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ちょっと怖笑える話  作者: 下心のカボチャ
3/3

第三夜 『視なくていいもの、視てはいけないもの』


 まさかの第三夜!?すいません、今回でホントに最後の番外編?です。


 ……とか言いつつ、来年あたりにまた書くかもしれませんが(汗)


 明日をも知れぬ身……とは少々古めかしい言葉であるが、まぁ人間なんて何時死ぬかなんて分からないし、分かり様もない。

 ただ漠然と、明日も生きているだろうと考えるものではなかろうか。


 「……たまに居るんですよね、死んでしまった事に気付かなくて、納得出来なくて、だから恨むって人。」


 私の部屋で寛ぎつつ、懐かしの弾幕シューティングをプレイしている友人Aを横目にフジタは溜め息混じりでそう嘆いていた。


 ……フジタが何故そんな事を言ったのか、それは『霊が一生視えない』というつまらない判定をされた私が面白がって、彼の霊体験エピソードをせがんだからだ。

 まるで軽はずみで地雷を踏む様な生き方をするから、死んでも文句を言うんだ……不思議と私のDQN体質を皮肉った物言いにも聴こえる。


 「おっ、かなりヤバめの話か!?良いねぇ。」


 「ホントウに視せてあげたいですよ……〇〇さんに。」


 そんな皮肉めいた事をジト目で言われました(笑)


 まぁ夏の定番氷入りカ〇ピスとド〇タコスでも食べて下さいとご機嫌を取ったら、渋々でも話してくれたよ。



 ーーさて、本題に入るが、今回の話はフジタにとってレアケースだと前置きされた。


 始まりはフジタの高校時代の友人、仮にスギタと呼ぶが、大学の夏季休暇中に彼から久しぶりに会いたいと連絡がきたそうだ。

 フジタの場合、『久しぶりに会いたい』と言われると大概が霊関係の絡みらしく、待ち合わせで必要以上に身構えてしまうらしい。


 だが今回に限って、その判断は間違いではなかったと振り返るフジタさん。


 ……庶民の味方バーミが昼食の客足から開放された頃、約束の時間より遅れてスギタは現れた。


 「………!?」


 言葉を失った、数年振りの再会という変化よりもスギタが連れている『モノ』に恐怖した。


 「よぉ、久しぶり、待たせた。」


 軽く片手を上げて悪びれもなく笑う友人の肩越しにフジタへ不必要な程に見開かれた眼が向けられる。

 長い髪の女だ……執拗にこちらを凝視されている、これだけ女子にガンを飛ばされた事などフジタ史上初ではないだろうか、相手は明らかに生者ではないが。

 この時、明らかにキョドっているフジタを見やり、スギタは何か確信めいた表情をする。


 向かい合わせで座席に座り、何故かウェイトレスみたいな立ち位置に女が居たらしい。



 「何それ?オモレーじゃん、服装はどんなだった?」


 話の腰を折り、そう質問をした私に対し、心底呆れた様に『そんな余裕があったと思います?』と返してきやがった。


 ーーさて、話を戻そうか。


 「……やっぱり俺に何か憑いてるらしいな。お前の反応で確信出来たわ。」


 その瞬間、フジタの表情が歪む……何故ならスギタの言葉を受けてか、女がより一層フジタに肉迫し『視えてんのかっ!?』と言わんばかりに睨みつけてきたからだ。

 深呼吸するフリでポケットに忍ばせた霊験あらたかな御守り(母方の親戚から貰った)を握りしめ、思わず手汗でグショグショにしてしまう。


 「……ちょっと、その話は止めない?」


 怨霊に気取られたくない、フジタにとっての精一杯の主張に、スギタも何となく察したのか、それから互いの近況という他愛のない話題にシフトしていったという。


 後日、メールという手段で女の事を警告したフジタ氏であったが、親戚筋の神職(お祓い)を紹介すると送ったら、スギタは『気が向いたら行くわ』と気のない反応を返されたそうだ。


 ーーそれから時が過ぎ、その年の暮れに再びスギタからメシでも食おうと誘いが来た。


 あれから時間も経ってるし、お祓い済なんだろうと軽い気持ちでOKし待ち合わせに向かう。

 前回と同じバーミに着き、メールで確認するとどうやらスギタは先に店内に入っているらしい……珍しい事もあるものだと苦笑しつつ扉を開けると奥まった窓際の席で手を上げている悪友の姿が見えた。


