今日の秋坂さんは斬新だね3
この世界はシュージンにとって優しくない世界だ。
授業終わりのチャイムとともに、クラスのみんながハサミを持ちシュージンに襲い掛かる。
その様子は、まさにサスペンス劇場の一幕だ。
逃げようとするシュージンを、ボディービル部のビル君が抑え込み髭を切り込みに行く。
シュージンだけじゃなく、他のみんなも髭に取りつかれた狂人に見える。
「お願いだから、やめてくれー。助けてくれよ。」
助けを求めて、こちらを見てくるシュージンを見て、口角が上がってしまう。
いつも、みんなにちやほやされてるんだ。
今日くらい、罰を受けてもらわないと、わりに合わないと思う。
変わっているのはシュージンだけじゃないんだけどね。
シュージンの方を見ていると、秋坂さんも近づくのが見える。
いつもは、こういうものに参加しないような…
手には何も持っていない気が…
脇差を取ろうとしてる?
それはだめだと思うんだけど…
「皆の者。この痴れ者の髭をどうにかしたいのは痛いほどよくわかる。切っても生えてくる髭を、どうにかしても無駄であろう。
現に、」
秋坂さんがみんなを止めている。
あー。なんて神々しく思えるんだ。
まさに女神に見えてくる。
痴れ者呼ばわりされているシュージンも、目を輝かせて秋坂さんを見ている。
「髭が生えてくるのであれば、代わりに髪をそればよかろう。そうすれば、見栄えもよくなると思うぞ。」
え…
髭と髪の毛って対の関係だっけ。
髭があれば、髪の毛はいらないって…
その髪髭論は何なの…
シュージンに至っては、目が黒く輝いているように見える。
絶望の光ってあんな輝きのことを言うのかな…
抵抗をなくしたシュージンが、髪を剃られていく。
だが、剃り始めてすぐに、2限目の授業が鳴り、みんなが席についていく。
一筋のラインが、頭に見える。
鏡がないせいで、手で確認することしかできないシュージンは、両手で境目を触っている。
「ある。ない。ある。ない。…」
手探りでの確認を終えたシュージンは、肩を丸めうなだれた。
2限目も終わり、シュージンの髪の毛が剃られるのかと思いきや、断髪の議は執り行われなかった。
「秋坂さん。シュージンの髪の毛剃ってあげないの?」
「たかしくんは何を言ってるの?全部の髪の毛を剃ると、校則に書いてある剃毛規定に反するから剃ってあげられないんだ。」
待って、剃毛規定って何なの!?
急いで、学生手帳を開いた。
1.剃毛規定
頭の毛をすべて剃ることを禁じる
一部残すこと、並びにシングルブロックは認める
書いてある…しかも1ページ目に…
いや、他に書くことあるじゃん。
服装規定とか、バイトの禁止とか…
シングルブロックって何なんだよ。
ん、まさか…
「秋坂さん、シュージンのあの髪ってシングルブロックっていうのかな?」
「何言ってるの、タカシくん。そんな当たり前のこと聞くなんて、今日のタカシくん、なんか変だね。」
いやいや、シングルブロックは常識じゃないよ!
でも、もしかしたら今日の僕がおかしかったのかもしれないな。
おとなしくしておこう。
そして、3限目が始まる前に早退するタカシくんであった。