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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第一章 魔王国建国編
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06 Remember me

 腹拵えが済んで城へと帰る道すがら、大通りにある商店街のショーウィンドウを見て回る。

 気晴らしのためでもあるが、季節ごとに移り変わる流行を知ることは知識の更新にも繋がるのだ。

 特に最近はずっと引きこもっていたせいで私の知らない魔道具が店先に並んでいるのを確認し、慌てて仕様を頭に入れる。

 いくつかの仕立て屋で今夏の流行色を確認していると、ある雑貨店が私の目に留まった。


「きれい……」


 ほう、と思わずため息をついたのは、色とりどりのネイルポリッシュだった。

 目立つように飾られているものは春や夏に使い勝手の良さそうなパステルカラーが多く、真珠の粉が混ぜてあるのかキラキラと光を反射している。

 姉と着せ替えごっこをしていた頃は赤やピンク色が主流だったはずだが、いつの間にこんなにたくさんの色が並ぶようになったのだろう。

 青系の染料は花だろうか。黄色や緑は?奥にある奇抜で鮮やかな色はどうやって?

 好奇心でつい立ち止まって眺めていると、ドアベルが鳴って店の中から美しい金髪の女性が顔を出した。


「どうぞ、中へ入ってご覧になってくださいまし」


 男性である私が躊躇なく声をかけられたことに戸惑っていると、女性とは思えぬ力で手を引かれ半ば強引に入店させられてしまった。ドアを潜った途端に爽やかな花の香りが私の鼻腔を刺激する。

 明るい店内に視線を配ると、ネイルポリッシュの他にカラフルな化粧品や香水などが並んでいて目に嬉しい。


「こちらの商品は春だけでなく夏にもお使いいただけるので、とても人気があるんですの」


「あ……ごめんなさい、カラフルなので見入ってしまいましたが私は仕事柄爪を塗れないもので」


 先ほど私が見ていた商品を手に取り女性が接客を始めたので、慌てた私は購入するつもりがないことを説明する。

 万が一調合物に成分が混じるといけないので、錬金術師は爪に色を塗ることはできないのだ。

 すると店主の女性は一瞬驚いた顔を見せた後に、色っぽい表情を崩して口元のほくろを隠しながらころころと笑った。


「ごめんなさい、プレゼント用に見ているのかと勘違いしてしまいましたわ」


 どうやら彼女は、男性である私が女性にプレゼントを選んでいるのだと早合点したらしい。

 冷静に考えると普通はそう考えるのが自然なことに気が付いて、私は墓穴を掘った恥ずかしさのあまり耳まで赤くした。


「では、化粧品はどうかしら?お客様なら淡い色がお似合いだと思いましてよ」


 冷やかしであったことがわかればもう接客してくることもないだろうと思っていた私に、店主は次の商品を勧めてきたものだから驚いた。

 男がネイルポリッシュに見惚れていたなんて、鼻で嗤われることすら覚悟していたというのに。


「あの……私は錬金術師で、化粧品も調合物に粉が混ざるといけないので」


「あら、素材はいいのに残念ですわね。休日だけでもダメかしら?」


 話をしているうちに店主の態度が段々崩れてきたのは、私が顧客になり得ないとわかったからだろうか。

 錬金術師は勤務中は化粧品の類を塗ることはできない。休日だけメイクアップをしている女性職員はいないことはないが、棍を詰めることが多い職業柄休日は睡眠を貪ったり部屋で寛ぐ人間が多かった。


「というか、あなた肌が荒れているようだけど夜更かしすることが多いんですの?基礎化粧品は何を使っているのかしら?」


「ええと、魔女たちの夜会を。ここ数日は仕事で睡眠不足で……」


「魔女たちの夜会!うちの店でも人気商品ですわ。いい物を使っているんですのね」


 思わず言い訳のように説明してしまったが、彼女は気にすることなく私が普段はケアを怠っていないことを褒めてくれた。

 魔女たちの夜会というのは私の愛用している基礎化粧品のブランドで、あまり裕福でない貴族でも比較的手が届きやすいお値段のものだ。


「香水はどうかしら?勤務中に使えなくて休日にお洒落する暇がなくても、枕に吹きかければ安眠効果が得られましてよ」


 店主がハンカチに香水を吹きかけてくれたのを受けとると、ふわりとラベンダーの香りが漂った。確かにこれなら普段つけることができなくても、香水を楽しむことができる。

 成人してからはお洒落とは無縁の生活を送っていたものの憧れだけは忘れずにいたので、一気に購買意欲を唆られた。

 寝る時だけでなく入浴時にも楽しめると言われ、それならラベンダーやカモミール以外の物を買ってもいいかもしれないと思った瞬間、ある香りが記憶に蘇る。


「バニラの香りはどれですか?」


 先日殿下がつけていた香水の香り。あの香りに包まれながら眠れたらどんなに幸せだろう、と思ってしまったのだ。

 もちろん殿下に知られたら恥ずかしくて生きていけないので取り扱いには気を付けなければいけない。


「あなたならバニラ系より花の香りが似合いそうだと思ったのだけれど」


 私からただならぬ様子を感じとったのか、彼女は手に持っていた候補の香水を棚に戻した。そしていくつかのバニラ系の香水を出してもらい、なるべく殿下の香りに近そうなものを選ぶ。

 悩みに悩んだ末、私はシオン殿下の瞳の色と同じ紫の瓶に入れられた香水を選んだ。

 先ほどの店主の言葉を思い出して花の香りの香水が並ぶ棚を眺めると、ひとつ気になる香水を見つける。


「あそこの空色の香水瓶は……」


「あぁ、勿忘草の香水ですわ」


 瓶に勿忘草のような花が彫ってあるように見えたが、やはり勿忘草の香水だったらしい。

 とはいっても、勿忘草には香りはほとんどないので、勿忘草をイメージしただけで実際は鈴蘭など他の花の香りをブレンドしているらしい。


「この香りで私を思い出して、なんてロマンチックな想いがこめられていますの」


「あの、あちらもいただけますか」


 私がバニラの香りで殿下を思い出したように、殿下にも私の香りを思い出してもらえたら。

 店主の接客に乗せられてしまった私は、結局香水を二瓶も購入してしまった。

 香水瓶を袋に詰める際、店主はサービスだと言って白粉と口紅の試供品を一緒に入れてウインクをする。


「私はね、きれいになりたい気持ちに男も女も関係ないと思っておりますの。誰かに見られるのが嫌だったら、部屋で一人の時にでも使ってみてくださいまし」


 その言葉には、客となって売り上げに貢献してくれるなら男でも構わないという思惑が籠められていたのかもしれない。

 それでも私は自分が認められたような気がして思わず目頭が熱くなり、ありがとうございますの言葉が少しだけ震えてしまった。


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