 「………。」


 にやりと笑いつつ近づいていくフジタ、だがこの時何気なくスギタの表情に違和感を覚える。


 「………。」


 ……構わず対面で座り、あいさつもそこそこに差し出されたメニューにフジタは視線を落とす。

 ページを捲りながら、何となく先程のスギタの表情が気になった。


 (昔を思い出すな……。)


 過ぎった嫌な思い出を懐かしみ、取り敢えずドリンクバーでもと考えていると、唐突にスギタが呟く。


 「……やっぱり、もう居ねぇんだな。」


 何を言っているのか?意味も判らず顔を上げる。


 「何があった?……何で『また』そんなツラしてんだよお前。」


 何かトラブルに巻き込まれたのか?フジタが真剣に問いただすとスギタは静かに首を横に振ったという。

 この時、フジタが疑ったトラブルとは日常の範囲のもので霊関係は含んでいない……何故なら以前スギタに憑いていたモノは見受けられなかったからだ。

 ……が、そこまで思い至って、やっと自分が先程入店した時に見せたスギタの表情と『もう居ない』という言葉が合致したという。


 ーー店内に流れるBGMが遠くに聴こえる。


 何を言うでもなく互いに沈黙を守り、どれ位の時間そうしていたであろうか?

 やがて何処か気を張り詰めている様な居住まいのフジタに対し、まるで耐えられないと言わんばかりに脱力して肩を落とすと、スギタは一息ついて自嘲気味に笑った。


 「ゴメン、でも……聞いてくれるか?」


 そう少し躊躇いがちに言葉を紡ぐと間を置き、スギタはこの数ヶ月間の経緯を語り始めた。




 ーー曰く、大学の夏季休暇中に地元の仲間内で会おうという話になり、帰省したのが始まりだったらしい。



 滞在中、最近引っ越したという友人のマンションに泊めてもらう事になったのだが……部屋に上がった所で、その友人が意味有りげに笑い、とんでもない話をしだした。


 「知り合いの不動産屋に一番安い事故物件を頼んだんだよ♪」


 新居を汚す気マンマンのDQN共の間ににわかに冷たい空気が流れる……さっきまで今夜は飲み明かすと豪語していた勢いが若干削がれたが、まだその時点では半信半疑だったのだろう。

 こっちは五人居るし、騒がしくしてれば霊も寄って来ないだろうと謎の理屈を捏ねくりまわす始末だ。

 が、しかし……結果だけ言えば四人の期待?に反してスギタの滞在期間中に霊現象と呼ばれる類いのハプニングは起きなかったという。


 いや、唯一だろうか、スギタだけは不穏な気配というか視線みたいなものを感じていた。

 感じてはいたが別段に体調が悪くなったりはしなかったらしい。


 ……はっきりと異変を感じたのは帰って来てからだ。


 「帰って暫くしてレンタルDVDに行ったんだが、店内で急にあの視線を感じてさ。もう気持ち悪くて動けなくなったんだよ。」


 「……事故物件から連れてきたのか?」


 この時、スギタの話にフジタは僅かに違和感を覚えたという。

 事故物件が事故物件たる所以はその場所で何らかの非業の死を迎えた死者が未練から怨霊、地縛霊と化す事で、凄まじい執着でほぼ土地に憑いて動かない筈なのだ。


 「ーーでさ、その数日後にバイトでクタクタになってアパートで寝てたらその女が現れたんだ。」


 スギタの話では部屋のベッドで寝ていたら不意に目が覚めて金縛りにあったそうだ。

 何とか視線だけは動かせたらしく、ベッドの傍らにキャミっぽい服装の少し茶髪が入ったロングの女がいた。

 女は立ち尽くしたまま、スギタの顔を覗き込み……当のスギタも女の眼を見つめて決して視線を逸らさなかったらしい。


 曰く、不思議な対抗心みたいなものを燃やしたんだそうだ。

 それで気がついたら寝てたのか、朝になっていた。


 それからというもの、かなりの頻度で同様の現象に遭い、体調も悪くなっていたので、呪い殺されるかもしれないと思い、その時にフジタが視えるという事を思い出して連絡を取ったのだという。

