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淑女魔王とお呼びなさい  作者: 新道ほびっと
第三章 世界征服編
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98 milk tea


 ガランの機嫌が直ったところで、私たちは話を続けた。

 検証を重ねた結果、魔王の力で重要なのは魔力量よりも自分が可能だと思ったことを実行できることだと説明すると、ガランは暫く考え込んだ後に徐に口を開く。


「少し違うな。正しくは自分が可能だと思い、かつ自分が望んだことしか実行できないはずだ」


「ガランも知っていたの?」


 予想外の返答に驚きつつも、千年も魔王として生きていた彼ならば知っていて当然なのかもしれないと納得する。

 しかしそれならば私に魔王について説明した時に教えてくれてもよいものを、と少し残念に思ったが、私とカガチも隠していたことなのでガランのことは責められない。

 ガランに知られないようにと影で画策していた私たちの努力は最初から無意味な行動だったようだが。


「知っていた、というより感覚的に何となく勘づいていただけだ。俺はお前たちのように力を使えるまでの過程のことを考えるのは煩わしいのでな」


「ガランが何となくわかっていたなら、アネモネも知っているのかしら」


「知らぬ。アネモネと話をする時はあいつが一方的に話したいことを話すだけだから、こういった話はしたことがない。そもそも最近はアネモネと会ってもいないしな」


 言われてみれば、以前のアネモネはガランにしつこく付きまとっていたのに最近は大人しいように感じる。

 臣下が増えたことで忙しいのだろうか、今度息抜きに誘ってみてついでに彼女にも同じ話をしてみてもいいかもしれない。


「拙者たちは無駄骨を折っていたということですなぁ。最初からガランサス殿にも助力を乞えばよかったでござる」


「お前はもう少し反省をしろ」


「ひっ、すみませんでしたぁ!」


 ガランに睨まれてカガチが縮こまっているが、先程とは違いガランから殺気が出ていないので安堵する。

 エビネが淹れ直してくれた温かい紅茶を飲んで、ようやく私は肩の力を抜いた。

 ガランと出会ってからかなり距離も縮まり冗談も言い合える仲になったとはいえ、相手は千年生きた大陸一の魔王だ。

 私とカガチの話に激怒した彼に息の根を止められる可能性も少なからずあったので諸々覚悟は決めていたのだが、自分で思ったよりも緊張していたようだ。


「ミオ。お前も俺に隠し事をしていたことについて償ってもらうぞ」


「えっ?」


 突然話を振られて戸惑いながらカガチを見ると、彼はガランに償いとして何か条件を提示されたのかしょんぼりと項垂れていた。

 一体彼は何を言われたのだろうか、そして私は今から何を言われるのだろうか。

 息を呑みながらガランの言葉の続きを待っていると、ガランがにやりと笑う。


「ミオには一日俺をもてなしてもらおうか。他の者は含めずに、俺とお前の二人で」


「えぇと……接待ということかしら?」


 提示された条件があまりに緩くて、私は拍子抜けする。背後でクレマチスがぴしりと固まったのが気になるが、ガランを接待するのはいつものことだ。

 二人きりを望んだのは、最近は全員まとめて接待することが多かったのでもっと丁寧な接待をしてほしいということだろう。


「それくらいなら、償い関係なくいつでも求められれば応じるわ。あなたと私の仲じゃない」


「そうか。ユーカリプタスに新しい料理や娯楽施設も増えたと聞いたものでな。楽しみにしていよう」


 目に見えて機嫌のよくなったガランを微笑ましく見ていると、青い顔をしたカガチが恐る恐る挙手をする。


「あの、ミオ氏?後ろの従者が般若みたいな顔をしておりますが。それは接待というよりデートなのでは……」


 デート。以前の人生で全く縁のなかった単語を聞いて、私は目を瞬かせる。と、いうことは。


「それなら私の人生初デートがガランということになるわね。光栄だわ」


「えっ」


 私の発言に一番驚いていたのは、以外にもガランでもカガチでもなくクレマチスだった。

 普段は魔王同士が会話をしている時は一切発言をしない彼が声を漏らしたのだから相当驚いたのだろうが、この部屋の中で生前の私を唯一知っている彼がなぜ驚くのだろうか。

 私が変人扱いされて疎まれていたことは知っているはずなのに。


「し、失礼致しました。ミオソティス様はアカデミーでも優秀な成績をおさめておられましたので、そういった機会は山ほどあったものかと……」


 なるほど、クレマチスが知っているのは錬金術師になった後の私だけだ。

 私が煙たがられていたのは職場だけの話で、学生時代は順風満帆な生活を送っていたと思われていたらしい。


「そんなことはないわ。男性とも女性とも一度もお付き合いをしたことはないし」


「ふむ。それならば当日は俺が初デートの相手としてミオを楽しませてやろう」


 自分の灰色の青春時代の話をしていて虚しくなってきたのだが、どういうわけかガランは嬉しそうなので良しとする。

 元は隠し事をしていたことの償いのためのデートという話だったのに、ガランが私を楽しませてくれようとしているのはおかしな話だが、せっかくの初デートなので好意に甘えることにしよう。

 

 背後でクレマチスが「あの頃の俺は馬鹿野郎だ……!」と顔を覆っているのを見ながら、私は無事に問題の平和的解決が出来たことを心から喜んだのだった。


本日の更新が遅くなり申し訳ないです。

来週からはスケジュールに余裕ができるはずなので、またいつも通りの更新に戻れると思います。

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