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コメディ系短編小説

ヤンキーの喧嘩と少女の雑談

作者: 有嶋俊成

  ーーとある喧嘩中のヤンキーの話…なのだが…



 ロン毛にサングラスをかけた長身の森山と茶髪の短髪で背は低いが顔はいかつい鹿島が公園でにらみ合っていた。

 二人共、両手をポケットに入れたままお互い目線を一切はずさない。

「なめてんのか? デクノボウ。」鹿島が森山の顔を見上げながらガンを飛ばす。

「おめぇ、ちっちぇえな。幼稚園児か?」

 森山のその言葉に鹿島の腹は煮えたぎる。

「ねぇねぇ、この前の映画でさ~」

 にらみ合う二人の近くでショートカットの美少女が友人と一緒にベンチに座って話している。

「喧嘩のシーンあったじゃん、現実でああいうこと起きるのかな~?」

 突然聞こえてきた少女の声は森山と鹿島の耳には届いていたが、今は気にする暇などない。

「いくぞ? オラ。」森山が拳を握る。

「先に血を流すのはテメェだ。」鹿島も拳を後ろに引く。

「正直、会った瞬間殴り合いって子供っぽいと思うの。」

 ベンチの少女から声が聞こえてきた。二人は拳の力を緩めてそれぞれの手をズボンのポケットに戻した。

「まずは話し合いよね~」

 少女の声を聞くと二人は口を開いた。

「何で俺の肩にぶつかった?」

「テメェが邪魔になるほどデクノボウだからだろ。」

「オメェも小せぇくせに小回り効かねぇからだろ?」

 ああ言えばこう言う状態の二人。

「まあでも、ヤンキーなら胸ぐら掴む程度なら良いかな。」

 少女の声と同時に森山は右手で鹿島のシャツの襟を掴んだ。

「何すんだテメェ!」鹿島も両手で森山の襟を掴み、引っ張る。

「ナメてんのかゴラ!」森山は左手も鹿島の襟にかけ引っ張り返す。

「うーんでも、引っ張るのはダメかな~」

 力を緩める森山と鹿島。

「でも襟を掴むなら引っ張ることになるか。」

 力を込める森山と鹿島。

「じゃぁ、襟掴むのは無しかな~」

 手を下ろす森山と鹿島。

「というかそもそも今の時代、ヤンキーなんているかって話。」

 少女の声に固まる森山と鹿島。

「ヤンキーってさ、やたら髪型いじるけど、そもそもあれは何の意味があるのって話。」

 森山と鹿島はにらみ合いながら自分の髪を触り始める。

「正直、ヤンキーの髪型で一番ダサいのって…」

 全身にヒヤリとしたものが走る森山と鹿島。

「リーゼントだよね~。」

 ロン毛の森山と短髪の鹿島はほっとする。

「それと色もいじるじゃん。」

 茶髪の鹿島はハッとする。

「私は黒髪が良いかな~」

 顔を落とす鹿島。黒髪の森山は勝ち誇った顔で鹿島を見下ろす。

「あとヤンキーって、私は意外と背の低い人多いイメージあるけどさ…」

 またしてもハッとする背の低い鹿島。長身の森山はさらに見下ろす。

「私は同じくらいの身長の人が良いからそれでいいかも。」

 顔を上げて森山をヘラヘラとした表情でにらむ鹿島。森山は思わず目を逸らす。

「でも見た目が好みでも中身も良くなくちゃね~」

 少女の声ににらみ合いながら耳を傾ける森山と鹿島。

「ただ強いんじゃなくて守ろうとする強さが大事。」

「おい! お前!」鹿島の足元を指差す森山。「アリが通ってるぞ!」

「おい!」森山に叫ぶ鹿島。「鳩びっくりして飛んでったぞ!」

「それと声が大きすぎるのも嫌かも。」

「ほらまたアリいるぞ…」

「花を潰すな…」

 地声で注意し合う二人。

「あと、優しさも必要よね~」

 体の力を抜き肩を落とす二人。

「何か悪かったな…」先程ぶつかった鹿島の肩を撫でる森山。

「俺の小回りが効かなかったからな…」鹿島も首を横に振る。

「許す強さも大事よね~。」

 少女の言葉に心打たれる二人。

「さ、行こうか。」

 ベンチに座っていた少女が友人と共に立ち上がった。

 森山と鹿島は去ろうとする少女に駆け足で近づく。

「「あの!」」

 二人の呼び声を聞いた少女は立ち止まって振り返る。かわいらしい小顔に透き通るように美しい瞳が輝き、小さい唇があどけなさを感じさせる。

 少女は何も言わずに森山と鹿島を見つける。

「俺ら、あなたのおかげで大事ことに気づけました。」

「肩ぶつかったくらいでキレるのって子供っぽいすよね。」

 二人がそう言うと少女は穏やかな笑顔を浮かべる。

「私は別に、何も。」

 白い歯とサラサラの頬が二人の心を更に穏やかにする。

「あの! よろしければ友達になってくれませんか!」森山が声を振り絞る。

「俺も…いや俺と付き合ってくれませんか!」鹿島はそう叫ぶ。

 森山は目を見開いて驚く。

「ちょっ、お前、それは早いだろう!」

「答えをお願いします!」

 鹿島は頭を下げる。それにつられて森山も頭を下げる。

 少女は数秒ほど間を開けた後、口を開いた。

「強い人が良いな~」

 森山と鹿島は耳がピクリとしたような感覚がした。

「お前! 気が早ぇぞ、この人困ってるだろうが!」森山が鹿島の肩を掴む。

「人の肩を掴んじゃいけねぇんだぞ!」

「良い奴ぶってよぉ。俺と勝負だ。」ファイティングポーズで構える森山。

「よっしゃぁ! 勝った方が“強い奴”だ。」

 森山と鹿島が一戦を交えようとしていた。

 それを目の前で見ていた少女は、反対側を振り返り歩いて行く。

「ホント、男って意味不明。」



  ーー終わり

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