29 reborn
ダチュラの手で見事に着飾られた私が皆の前に顔を出すと、一晩中働いて疲労の色を見せていた子供たちの顔がきらきらと輝いた。
「母上、とても似合っている」
「ママすごくきれい!かっこいいー!」
「め、女神よ……!」
若干一名号泣しているおかしなテンションの者もいるが、褒められて嫌な気はしないので私は素直に礼を述べた。シオンも喋れないものの、喜んでいるのか身体をぽよんぽよんと跳ねさせている。
ダチュラの手腕は、ただの雑貨店の店主とは思えないほど本当にすごかった。高級な化粧品を惜しげもなく使ったせいもあるだろうが、肌は毛穴が消えてまるで陶器のように輝いているし、気弱そうに見える私の下がり目を妖艶で意思の強そうな目へとアイメイクで変身させてしまった。
技術を盗もうと作業を目で追っていたが、手順がわかってもとても真似できそうにない。まるで魔法にかけられたようだ。
「ありがとう。観客があなたたちだけなのがもったいないわね」
着飾っているのは私だけではない。ピオニーは生前着ていた騎士服に似たデザインのものを、彼の鬣の色に合わせた生地で仕立て直したものに袖を通している。コリウスは舞台衣装のような羽根が散りばめられた短いスカートのドレスを着ていて、とてもかわいらしくなった。ダチュラは南方で人気の臍の見える薄手のドレスを着ていて艶めかしさに拍車がかかっている。クレマチスは私の衣装と色を揃えた生地に銀糸の刺繍が入った従者服が似合っているし、シオンは服を着られないので紫色の宝石がはめられた小さな王冠が頭に乗せられている。
舞踏会どころか王族の集まる正式な場へこのまま出ても遜色のない出で立ちばかりなので観客がいないことを惜しんでいると、にこにこと微笑んだダチュラに背中を押された。どうしたのだろうかと戸惑っていると、ピオニーに手を引かれてカーテンが閉められたバルコニーの前へとそのままエスコートされる。
何だろう。無性に胸がざわざわする。皆何かを企んでいるようだが、目で訴えても誰も説明しようとしない。まるで誕生日のサプライズでも計画しているようだが、私の誕生日はまだ先だ。それか、私の魔王就任のサプライズでも用意しているのだろうか、そう勘ぐっていた時だった。
「魔王ミオソティス様のお披露目でございます!」
拡声の魔道具でクレマチスの涼しげな声が響き渡ると同時に、バルコニーのカーテンが開かれる。そしてそこで明らかになった城外の景色に、私は思わず声を失った。
「ウオオオオオオオオオ!」
「魔王ミオソティス様万歳!」
これはどういうことだろうか。ピオニーに手を引かれるまま城のバルコニーへゆったりと足を進めると、城下に集まった魔物たちから歓声が上がった。
見渡せば、人型の魔物だけでなく馬や鳥等の動物の姿を模した者、複数の動物が組み合わさったような者、植物のように見える者、目玉が幾つもついた謎の生き物等様々な種族の者がいる。その数は、おそらく私が作った賢者の石と同じくらいの数だ。
恐る恐るクレマチスの顔を見ると、大変満足げに微笑んでいる。彼に与えたのが吸血鬼ではなくウェアウルフの魔石であったならば、今頃彼の尻尾が左右に大きく揺れているだろう。
謀られた。今頃その事実に気付いたところでもう遅い。彼は宗教観に触れない方法で遺体を処理し、同時に賢者の石も処理すると宣言した。それがまさか、賢者の石を全て使って国民を魔物として蘇らせるという意味だと誰が気付けただろうか。
確かに、聖典に人間の遺体を使って魔物を生み出してはならないとは書いていない。人間の遺体から魔物を生み出したのは私が初めてなのだから、聖典にそのことが記載されていないのは当たり前だ。
「さぁミオソティス様、新しい魔王国の国名をお決めになってください」
愛しい我が子たちはどうやら、私の魔王就任のプレゼントに数百体の配下を用意してくれたらしい。こんなに嬉しくないサプライズは生まれてはじめてだ。
さらに今この場で、ユッカ国の跡地に建てる新しい国名を決めろという。人名ならともかく、今後歴史に記されることになるであろう国名を土壇場で決めさせないでほしい。
しかし駄々をこねても仕方がないので、クレマチスから拡声の魔道具を受け取った私は半ばやけくそで民衆へ向かって声を張り上げる。
「ここに、ユーカリプタス魔王国の建国を宣言する!」
新生したこの国が、未来永劫続きますように。そんな願いを込めて急遽名付けた国名だったが、民衆は受け入れてくれたらしい。
登場時の歓声とは比べ物にならないほどの、割れんばかりの歓声がビリビリと空気を震わせる。魔王ミオソティス様万歳、魔王国万歳と声を上げる民衆を見て、私は熱い物がこみ上げてきた。
種族がバラバラな魔物たちは皆、様々な容姿をしている。その違いからすると、私が男のくせに着飾っていることは些細なことらしくそれを怪訝に思う者は誰もいなかった。
ここでなら、私は私らしく生きていけるかもしれない。男らしくしなければいけないとか、目立たないように生きなければいけないとか考えなくてもいい。
彼らが私にプレゼントしてくれたのは、数百体の臣下なんかではなかった。私が私のままで生きられる世界を、プレゼントしてくれたのだ。こんなに嬉しいサプライズは生まれてはじめてだと、私は考えを改めた。
そしてこの日。ユッカ王国改めユーカリプタス魔王国が、歴史の一ページにその名を刻むことになったのである。




