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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第三章 世界征服編
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102 カレイドスコープ


 円卓に座っている四天王たちは、状況を把握して皆苦い顔をしていた。

 約一名、一心不乱に茶菓子のクッキーを頬張っているコリウスを覗いてだが。


「……つまりコリウスの父親が、ブランダ王国の王族のエルフである可能性が高いということでしょうか」


「おそらくね。国王がユッカ王国まで足を運んだという話は聞かないし、聖女教の復活を呼びかけているらしい王弟殿下――フォルスコリという男が一番怪しいと思うわ。外交官のような役割を担っていて、各国へ足を運んでいたようだし」


 私とピオニーの顔色が芳しくないことに気付いたダチュラが、不安そうに身を乗り出す。

 

「つまり……これからどうなりますの?」


「ブランダ王国はモンステラ王国、スノーフレーク王国、日輪の国と共に四国同盟を結んだと聞いている。おそらくブランダ王国が聖女奪還を銘打って我が国へ出兵し、他国へ援軍を要請するのでは?まぁいくら四カ国がユーカリプタスを囲んでいようが、人間の軍と魔物の軍が戦うのだからそう簡単には敗れまい」


 そう。クレマチスの言う通り、もしブランダ王国が戦争を仕掛けてきても、人間と魔物が戦うのだからユーカリプタスが勝つだろう。

 自分が魔王になり、魔物になった者たちを目にしてきたのだ。

 元人間の自分だからこそわかる、人間と魔物の戦闘能力は比べるまでもない。

 しかし、勝てるからといっても不要な戦争は避けられるものならば避けたい。

 いくら桁違いに強くても魔物軍にだって少なからず被害は出るだろうし、敵国の兵士にだって命があり、家族がいるのだ。


「ピオニー、ユーカリプタスの軍は今どれくらいの規模なのかしら」


「元々騎士団に所属していた人間は、実力の伴う者は皆母上にいただいた賢者の石の力で蘇生し、今日まで訓練を重ねております。あとは魔物に生まれ変わってから戦闘能力に目覚めて騎士団に志願してきた者もおり、選抜して基礎的な訓練を行った後入団させているので、旧ユッカ国時の騎士団と同程度の規模にはなっているかと。戦う覚悟は出来ている者たちばかりですが……」


「皆人間と魔物で戦をしたことがないから、経験不足なのが懸念事項ね」


「仰る通りです」


 それにいくら戦力が整っているとしても、西のブランダ王国と同時に北のスノーフレーク王国、東の日輪の国、南からはモンステラ王国が同時に攻めてくれば兵力を分散させざるを得ない。

 他の魔王たちに協力を仰げば私たちはモンステラ王国へ注力できるが、そうなればもはや大陸内で人間対魔物の大戦が始まってしまうことになる。

 下手をすれば、魔物が人間を滅ぼすことにもなりかねない。まるで出来の悪い御伽噺のようだ。


 フォルスコリという男は、いったいどういうつもりで聖女教を復活させようとしているのだろう。

 コリウスを取り戻したいから、戦を始めるため民を焚きつけるのにちょうどいいから聖女教を利用しているのかもしれない。

 魔王に囚われた実の娘を取り戻したいがために勝算のない戦いに挑むといえば美談のようで聞こえはいいが、コリウスが精霊に愛される体質だと知って欲しくなっただけなのではないか。

 もしそうならば、コリウスを相手に渡すようなことはもちろん顔を合わせることすらさせたくない。

 だが、それはあくまでも私の気持ちでしかないのだ。


「コリウスはどうしたい?実の父親があなたに会いたがっているようだけど」


 一番肝心なのは、当事者であるコリウスの気持ちだろう。

 そう思っての質問だったが、クッキーを貪る手を止めたコリウスは迷うことなく答えを出す。


「会ってみたい」


 万が一コリウスが実の父親の元へ帰りたいと望めば叶えてあげよう。

 その上で父親が彼女を丁重に扱うならば身を引き、コリウスを利用しようとすれば人知れず排除しよう。

 そう覚悟を決めていたのだが、いざコリウスに会いたいと言われると動揺で胸が痛む。

 おそらく私は、コリウスならば興味がないと即断してくれるはずだと根拠のない自信を抱いていたのだろう。

 なんて自己中心的な考えだと心の中で自嘲していると、コリウスは言葉を続ける。


「僕が死ぬまで一度も顔を見せなかったくせに、今さら父親面してくるツラノカワを見てみたい。会ったら言ってやるんだ。僕にはママがいるからお前はヨウズミだよって」


 口元にクッキーの屑をくっつけて無邪気に笑うコリウスを見て、安堵すると共に彼女の語彙力が良くない方向へ成長していることに親として焦る。

 どこでそのような言葉を覚えたのだろうか。もしかすると、クレマチスと毎日のように喧嘩しているうちに罵倒の言葉だけ語彙力が増えてしまっているのかもしれない。


「私は嬉しいけれど、父親を恋しいと思う気持ちはない?」


「ママがいっぱい優しくしてくれるから寂しくないよ!それに、パパの代わりならピオニーがいるし」


「私は立場的には兄なのだが……確かに年齢的にはコリウスくらいの娘がいてもおかしくはないな」


 なるほど、どうやらコリウスは私に甘えられない時はピオニーに甘えていたらしい。

 彼の包容力を考えれば納得だと頷いていると、クレマチスが青い顔で震え出す。


「貴様……そこは俺を父親に宛てがうべきだろうが……!」


「えっ。クレマチスがパパになるのは死んでも嫌だよ」

 

 コリウスにピシャリと切り捨てられ、クレマチスは床に崩れ落ちる。

 普段の舌戦ではいつもクレマチスに軍配が上がるが、今日ばかりはコリウスの圧勝のようだと私は微笑ましく子供たちのやり取りを眺めていた。

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