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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第二章 四国同盟編
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53 恋するパスタ

 意外なことに、アネモネが講義に参加したことにより私は変化のコツを掴むことができた。

 ガランの指導が感覚的な説明だったのに対し、アネモネの指導がより具体的だったためだ。


「変化にイメージが大切なのは確かなんだけど、ミオはまず魔力の流れがスムーズにできていないわ。最初は魔力を角から背中へ移動させることだけに集中して、だいたい集まったら肩甲骨の部分に凝縮させてから魔力を外部に放出させるの。その時に、生やしたい翼は何色でどんな形と大きさなのか、イメージを明確にするといいわよ」

 

 この説明を聞いただけで、私は背中に翼を生やすことに一度で成功した。

 ドラゴンを間近で見たのがガランだけだったせいだろうか。背中に生えた翼は色こそ私の髪と同じ藤色だったが、形はガランの翼とほぼ変わらず一回り小さかった。

 早速翼で空を飛ぼうとしたものの飛び立つことすらままならなかったので、明日からは飛行の練習になりそうだ。


「ミオの国は、デザートだけじゃなくて料理もとってもおいしいのね!ガランが通うわけだわ」


 協力してもらったお礼に、私はガランだけでなくアネモネも昼食に招待した。

 本日のメニューは無難にパンチェッタと採れたて野菜を使ったペペロンチーノだったのだが、どうやらお気に召してもらえたらしい。

 辛みは控えめにしてあるので、唐辛子を漬けたピカンテオイルで各自調整をしてもらうスタイルだ。

 魔王相手に無礼を働いてはいけないのでコリウスはクレマチスに発言を禁止されているのだが、アネモネと顔を合わせた瞬間に「お客さんのお姉ちゃん!」と顔を輝かせて何やら意気投合していた。いったい二人はいつの間に知り合ったのだろう。

 

 最初は四天王と一緒に食事をしていた時ですら賑やかな食事だと感じていたのに、そこへガランが加わり、さらに饒舌なアネモネが加わったことでもはや宴会のような雰囲気になった。

 研究室でひとり味のしない携帯食料を頬張っていた日々が、ひと月あまりしか経っていないのにまるで遠い過去のように感じる。

 

「カガチの国の料理もおいしいけど、あたしの見た目のせいかお子様向けの料理ばかり出されるのよね。こういう辛い料理は新鮮だわ」


 あたしの方が長生きしてるのに失礼しちゃう、と頬を膨らませるアネモネは、確かに幼く見える。

 聖女の身体自体は16歳くらいのようだが、発育があまり良くないように見えるのは依り代となった聖女が質素倹約な食事を心がけていたせいか、アネモネ自身が教会であまり食事をしないせいだろうか。


「あの国に子供向けの料理などあったか?」


「あいつ、ガランが行く時はおもてなし用の料理を準備してるみたいだからガランは食べたことないかもね。あたしが行く時はオムライスとかナポリタンとかばっかりよ。あれもおいしいけど」


 オムライス、という料理は名前からして米を使うのだろう。東方の米はこちらで流通しているものとは形や味が違うと聞いたことがあるのでどんな味か想像できない。

 ピオニーは食べたことがあるだろうかと目配せをすると、他の者から気付かれない程度に、彼は小さく首を傾げた後横に振った。

 どうやら、オムライスもナポリタンもピオニーが留学していた日輪の国では見かけない料理らしい。水木の国でしか食べられない料理なのだろうか。


「アネモネ様は、オムライスは薄焼き派とふわとろ派どちらですの?」


「あたしは薄焼き派ね!カガチはふわとろが好きみたいなんだけど、卵を生みたいな状態で食べるのに抵抗があるのよね」


 まだ見ぬ料理に思いを馳せていた時、ダチュラのアネモネへの質問を聞いて私は驚いた。

 東方へ留学していた経験のあるピオニーが知らない料理を、なぜ彼女が知っているのだろう。

 

「ダチュラは食べたことがあるの?」


 私が素朴な疑問を口にすると、ダチュラのただでさえ青白い顔がさっと青ざめる。

 ダチュラが以前から何かを隠していることは、何となく察していた。私たちは元が人間なので、多少の隠し事はあるだろう。

 コリウスはともかく、ピオニーやクレマチスも生前の話をするとたまに歯切れの悪い時がある。

 だから不快な気持ちにはならないのだけど、王族に仕えていたクレマチスや爵位の高かったピオニーよりも、ただの雑貨店の店主であったはずのダチュラの方が重大な隠し事をしているような気がして純粋に不思議なのだ。


「あれ?そういえばあの料理って、カガチが故郷で食べたものだって言ってたわね。ダチュラも異世界から来たの?」


「えっ?」


 アネモネの言葉に出てきた単語を聞いて、私だけでなくダチュラも戸惑いの声を上げた。異世界から来た、とはどういうことなのだろう。

 困惑する私を見て、ガランがパスタにピカンテオイルを大量に振りかけていた手を止める。


「言ってなかったか?カガチは異世界から召喚された元勇者だ」


「そっちですの……!」


 彼の説明が理解できずにぽかんとする私と違い、ダチュラは一言聞いただけで全てを理解したような叫び声を上げた。それに、そっちとはどういう意味だろう。

 異世界から召喚されただとか、元勇者だとか情報量が多すぎてまったく思考が追い付かない。

 ヒトの魔王であるカガチが、失われた秘術で異なる世界からやってきた人間だというなら、その知識を有するダチュラはいったい何者なのだろう。

 

 軽い気持ちで触れた我が子の秘密が、まさに今。

 大事に閉じ込められていた箱から、その片鱗を見せようとしていた。

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