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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第二章 四国同盟編
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49 HOT DOG

 食糧問題の野菜と果物はある程度解決できたのだが、問題は酪農と畜産だ。農業と同じ要領で動物の死骸を魔物化させたくても、国ができた時に食糧確保のため全て捌いてしまったので不可能なのだ。

 鶏肉と卵だけは、元々城壁外に出没していた野生のコカトリスを捕獲して繁殖に挑戦しておりこのままいけば無事に安定供給できそうだ。

 しかし牛や山羊に似た野生の魔物が、ミノタウロスなどの食用には気が進まない人型の魔物しかいない。


「そこで私は、バロメッツという伝説の植物を生み出せないか挑戦していたのですが……」


「バロメッツ?聞いたことがないな」


 フィールドワークが終わり城へと帰る馬車の中で、再びフェンリルのマントに包まりながら私はガランへ計画を話す。

 バロメッツというのは空想上の植物で、その実から羊が生まれると言われる植物と動物が融合したような生き物だ。

 バロメッツから生まれる羊は金色の羊毛を持ち、もちろん肉も食べられる。錬金術界隈では存在しない生き物だと結論付けられてしまったが、魔物の交雑を利用すれば再現できるのではないだろうかと私は考えた。

 理論上は可能だとわかったので、後は動物の死骸に植物の魔石の賢者の石を試すだけなのだが、肝心の動物の死骸がないので結局振り出しに戻っている状態だ。


「ふむ。それならば今度銀魔羊とヘイズルーンを何頭か土産に持ってきてやろう」


「ヘイズルーンをですか?」


 銀魔羊もヘイズルーンも、魔物図鑑で読んだことがある。銀魔羊は文字通り銀色の毛を持つ羊の魔物で、寒いところに住むらしいのでスノードロップ魔王国の領土内に住んでいるのだろう。角・羊毛・肉・乳と余るところなく使えるので、繁殖できればとても助かる。

 ヘイズルーンも北に住む山羊の魔物だが、その山羊からは乳ではなく蜜酒が採れるのでドワーフたちが独占していて手に入れるのが難しいと聞いている。

 ドワーフたちの住む国はガランの住む国の麓にあるようだし、人間からは頑固で野蛮だと恐れられているドワーフもガランにかかれば赤子のようなものなのかもしれない。


「容易いことだ。その代わりといっては何だが、余分に持ってくるから……」


「はい、銀魔羊の乳やヘイズルーンの肉を使った料理を振舞いますね」


 黙っていれば氷のように鋭く冷たい瞳を持つ孤高の魔王、という印象しかないガランだが、蓋を開ければ食べることが大好きなドラゴンだったことがわかりとても微笑ましい。

 千年もの間代わり映えのない食生活を送っていたようだしできれば色々な物を食べさせてあげたいが、料理は初日のビーフシチューが一番気に入っていたようだし味の濃い物が好きなのだろうか。



 今日は遠出したせいで昼食の時間までに城へ帰ることができないため、道中にある湖畔の近くでピクニックセットを広げて軽食をとることにした。

 バスケットからホットドッグを取り出すとガランが興味深そうに目を輝かせているので、私は胸を撫で下ろす。魔王にこのような庶民向けの料理を食べさせていいものか迷っていたのだが、要らぬ心配だったようだ。


「普段は凝った料理は食べないとのことでしたが、具体的にはどのような料理でしょうか?」


「俺が狩った獲物を使って、眷属がステーキやスペアリブ、ポトフなどを作っている」


 戸惑いながらもホットドッグを美味しそうに頬張るガランの言葉を聞いて、私は顔も知らない彼の眷属に同情する。

 料理をしない者から見ればステーキはただ焼いただけに見えるが、柔らかく焼くには下処理が大事だし火加減にコツもいる。焼いた後に寝かせる時間も大事なので、美味しく作ろうと思うと意外と手間のかかる料理だ。

 スペアリブも工程は漬けて焼くだけだが焦がさないよう長時間かけてじっくり焼かなければならないし、ポトフだって肉によっては一晩煮込まないとやわらかくならない。

 どうやら野菜がないせいで味付けが単調になりがちだっただけで、ガランは十分凝った料理を作ってもらっていたらしい。

 農業をしていないということは小麦もないはずなので、パンすら普段は食べないのだろう。

 だから彼の眷属の作る凝った料理よりも、パンにソーセージを挟んだだけの料理に舌鼓を打っているのだろうがあまりにも眷属が不憫すぎる。


「眷属の方は何名くらいいらっしゃるんですか?」


「領土内に住む魔物は大勢いるが、直接契約を交わした眷属はひとりだけだ。その者が炊事と城の管理をしている」


 さらに飛び出したガランの爆弾発言を聞いて、錬金術師時代の繁忙期の頃の地獄の日々が走馬灯のように蘇った私は思わず動悸と眩暈を覚えた。


「お一人だけで城を管理するだなんて、過労死してしまいますよ……!」


「?俺の眷属は不死だから問題はない」


 青ざめる私の言葉を聞いてもきょとんとしているガランは、二本目のホットドッグに手を伸ばす。どうやら彼は、根本的なことが理解できていないらしい。

 ガランの住む城を見たことがないのでどれくらいの広さか知らないが、少なくともドラゴンの姿の時の巨体が入る大きさなら一人で切り盛りするような場所ではない。


 このままでは、物理的に死ななくても精神的に死んでしまう。よく千年間も耐えたものだ。今後はガランに持たせる手土産に、彼の眷属を労う目的のものも添えてあげよう。

 三本目のホットドッグにマスタードをたっぷりかけて喜んでいるガランを見て、私はこっそりと決意したのだった。

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