59 Girl!Girl!Girl!
次話と合わせて一話にまとめるつもりだったので、今回は二話分更新です。
シルベストリス魔王国は、ユーカリプタス魔王国の西方の森の奥に位置している。
西の森は街道なども整備されておらず、スノードロップ魔王国へ向かう途中に生い茂っていた針葉樹林とは違い広葉樹林が広がっているため、上空から見下ろすと明るい若葉色が広がっている。
広大な森の中にはエルフの住むブランダ王国が広がっていると聞くが、迂闊に森の奥へ入り込めば排他的なエルフたちに捕らえられてしまうか、精霊たちに惑わされて永遠に森の中を彷徨うことになるらしい。
もっとも、今の私たちのように森の上空を飛んでしまえばそのような心配もいらないのだが。
「ようこそ、シルベストリス魔王国へ!」
国へ着くなりアネモネが案内してくれたのは、古びた教会だった。おそらく、三百年前にアネモネの依り代となった聖女が使っていた教会なのだろう。
天を衝くような先の尖った屋根は塗装が剝げて色あせてしまっている上に、外壁の煉瓦も黒カビやコケが生えてしまっている。
教会の中へ入ると、色鮮やかなバラ窓と祈る聖女をモチーフにした大きなステンドグラスが目に入ったが、どちらも経年劣化でくすんで割れてしまっているのがとても残念だ。
三百年前はさぞかし美しい教会だっただろうに、今となっては見る影もない。
千年経っているガランの古城の方が綺麗に見えるのは、エビネが清掃をしっかりしているからなのだろう。対してアネモネは、自分の身の回りの世話をする悪魔はいないと言っていたのでこの惨状も頷ける。
「ミオと一緒ならガランも来ると思ったのに残念だわ。ガランったらあたしの国には全然遊びに来てくれないのよね」
アネモネはそう口を尖らせているが、さもありなんと苦笑する。
いくら私の持参した昼食があるとはいえ、従者のいないこの国では厚遇も受けられないので面倒くさい気持ちの方が勝ってしまったのだろう。
「僕知ってるよ、こういうの女子会っていうんだよね!」
ダチュラに教えてもらったんだ、と大喜びするコリウスの言葉に、アネモネが怪訝そうに眉を顰める。
「女子会って……女子とは呼べない子が混ざってるんですけど?」
ナイフのように鋭い視線で睨みつけた後、アネモネはコリウスの肩を掴んで揺さぶった。
「コリウス、あんたも女子扱いされたいのなら、わがまま言わないでかわいい服も着なさいよ。かわいい服を用意してもらえることがどれだけ幸せかわからない身の上じゃないでしょ、この贅沢者!」
「うぅ、僕だって最初は喜んで着てたんだけど、ダチュラが一日中着せ替えるから疲れちゃって……」
なるほど、コリウスの服嫌いはダチュラがあまりに拘束してしまうことが原因だったようだ。
その証拠に、今日はアネモネが一緒に着替えようと声をかけただけですんなり服を着てくれた。
普段の動きやすいシンプルな服ではなく、羽根が散りばめられた丈の短いスカートの妖精のような可愛らしいドレスだ。
なお、先ほどのアネモネの言葉を聞いた時。女子とは呼べないとは私のことだろうかと一瞬どきりとしてしまったことは、心にしまっておくことにした。
長時間の飛行で疲れてしまった私たちは、教会の近くに生えている大樹の木陰にシートを広げてブランチをとることにした。
今日持ってきたのは、コリウスの大好物のミートパイだ。カトラリーがなくても食べやすいように丸型ではなく長方形で、食糧問題も解決したのでパイの中にはラム肉がたっぷりと入っている。
火魔法で温めてから口に入れると、私がコリウスと出会った日に食べた屋台のミートパイを思い出す懐かしいだった。
「おいしー!やっぱりミートパイが一番好き!」
落ちそうな頬を抑えながら食べるコリウスの笑顔を微笑ましく見ていると、彼女の周りに色とりどりの淡い光が集まっていることに気付く。
何の光だろうと目を凝らすと、光のひとつひとつが意思を持っているような不思議な動きでコリウスの周りをくるくると回りだした。
「えっ何何?」
「あぁ、やっぱりコリウス、あなた精霊に愛されているのね」
精霊。草木や動物などに宿っているとされる存在だが、今まで目にしたことはなかった。
自然豊かな森では稀に見かけるとは聞いたことがあるが、それがこんなにもたくさん集まるだなんて。
それも、私の周りにはほとんど集まらずにコリウスの周りにだけ異様に集まっている。
「どうしてコリウスに寄ってくるのかしら。やっぱり、ということはアネモネは以前から気付いていたの?」
「むしろミオは気付いてなかったの?この子の種族を考えたら当たり前だとは思っていたけど」
「あぁ、そういえばハーピーは精霊だから……」
失念していたが、ただの魔物ではなくハーピーは精霊だという説がある。だから精霊が仲間だと認識して、こんなにも集まるのだろう。私はそう結論付けたのだが。
「ハーピーじゃないわ。羽根の形で私も最初勘違いしたけど……コリウスの種族は、たぶんシルフよ」
「え?」
四大精霊のうち、風を司る精霊シルフ。
まさかコリウスがそんな神秘的な存在だとは思わなかった私は、呑気にミートパイを頬張っているコリウスを呆然としながら眺めていた。




