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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第二章 四国同盟編
41/110

40 冬の太陽


 一刻も早く現場に駆けつけようと、四天王と共に一斉に走り出したがヒールを履いていたので思うように足が進まない。どうにか階段を駆け降りて城の外へ躍り出ると、凍った石床に足を滑らせそうになったがピオニーに支えられて事なきを得た。そのままピオニーにエスコートされながら目的の場所まで進むと、信じられない光景が目に入って青ざめる。


「おじちゃんだぁれ?すっごく大きいね!」


「コリウス、離れなさい!」


 バルコニーから直接城門へ飛び、ドラゴンの元へ誰よりも早く到着したコリウスが、あろうことか彼に気安く話しかけていたのだ。

 先ほど竜族には関わってはいけないと忠告したばかりだが、よく考えれば生前のコリウスは平民で本も読む機会がなかった。おそらく、目の前の生き物がドラゴンだということに気付いていないのだろう。

 はぁいと気の抜けた返事をしながら戻ってきたコリウスを背に隠し、私は大きな白いドラゴンに向き直る。青空のように透き通った蒼い瞳に見下ろされて竦んだ足を叱咤して、私はいつものようにカーテシーで挨拶をした。


「配下がご迷惑をおかけして申し訳ございません。私はユーカリプタス魔王国の魔王、ミオソティスと申します」


「うむ。俺はスノードロップ魔王国の魔王、ガランサスという」


 このドラゴンから感じる強大な魔力、光り輝く角が生えているのを見て、彼が竜の魔王だろうと予想してはいたものの的中してしまったらしい。私は紫色に光る黒い角だが、彼に生えているのは瞳と同じ蒼色に光る白い角だ。

 そして、竜の魔王が住む北の国はスノードロップ魔王国というらしい。随分と可愛らしい名前だが、北の山の麓にはスノーフレーク王国という似たような名前の国がある。もしかすると関係があるのかもしれない。

 一言にドラゴンと言っても種類が様々だが、どうやらガランサスは氷竜と呼ばれる種族のようだ。彼が言葉を発するたびに冷たい吐息が顔にかかり、髪がパリパリと凍りつく。

 クレマチスがマントを調達してきて私の肩にかけてくれたので少しはマシになったが、それでも指先がうまく動かせない程度には寒い。私たちが魔族だから生きていられるが、ただの人間であった頃なら彼から漏れ出る冷気に近付いただけで絶命していただろう。


「新しい魔王が誕生したと聞いて大きな魔力を目指して飛んできたのだが、久々の外出で着地の衝撃を抑えられなかった。城を破壊してしまったな」


「まだ復興の途中でしたので、お気になさらなくて結構です」


 なるべく柔らかい笑みを貼り付けてそう返したが、嘘だ。せっかく民の協力もあって城の復興と改装がかなり進んでいたのに、城門の前がボロボロになってしまってとても悔しい。

 本当なら今すぐ直せと怒鳴りつけてやりたいくらいだが、魔王として目覚めたばかりの私が千年以上魔王を務めているドラゴン相手に勝てるはずもない。自分の命だけならまだしも、国民全員の命を考えると楯突くのは得策ではないので黙っているだけだ。


「それにしても、お前が魔王として覚醒したのは数日前のはずだが……なぜ配下がこんなにも多いのだ?おまけに既に国が機能しているとは」


 クレマチスに指示されて混乱しながらも城から避難した作業員の魔物たちや、四天王をじっと眺めてガランサスは不思議そうに首を傾げる。やはり、私が魔王として国を治めるようになった経緯はかなり異端な方なのだろう。

 できればこれを機に他の魔王国について話を聞きたいところだが、さてどう話を進めようかと考えあぐねていると。


 ぐううううううううううう


 互いに警戒してピリピリとしていた空気の中、コリウスのお腹の虫が突然大きく鳴り響いた。クレマチスに喋るなと言われたのか、口を両手で覆っていたコリウスが皆に注目されて照れ臭そうに笑う。


「昼食がまだだったのだな。俺はこの国を見て回っているから気にせずに食べてくるといい」


 ガランサスの言葉を聞いてコリウスは両手を上げて喜んだが、同時に私たちの顔から血の気が引く。冗談じゃない。この巨体で国を飛び回られたら他の場所まで破壊されてしまうし、漏れ出している冷気で色んな物が凍りついてしまうのも困る。

 覚悟していたよりも話が通じそうな性格なのはありがたいが、このまま常識離れしたガランサスを野放しにしては危険だと判断した私は、慌てて彼を引き止めた。


「もしよろしければ、ガランサス様もご一緒にいかがですか?」


「俺は構わないが……」


 ガランサスは徐に首をもたげて、城門をじっと見つめる。城を改装する際に大型の魔物でも通れるように城門を広めに設計してあるので、羽根さえたためばガランサスでも通れるだろう。ただあの巨体では食堂には間違いなく入らない。

 となれば、テーブルセットを外に出してもらって青空の下で食べた方がいいかもしれない。広間ならば入れるかもしれないが、賓客に窮屈な思いをさせるのも忍びない。彼から溢れ出ている冷気も、室内に充満するよりは室外の方が影響が少ないだろうと考えを巡らせていたその時。


「ふむ。これならば良いか」


 ガランサスの身体が淡く光ったと思うと、みるみるうちに縮んでいく。光がおさまる頃には、その大きさがピオニーと同じ程度になっていた。

 そして、変わったのは大きさだけではない。そこに立っていたのはドラゴンではなくドラゴニュート、竜と人の混血のような姿になったガランサスの姿だった。

 さらりと流れる銀髪は邪魔にならないようハーフアップに結っており、雪のように白い肌には氷のような薄い鱗が所々に這っている。ドラゴンの姿の時と同じ蒼い双眸と角が、紛れもなく目の前の男がガランサスなのだということを証明している。

 竜の魔王の名に恥じない、ドラゴンの姿に負けぬほど美しい仮初の姿。ただ一つ問題なのは、程よく逞しい筋肉が、あられもなく、その――


「ふっ、服を着てくださいまし!」


 痺れを切らしたダチュラが、真っ青な顔で不敬も恐れず悲鳴を上げる。

 そう、城に入るために竜人の姿へと変貌したガランサスは、見目麗しくとも一糸纏わぬ大変残念な姿だったのだった。

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