 それにしても怨霊とガンの飛ばしあいをするとは、スギタもかなりの変わり者である。


 ただ怨霊のペースに乗らない、呑み込まれないというのは精神力での戦いという意味では案外有効であるとフジタは言っていた。


 後で分かった事だが、どうやらその対抗心からフジタが紹介された神職の方と連絡を取らなかったらしい。

 いや、正確にはもっと別の理由があったのだという。


 ……そうこうしている内に、ついに女は絶賛金縛り中のスギタの首に手を掛け始める。

 少しずつ少しずつ、力を込めて『ああ、殺しに来てんな』と笑いそうになったそうだ。


 殺しに来てんな?……そこまで話した所で、フジタはある疑念に駆られ、問い掛ける。


 ーー怖くはなかったのか……と、それに対しスギタは少し申し訳なさそうにフジタを見やり、やがて『怖くはなかったね、俺の性格を知っているだろ』とだけ呟いた。


 私がこの話をフジタから聞いている途中、やはりスギタの言う性格や彼等が過ごした高校時代が気になったのだが、フジタは多くを語らなかった。


 「……で、ある晩にさ、映画を一本借りてきたんだよ。」


 もう抵抗しきれない程に強く首を絞められ、そろそろ死ぬかもしれないと意識したら、無性に観たくなったそうだ。

 ソファーに座り、ビール片手に電気を消して映画館みたいな雰囲気で観始める……映画自体はかなり古く、淡々とした流れで構成されていて、それでいて物悲しく、シチリアを舞台とした少年と映画技師との交流、旅立ちと帰郷が描かれた物語らしい。


