27 シャンデリア・ワルツ
日曜に更新するはずだった分のお話です。おまたせしました。
あぁ、ひまだ。スライムであるオレにはてもあしもついていない。はなすこともできないから、いっしょにいるコリウスがバカなことをしないように、みていることくらいしかできない。
オレもスライムじゃなくてニンゲンだったらなぁとむかしのオレをおもいうかべようとしたが、どうもうまくおもいだせない。スライムになってからは、こういうことがたまにある。
オレのことがきらいらしいクレマチスにいろいろきかれてから、すこしはじぶんのことがわかってきた。どうやらオレは、ほかのみんなとちがって、おぼえていることとおぼえてないことがある。そして、ちのう?がすこしひくくなっているらしい。ひどいはなしだが、ふくざつなことをかんがえようとすると、あたまがいたくなるのでほんとうのようだ。
おそらく5さいくらいのちのうだろう、とクレマチスにはわらわれたが、5さいのときにはあにうえよりもあたまがいい、しんどうだとよばれたオレをなめないでほしい。
ほんとうは、オレはべつにしんどうなんかではなかったのだけど。はらちがいのあにであるクラウンは、オレがものごころつくころには、じぶんがおういをつぐのだとふんぞりかえっていた。
そのため、おろかなあにをあやつってせいじにかかわろうとするもの、どうにかあにをこうせいさせようとするもの、オレをおだててかつぎあげようとするもの、さまざまなきぞくにかこまれて、オレはこどもながらにとてもつかれていた。
そしてみんな、オレたちにきかれないようにこっそりとこういった。あねうえがおとこにうまれていればと。
あねうえは、おさないころからなんでもできた。あたまがいいのはもちろんだが、あねうえはたくさんべんきょうをして、どりょくをしていた。もしおとこにうまれていれば、まようことなくあねうえが、おうたいしにえらばれていたはずだ。
びじんではくしきなあねうえは、オレのじまんだった。しかしクラウンにとっては、めのうえのたんこぶだったらしい。
うつくしいあねうえにひとめぼれをしたモンステラのおうじからえんだんがまいこむと、あっというまにユッカからおいだされてしまった。
よめにいくまえに、あねうえはオレにいった。オレならかならず、おうになれる。おうになってユッカをただしくみちびいてほしいと。
だからオレはあねうえにいわれたとおりに、なんでもやった。オレのことをこころからみとめてくれたのは、あねうえだけだったから。
ミオがどうもオレのことをすきらしい。そうきづいたときは、そのきもちをりようするべきだとおもった。ひみつのまどうぐであねうえにきいてみると、へいわのためならばそうするべきだといわれた。オレのかんがえはまちがっていなかったのだと、あんしんした。
それなのに、ミオがつくったけんじゃのいしをゆびにはめると、オレはじぶんのかんがえがほんとうにまちがっていないのかふあんになった。たいぎのためならば、たしょうのぎせいはひつようだと、あねうえはいっていた。でも、はたしてほんとうにそうだろうか。
あねうえにもういちどきいてみると、ゆびわのせいでそうおもうのだ、そのゆびわはおそろしいまどうぐだからしょぶんしなさいといわれた。そんなときにミオにゆびわをわたすべきだといわれたので、それもそうだとおもってミオにとどけてもらうことにした。でも、ゆびわをはずしてもオレのこころのなかのもやもやはなくならなかった。
いまになってわかる。オレは、あねうえはまちがっていた。あねうえのいうとおりにしたから、ユッカはほろんでしまった。ミオのせいじゃない、オレとあねうえのせいだ。
もしあのとき、ミオがつくったけんじゃのいしを、ただしくつかうことができていたら。いまごろオレたちはどうなっていただろう。
あねうえはいまごろユッカがほろんだことをしっただろうか。それをきいて、なにをおもうだろう。
かぞくのなかで、あねうえのことをよくしっているのはオレだ。だから、あねうえがこれからいったいなにをしてくるのか、オレはかんがえなくちゃいけない。それはオレにしかできないことだから。
ことばをはなせないから、いままでのじんせいのように、だれかにきくこともできない。あねうえのいうとおりにしてさえいればよかったオレにとって、それはとてもむずかしいことだ。でも、はじめてじぶんでかんがえてうごかなければいけないことに、ワクワクもしている。
いろいろなことをかんがえたせいで、とてもつかれてしまった。はやくミオのひざにのりたい。あのやさしいてでなでてほしい。そういえばオレはちいさいころ、ははおやになでてもらったきおくがない。
だからだろうか、ミオになでてもらうとすごくあんしんする。こころがぽかぽかとあたたかくなる。だから、ミオのことはだいすきだ。あんなにだいすきだった、あねうえよりもずっとずっと。だってあねうえは、オレをなでてはくれなかったから。
それに、あねうえはスライムになってしまったオレのことはきっともういらないだろう。だから、オレももうあねうえはいらない。
スライムになったオレのことも、かわらずそばにおいてくれるミオのために、これからはいきたいとおもう。ひどいことをしてしまった、つみほろぼしのきもちもあるけれど。
たくさんかんがえるとつかれてしまうけど、あしたになればミオのひざのうえでねかせてもらおう。クレマチスがくやしがるかおをおもいうかべて、オレはえがおになる。じっさいは、スライムだからえがおもなにもないのだけど。
ただのスライムになってしまったオレに、できることはすくない。だからこそ、オレにしかできないことをいっしょうけんめいがんばろう。
そうけついして、オレはつきをみあげる。あさがちかづいたそらにうかぶつきは、もうずいぶんと、うすいいろになってしまっていた。




