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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第一章 魔王国建国編
30/110

30 淑女魔王とお呼びなさい

 我が子たちからのサプライズプレゼントは、本当に素敵なものだった。それはそれとして、だ。


「ちょっと全員そこに座りなさい」


 国民への演説を終えた私は、子どもたちを一列に並べて床に座らせた。

 サプライズするにも限度というものがある。いくら成果が素晴らしかろうと、半ば騙し討ちのような形で私の研究物を無断で使用したこと、大勢の命を巻き込んだことは到底許されることではない。

 全員素直に床に座ったものの、ピオニーは背筋をピンと伸ばして我が人生に一片の悔いなしとでも言いたそうな表情だし、コリウスは怒られようとしている自覚すらないようでにこにこしている。ダチュラも一切悪びれた様子はないし、クレマチスに至ってはなぜか恍惚とした表情でこちらを見ている。彼を喜ばせるような行動をとった覚えはないのだが。おまけにシオンは、相変わらず何を考えているのかわからない。

 

「錬金術師が制作した物の責任は錬金術師が受け持たなければならないの。今後一切、私が錬金術で作ったものを無断で使わないと約束してちょうだい」


 子どもたちの倫理観がどうなっているのかわからないので、命の大切さは置いておいて私の責任を人質に説教をしてみると、効果は覿面だったらしい。今まで反省の色を一切見せなかった四人が見る見るうちに落ち込んで項垂れた。

 彼らからすると道端の花を摘んで花束をプレゼントをしたくらいの感覚だったのかもしれないが、ようやく事の重大さを認識したようだ。


「今回の件は、大事な研究物の処分を人任せにした私も悪かったからこの話はこれでおしまい。皆、素敵なプレゼントをありがとう」


 威厳を出すために無理に寄せていた眉間の皺を解いて労ってやると、子どもたちの顔色がぱっと明るくなった。我ながら甘すぎると思うが、嬉しかったのだから仕方がない。

 それに賢者の石は魔王化した時になくなってしまったはずなのに、怒りが湧いてもまるで賢者の石を身に着けていた時のように消えていってしまうのだ。賢者の石の効果がまだ残っているのかはわからないが、怒りがなくては怒るに怒れない。

 

「お話が終わったのでしたら、今からミオソティス様の二つ名を決める会議を行いましょう」


「二つ名?」


 クレマチスに連れられて皆で会議室へ移動すると、円卓に座った途端音もなく現れたメイド姿の吸血鬼に冷たい紅茶を給仕された。声を張り上げて演説をしたせいで喉が渇いていたのでありがたい。


「既存の魔王たちはそれぞれ、魔王になる前の種族が由来で竜の魔王、悪魔の魔王、ヒトの魔王と呼ばれていますわね」


 この大陸には魔王が三人いる。北の山にいるのが竜の魔王、西の森にいるのが悪魔の魔王、東の島にいるのがヒトの魔王だ。三人の魔王は人間との交流が良くも悪くも一切ないので、個人名がわからない。だから二つ名で呼ばれているらしい。


「私は別に名前を隠すつもりもないし名前で呼ばれてもかまわないのだけど、二つ名も必要なのかしら」


「他の魔王と区別するためにも便宜上必要でしょう。ただ、そうなると東の魔王も元人間なので……」


 これまでの法則に基づいてヒトの魔王と名乗ると東の魔王と被ってしまう。確かに勝手に妙な二つ名をつけられてしまう前に、自分で決めて名乗った方がよさそうだ。


「はいはい!僕たち兄姉も何か呼び名があった方がかっこよくないかな!」


「四天王でいいんじゃありません?」


 私が二つ名を決めあぐねていると、コリウスが元気よく挙手をする。それに対し、ダチュラがすぐに返事を返したが四天王というのは聞いたことのない単語だった。私たちがきょとんとしていると、ダチュラがあからさまに挙動不審になる。


「あらやだ。もしかして、ククク……奴は四天王の中でも最弱……みたいなのってこちらでは鉄板ネタではないんですの?」


「そのネタは聞いたことがないが、東方に四天という言葉はある。それを司る王という意味なら悪くないのではないか」


「でもシオンも入れたら五人だよ?シオンは仲間外れ?」


「あら、四天王は五人でもいいと相場が決まっていますのよ」


 子どもたちが盛り上がっている最中、私は黙々と自分の二つ名について考えていた。そもそも、種族名を二つ名にするなんて安直すぎて風情がない。例え東の魔王がいなくともヒトの魔王という二つ名は御免被りたかった。

 どうせなら、呼ばれて嬉しいものがいい。自分の目標というか、こういう魔王になりたいという願いが体現されているような。

 強い魔王や畏怖される魔王、悪逆非道な魔王には私はなれないだろう。私のなりたい魔王の姿を想像した私は、ひとつの答えにたどり着く。


「淑女魔王、はどうかしら」


 ぼそりと口に出してみると、まるで最初からそう呼ばれていたかのようにしっくりくる。

 私の一言で会議室がしんと静まり返ったかと思うと、次の瞬間わっと湧いた。


「素晴らしい二つ名ですミオソティス様!」


「お母様らしいですわぁ」


「しゅくじょって何かわからないけど、ヒトの魔王よりかっこいい!」


「似合っていると思う」


 とりあえずコリウスには後で淑女の意味を教えてあげるとして、概ね好評のようだ。それならばと、私は胸を張って宣言する。



「それではこれから私のことは――淑女魔王とお呼びなさい」


これにて第一章は終わりです。

暗い話をだらだら書くのは好きではないせいで駆け足気味だったので、第二章はもう少しのんびり描写していくと思います。

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