表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第三章 世界征服編
102/110

100 閑話 Takk...


 私の父は、決して良い親とは言えない人だった。


「錬金術師なんて女でもなれる職業に就きたいなどと……男ならば騎士を目指すべきだろう。お前は我が家の恥晒しだ」


 私のやることなすこと全てが気に入らない父は、事あるごとに私のことを詰って罵倒した。それでも、家の体裁のためとはいえアカデミーへ通わせてくれたことは感謝している。

 父に少しでも認めて欲しくて、学業も真面目に取り組んだ。決して天才ではない私は首席にはなれなかったけれど、それなりの成果を残すことができた。

 そうしているうちに錬金術自体にも興味が湧いて錬金術師が私の天職となったが、父は一度も褒めてはくれなかった。


「誰にでも作れる薬や魔道具を作って一生を終えるなど愚かな人間のすることだ」


 王室錬金術師に就職先が決まっても、父の気持ちが変わることはなかった。

 父に人格を否定される度、私は世界に一人取り残されたような、私の味方など誰もいないような気持ちに包まれた。

 その時、私の肩に温かい誰かの手が置かれる。


「俺はミオのことは、特別な錬金術師だと思っているよ」


 随分と久しぶりな柔らかな声が聞こえた瞬間、私が囚われていた暗い闇に光が差し込んだ。

 シオンの紫色の瞳に睨まれた父は、それでも僅かに顔を歪ませるだけ。

 ただ頑固なだけのような気もするが、王子に睨まれても動じない胆力には感心すら覚える。


「母上は丁寧な仕事ぶりで調合した薬の品質も良かったので、騎士団内での評判も良かった。何も知らずに発言するのはやめていただきたい」


 ピオニーに低い声で凄まれると、さすがの父も迫力のある獣王の威嚇に恐れを抱いたらしい。

 腰を抜かした姿を見て不謹慎ながら清々しく感じていると、いつの間にかシオンがスライムの姿で腕に抱かれていた。

 私が驚いていると、突風が吹いて整髪料で丹念に撫で付けられていた父の髪がボサボサになる。

 

「ママのことをバカにするおじさんは大嫌い!」


 コリウスが生み出したのは私が昔住んでいた屋敷全体を包むような強風だったが、なぜか被害を受けたのは父だけで私は無事だった。

 そして気付けば、私は以前のような冴えない服装ではなく私のためにオーダーメイドで作られた立派なドレスを身に纏っていた。

 蛇がシュルシュルと這う音が聞こえると同時にムスクの香りが漂ってきたので振り返ると、ダチュラが呆れた顔で這いつくばる父を見下ろしている。

 

「自分の子供の美しさを見抜けないなんて親失格ですわね」


 幼少期に過ごした、貴族としての体裁ばかり気にした決して趣味が良いとは言えない調度品の置かれた屋敷から、見慣れた城へといつの間にか私たちは移動している。

 私にとって最高に居心地の良いユーカリプタスの城内で、罰が悪そうに黙り込んでいる父の前に、クレマチスがしゃがみ込む。


「貴様の褒められるべき行動は、ミオソティス様をこの世に生み出したことだけだ」


 そう吐き捨てた後、私が聞き取れない声量で何かをぼそぼそと父に囁くと父の顔色が悪くなる。

 いったいどんな言葉をかけたのだろうと不思議がっていると、背後から小さな悪魔が抱きついてきた。


「ミオ、遊びに来たわよ!今日は何して遊ぶ?」


「いやいやアネモネたそ、今日こそは拙者がミオ氏と魔道具の研究を……あっいや何でもないですすみません拙者は後日で大丈夫です……」 


 アネモネとカガチの普段通りのやり取りを微笑ましく眺めていると、氷のように冷たい手が優しく肩に置かれる。


 「お前は皆に慕われている。自信を持て」


 ガランのぶっきらぼうな、けれど温かい言葉に私は頷いて父のいた場所へ向き直る。

 そこにはもう父の姿はなく、私の心の中の蟠りも一緒に消えて無くなっていた。



「ママ大丈夫?」


「うなされていたので心配致しましたわ。起こそうか迷っていたら落ち着かれたので見守っていたのですけれど……」


 夢から覚めると、不安そうな表情のコリウスとダチュラが部屋の中にいた。どうやら、就寝中の私の様子がおかしいことに気付いて駆けつけてくれたらしい。

 私の好きなパステルカラーを基調とした、かわいらしくかつ高級感のある調度品に囲まれた部屋を見渡して安堵する。

 手のひらもあの頃のようにがさついておらず、爪の先まで丁寧に手入れされている。


「悪い夢だった?ママの夢の中に助けに行ければいいのに……」


「ふふ。大丈夫、コリウスたちが助けに来てくれたわ」


 コリウスを優しく抱き締めると、腕の中できゃっきゃと喜ぶ声がする。夢の中でまで助けられるなんて、彼らを家族に持つ私は本当に幸せ者だ。


「さて、お母様もご無事なようですし朝の支度と行きますわよ!本日は久しぶりに魔王の講義で全員城に集まりますので気合を入れませんと」


 ドレスだけでなく、化粧品、香水、ネイルに至るまでダチュラが昨夜から色々考えて用意してくれたらしい。

 支度が長丁場になることを覚悟しながら、私はこうして自分らしく生きられる喜びを改めて噛み締めたのだった。

修正箇所があり更新が遅れてしまい申し訳ありません。

皆様のおかげで一周年、そして百話を迎えることができました。

いつもブクマや評価、いいねありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