背後に立ち、両手を包み込むように指南してくれる。まるで抱き締められているような態勢なので、ピオニーが部屋を覗き込むようなことがあれば戦争になりそうだ。

 しかしこうしていると、普段は背中を丸めていたので気付かなかったが彼は意外と背が高い。大柄なガランやピオニーには遠く及ばないが、私よりは相当高いだろう。

 魔王としての威厳は一切感じないカガチだが、背筋を伸ばして髪型を整えれば印象ががらりと変わるかもしれない。

 そして、彼の上気した頬と興奮気味の息遣いを見て、気付いたことがもうひとつ。


「カガチは、錬金術師である私ならこの武器を理解できると思ったから見せてくれたのね」


「え?あ、はい。そうですが」


 彼がこの武器に向ける眼差しは、武器というより宝物に向けるものに近い。

 アネモネに見せることを拒否したのは、彼女が自分の宝物に無遠慮に触れそうなのが嫌だったからなのだろう。

 確かに、彼女にこれを見せたら手袋も嵌めずに触った挙句迷うことなく引き金を引きそうだ。

 しかし、誰かにこの宝物の素晴らしさを語りたい気持ちもあった。そこで私が選ばれたのだ。同じ技術者の端くれとして、きっと理解してもらえるだろうと。

 気持ちはとてもよくわかる。私だって自分の傑作である賢者の石について誰かに語りたいのに、国のため秘密にせざるを得なくてやきもきしているのだから。

 だから私は、彼の気持ちを晴らすために欲しい言葉を投げかける。


「この武器がこれだけ素晴らしいのなら、出てくる作品もきっと素晴らしいのでしょうね」


「その通りであります!拙者がまだ幼い頃に上映されていた映画にこの銃が出てくるのですが、この銃はそのアニメの世界では時代遅れ扱いされていて実際他に便利な銃がたくさん世に存在していたのですが主人公がこの銃だけを愛し、不便でもこの銃一本で数々の強敵と戦っていく姿がまさに漢と呼ぶにふさわしく……!」


 私の言葉をきっかけに、カガチは百年分の欲求不満を爆発させたかのように作品への愛を語り続けた。

 そしてその話は、不審に思い部屋へ突入してきたピオニーに強制的に止められるまで、長く長く続いたのだった。

ガランの出番が全然ありませんが、彼はずっと水木の国の新しいグルメを堪能しています。

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