 ぼんやりと、気配を感じ……「ああそろそろ来るかな?」と思いつつ、不覚にもスギタはウトウトとし始めた。

 だがそんな彼を余所にストーリーは中盤へと差し掛かる。

 やがてスギタにとってもうすぐ一番好きな場面が訪れようという時、背後から首へ指先が絡みつく様な冷たい感触が忍び寄ってきた。


 苦しくて、ただ苦しくて声も出ない、それでも暗闇に浮かぶ映画の場面を眺めて……何となく身体が動く気がしたという。

 刹那、スギタは首を絞め続けるその手に触れた。

 抵抗の為でなく、ただ添える様に置いたらしい。

 その行為に意表をつかれたのか、首を絞める手が微かに緩んだ……様に思えた。


 「……一緒に観たかったんだよ、でもこのチョイスは駄目だったかな?」


 その瞬間、スギタの手を振り払うかの様に、女の両手が首から離れる。


 「………。」


 劇中の楽曲が緩やかに暗闇へと溶けてゆく最中……終盤の場面から視線を外さず、ただ息を洩らす。

 まだ背後から気配が感じられる、スギタはその気配を好ましく思いながら淡々と口を開く。


 「俺の両親ってさ、碌な人間じゃなかったらしいんだよ……。いわゆる育児放棄ってヤツ、だから物心ついた頃には施設にいたし、色々あってさ。」


 「………。」


 「ずっと死にたいとか、生きたいとも思えなかった。だから『君』が俺に死んでほしいなら、それもいいかな……てさ。」


 「………。」


 言葉を終え、変わらずに映画を見続けるスギタ……やがてエンド・クレジットが流れ始め、TVからの光がしぼむ。

 本編が終わり、セットアップ画面だけが表示される様になっても沈黙は続いた。


 結局その夜、再び女が姿を現す事は無かったという……。



 フジタは何か躊躇う素振りを私に見せ、この事について補足してくれた。


 おそらくスギタの言葉は本音だと、昔から彼の言動に思う所があったのだろう。

 生死に関してどちらにも振り切れず、ただ安穏と暮らす事に苛立っていたのではないか……と言っていた。

 正直、私には理解出来ない感情だ、しかし現在のスギタが曲りなりにでも落ち着いて見えるのは、きっとフジタを始め繋がりの在る者達のおかげなのかもしれない。



 さて、その夜以降、女は姿を見せなくなったらしい……ただ気配や視線は感じるし、依然として体調が悪くなる事が多かった。

 当のスギタはと言うと、食事の際にはもう一組の食器を用意し、何となく見えない彼女に話しかけてみたりと、生活を共にしているかの様に振る舞ったという。



 「まさかお前……霊を好きになったのか!?」



 驚きと呆れを含んだ複雑な表情のフジタを宥めつつ、スギタは分からないと答えた。


 「……可愛いとは思う、だからあんな険しい顔してるのは勿体なくてさ。」


 続けて『……或いは、』と洩らし、コーヒーカップをソーサーに置いてからスギタは暫しの間考え、『やっぱり何でもねぇや』と溜息を吐いて言及を避けた。

 少なくともフジタはそう受け取ったのだろう。


 ……スギタが何を言おうとしたのか、その真意は定かではないが……それがある種の執着であったのではと私は思った。

 生死に頓着の無い彼にとって、いや、彼だったからこそ明確な殺意を向けられた事がより『必要とされている』という感情に置き換わり、そしてそれをフジタに吐露するのが憚られたのではないか……。


 話を戻すが、そんなスギタの奇妙な生活も気づけば3ヶ月が経とうとしていた。

 そろそろ年末で世間が慌ただしくなりそうな時期に差し掛かっていたある晩、彼はついに彼女の姿を視るに至る。


 とはいえ、それは夢の中の出来事であったという。


 夢の中で、彼女はスギタへ背を向けて佇んでおり、彼の声にやはり無反応であった。

 しかし周囲の風景は明らかに屋内であり、しかもそこは見覚えのある場所であったらしい。


 「………。」


 翌朝、気怠さで目を覚ましたスギタは忘却の彼方へ追いやられそうな夢の記憶を必死で手繰り寄せ、何とかその場所を思い出す。


 ……そこは、地元で行った事のあるレンタルDVDショップの店内に酷似していたのだ。

 だがその店舗は数年前に閉店し、駐車場になったと友人から聞いていた。


 何故に他県のそれも潰れた店が出てきたのか?

