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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第一章 魔王国建国編
28/110

28 コバルトブルー

体調を崩していて一週間お休みしてしまいました。もう元気なのでまた更新していきます!

 清々しい気分で目が覚めた。研究に没頭してる間はずっとソファで仮眠しかしていなかったので、こんなに長時間、しかも柔らかい布団で寝たのはいつぶりだろう。

 まるで丸一日以上寝ていたかのように身体が軽いので、とっくに日が高くなっているだろうと窓を見てみるとまだコバルトブルーの空が映っていて驚いた。好きなだけ寝坊するつもりだったのに、どうやら夜明け前に起きてしまったらしい。

 

「お早いお目覚めですわね、お母様」


 窓の外をぼんやり眺めていると、ダチュラが微笑みながらカーテンを閉めた。暗にまだ休んでいろと言われている気がするが、魔物になったせいか短時間の睡眠で疲労はすっかりとれてしまった。

 ダチュラたちは寝ていないのだろうし、今からでも自分にも手伝えることはないかと尋ねると、彼女は大喜びで私の手を握る。


「では、こちらへ来てくださる?」


 まだ寝間着姿のままなのだが、いったいどこへ連れていかれるのだろうか。怪訝に思っていると、湯殿の隣に置かれた簡素なパイプベッドへと寝かされた。アロマが焚いてあるのか、カモミールの香りが漂っている。

 ここに寝かされることと私の仕事に何の関係があるのだろうか。よもや騙されたのだろうかとダチュラに目配せをすると、気の毒そうに目を伏せられる。


「はじめてなので少し痛いかもしれませんが、ご容赦くださいまし」


 今から拷問でもされるというのだろうか。魔物になってからは怪我などをしていないので痛覚がどうなっているかわからないが、人間より遥かに丈夫なはずの今の身体でも心配される痛みとはどのようなものだろう。

 そんな呑気な思考は、次の瞬間から私の悲鳴によって搔き消されてしまった。主であり母親でもある私に無慈悲に施される激痛を伴う拷問。その拷問の名は、リンパマッサージというのだと後から彼女に聞いた。



「本来は寝る前にした方が効果的なのですが、昨夜はお疲れの様子でしたので」


 リンパマッサージとはなんと恐ろしいものだろう。結局最後まで、いい大人が歯を食いしばりながら半泣きでのたうち回ってしまった。ダチュラが曰く、身体に老廃物が溜まっているせいで激痛が走るので、リンパの流れが正常になれば同じマッサージをされても気持ちよくなるらしい。

 睡眠をとっただけでも身体が軽くなったと思っていたが、確かに全身のマッサージを受けてからは羽根が生えたようにさらに軽くなった。血液の流れがよくなったせいか、心なしか魔力の流れもいい気がする。


「魔物になってからは身体や肌の調子が良くなっていたと思っていたのだけど、それでもメンテナンスは必要なのね」


「お母様。その、ご自身のことを魔物と呼ぶのはそろそろやめませんこと?」


 何気なく呟いた言葉を拾われて、私は面食らってしまった。どうやらダチュラは、知能がある者は魔族と呼び、知能のない魔物と区別するべきだと言いたいらしい。確かに魔石を体内に宿す生き物の総称は魔物だが、彼女たちのプライドを守るためにも一線を画すべきかもしれない。


「でも私たちは魔族と呼んでいいとして、シオンはどうなるのかしら?」


 私やダチュラ、ピオニーとコリウスとクレマチスは魔族でいいとしても、スライムであるシオンはどちらに属するのだろうという問題が出てくる。こちらの言葉を理解していることから一般的なスライムよりは知能が高いようだが、だからといって魔族と呼べるかは微妙なところだ。


「シオンはどうでもいいとして、私たち兄弟は魔族。そしてお母様は、魔王と呼ぶべきですわ」


 私の疑問を聞いたダチュラが恐ろしい発言をしたので、私は水分補給用に飲んでいた白湯で咽てしまった。私が魔王?魔王ってこの大陸には三人しかいないあの魔王?魔物を統べる一国の主が魔王だという定義ならばそれはそうなのかもしれないが、果たして配下がたった五人の魔王など認められるのだろうか。


「誰が何と言おうと、私たちの魔王はお母様ですわ。そしてその魔王様に誂えたのがこちらですの!」


 じゃじゃーん、と口頭で効果音を伴い、ダチュラがドレスルームからハンガーラックを引っ張り出してくる。そしてそこにかけられていたのは、令嬢たちに人気のリボンやフリルが豊富に使われていたり、腰が膨らんだボリュームのあるドレスではなかった。

 どれもベースはパンツスタイルのドレスで、首回りがレースで透けた黒のイリュージョンネックのドレス、裾が一見スカートのように見えるがスカンツになっているドレス、ワンショルダー等の肩や二の腕が剥き出しになるドレスはレースのフィシュー・カラーになっていたり薄手のショールやマントがついていて、男性特有の骨格が気になる部分は隠せるようになっていた。

 どれも自分に合わせたデザインのドレスだとわかって、目頭が熱くなる。たった一晩でどうやって何着もドレスを用意したのだろう。その立役者であるダチュラは、意気揚々と一着のドレスを私の元へ持ってきた。

 

「本日のおすすめはこちらですわ」


 彼女が持ってきたのは、生前のシオンが礼服として着ていたようなインペリアル・カラーの宮廷服。黒を基調とした服には金糸の刺繍が施され、コートの裾が広がって礼服でありながらもドレスのようなシルエットになっている。肩から斜めに下げられているサッシュは、私の瞳と髪色に合わせてか桔梗色に染められていて、コートの裏地も揃いの色のようだ。

 王族の礼服をベースに改造したのだとしても、とても一晩で作れるクオリティではない。こんな立派な服を着る価値のある魔王に、果たして私がなれるだろうか。


「お母様が魔王として正式に君臨する最初の日ですもの。しっかり着飾らせてもらいますわ」


 ろくに寝てないはずなのに疲れを一切見せないダチュラは、大喜びで私に立派なドレスを着せ始める。

 なれるかなれないかではない。この子たちが胸を張れる魔王に、私はならなければいけない。それが、彼女たちの命を奪った私の責任だ。

 大陸にいるとされる他の魔王には配下の数も、威厳も、魔力も適わなくとも、せめて品位だけは負けない魔王になろう。

 そうして私は、淑女の鏡である魔王になろうと、固く決意したのだった。

 

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