 そう疑問が湧いた刹那、スギタはそこに自身と彼女を繋ぐ何かがあるのではと直感する。

 しかしどれだけ考え、思い出そうとしてもその何かを見い出せなかったし確かめようも無かった。

 途方に暮れかけたが……今日がバイトの無い休日であるのも手伝って、何かヒントにならないかとスギタは近所のレンタルショップに出かける事にした。


 時計を見やると丁度九時を回ったところで、開店までは一時間弱はあるだろうか。


 そこで改めて、スギタはあの事故物件に住んでいた友人に連絡を取ってみた。

 以前、『知り合いの不動産屋に』という言葉からある事を確かめてもらう様に頼む為だ。


 開口一番、朝っぱらから云々と友人は不機嫌だったらしいが、スギタの真剣な声に「聞いてみてやる。」とだけ答えてくれたという。


 そうこうしている内に気づけば時間は十時を回り、スギタは寝間着のラフ過ぎる格好のまま、財布だけ持って家を出た。

 アパートから徒歩五分と掛からない道中やショップに着いてからも、彼は潰れたという地元の店舗を思い返してみたが、やはり思い当たる事は無かった。


 何故なら、スギタ自身は中学時代にその店舗へ二〜三度訪れていたが、一度として利用していなかったからだ。

 主に悪友たちと作品を選び、誰かの家で鑑賞するという具合であり、彼自らが会員カードを作成し、借りて観るという環境にはなかったかもしれない。

 また高校二年の時、遠方に親戚が見つかり地元を離れて転校している……フジタと出会ったのもその頃らしい。


 店内を見回りつつ、尚も曖昧な記憶を呼び起こそうと試みるスギタ。

 当時観たであろうタイトルを捜す事で芋づる式に思い出すかもしれないと考えたそうだ。

 だがこれが難航した……大まかの内容を憶えていても、タイトルどころかジャンルさえ特定出来なかったからだ。

 もっとメジャーな超大作を観ておけば良かったと、当時の自分に愚痴ってやりたい心理に駆られたという。

 そんな自問自答とリンクするかの様に、アダルトコーナーを除く全ての区画を繰り返し回り、気づけば店内の壁時計は昼時を越え、2時に差し掛かろうとしている所だった。


 スギタは漸くそこで空腹に気がついた、朝から何も食べていなかったのだから当然であろう。

 気分転換に近くのファミレスにでも入るか……そう考え、踵を返した時だった。


 「………!?」


 視界の端を人影が過ぎった……少し茶色がかったロングの髪が尾を引く様に、隣のコーナーへ入っていったのが視えたらしい。

 即座にスギタもそのコーナーに踏み込んだが、向かい合った棚に挟まれた長い通路には誰一人居なかったという。

 ……何故だか肌寒い、そこにはアニメが陳列された棚が立ち並ぶ。


 スギタは疑問符を頭の中に付して戻ろうとした、近年ではそこそこアニメも観ていたが思い入れという程のタイトルは無かったからだ。

 しかし……そんな思いに反して次の瞬間、右側の棚から一本のパッケージが唐突に『カタンッ』と乾いた音を立てて落ちる。


 今起きた現象に訝しみながらも、ゆっくりと近づきそれを拾い上げると、スギタは棚へと視線を向けた。


 「おかしいよな、だってああいう陳列棚ってパッケージをギチギチに入れてるからさ、一本だけ落ちる訳ないだろ?……ああ、彼女がやったんだなって思ったね。」


 黙って話を聞き、コーヒーを啜るフジタに対し、やや饒舌にスギタは身振りを交えて語ったという。


 きっとこのアニメを彼女が観たがったに違いない、彼はその一本を借りてアパートに帰ったそうだ。




 「……んで?そのアニメってなんだよ?」


 私は部屋でカ〇ピスを飲み、ド〇タコスをパクつくフジタに問うてみた。

 まぁ、端的に言えば長年完結していないタイトルの三作目だったそうだ。


 「そういやまだ完結してなかったなぁ、後二十年位は制作しないんじゃねーの?」


 割と最近に劇場公開されたタイトルだったと記憶していたが……まぁ言及は避けよう。



 ーーはてさて、話を本筋に戻したい……と言いたいのだが、前置きしなければならない。


 ファミレスでスギタがフジタに語ったその後、つまりそのタイトルを借りてアパートに帰った夜についてだが、スギタは多くを語らなかったそうだ。

 いや、話したがらなかったと言った方が正しいらしい。

 ただ前回同様、深夜にその映画を観始めたら、彼女は姿を現したと言っていた。


 それまで事細かく事情を教えてくれたのに、何故肝心の部分はぼかすのか?

 納得しきれない私に対し、フジタは口元に付いた菓子をティッシュで拭いつつ、この話の根幹を紡いだ。


 「……これは俺が一番後悔した話なんですよ。」


 フジタは確かにそう言った、後悔したと……。


 「あの日、ファミレスで話したのが、生きてるあいつと会った最後だったんです。」


 ……柄にもなく絶句してしまった、そんな私の様子を見やり、フジタは続ける。


 確かにあの時、スギタの周囲に女は居なかったし、目について忌避する様なモノも居なかったらしい。

 だがそれが一時的な状態であったなら、まったく解決して等ないだろう。


 スギタの話ではその夜以降、地元の友人から再び連絡が来て、例の事故物件で亡くなったのは男だと聞かされ……その時に何か思い出した事があったようだが、本人は大したもんじゃなかったと笑っていたという。


 「一緒に観終わったら……何時の間にか消えちゃっててさ。満足したのかね?」


 そう寂しそうに呟くスギタの横顔が印象的だったと、フジタは語った。


 結局、ファミレスで別れてから三日後にスギタは亡くなった……死因は事故死となっているが、状況から自殺ではないかと言われたらしい。


 本当に不意だった……淡々と、フジタがそう言葉を結んだ所で、私は唐突にある引っ掛かりに気付いてしまう。


 「お前……さっき、『生きてるあいつと会った最後』って言ったよな。」


 「………。」


 私の問いに対し、フジタは人差し指を結んだ口元で立てて……少しだけ首を横に振る。


 もし私の考える通りなら、女は……そんな厄介な好奇心に背中を押され、耐えきれずに一言だけ聞いてみた。


 「……連れていたのか?」


 ちょっと前のめりとなった私に呆れたのだろう、今度は窓の外に広がる原色の青空へと目を向けながら、答えてくれた。



 「きっとそれは〇〇さんにとって、見聞きしなくてもいい事だと思いますよ。」




 終わり。

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