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97 パメラの過去

 パメラはこれまで自分の過去のことを、表情を変えずに淡々と語っていた。

 その内容はどれも聞くに耐えないものばかりで、俺は激しい怒りを感じていた。

 途中からはミーアは泣き崩れ、メアリも涙を流しつつもじっと聞いていた。


「アレスさん、私は嬉しかったのです。アレスさんを好きになって。毎日が本当に楽しかった」


 その言葉に、何も返せない自分が腹立たしい。

 パメラは諦めという覚悟を決め、俺に対して過去の物として語りかけている。

 流れる涙を何度も拭い去り、近寄ろうとする俺に首を振って拒絶をしていた。


「だったら……ううっ」


「だけど、これでもう終わったんです。お二人はとても素晴らしい方です。良かったじゃないですか」


 パメラそう言って悲しそうに、無理をして笑顔を作っていた。

 今にも崩れそうな彼女に対して、何も出来ない。

 慰めたとしても、俺に何ができる?

 俺たちはまだ学生であり、家同士で決まった話に外部の人間が割って入れるものではない。


「だから、私のことで……私みたいな女はアレスさんに相応しくないんですよ」


「パメラ様。そんな事はありませんわ。どうかそのような事を仰らないで」


「アレス様。お願いします。パメラを、助けてください……」


「助けて、か……」


 ミーアはその場に座り込み涙を流していた。

 まるで感情を失ったかのように笑う彼女を、俺に救うことが出来るのだろうか?

 これまで失敗だらけで、あの時パメラを受け入れ今のように縁談を持ちかけていたら……こんな事にはなっていなかっただろう。


 パメラは、子爵の娘でありながら。

 家名も与えられず、幼少の頃から下働きをさせられ、母親と二人で与えられたなけなしの食べ物を分け与える日々。

 逃げ出すことも出来ないように、幽閉されていた。

 パメラの母親は子爵に仕えていた使用人であり、弄ばれた結果パメラが生まれたというわけだ。

 しかし、これだけで子爵のもつ爵位を剥奪できるのだろうか?


 異母兄弟には兄妹とすら認識もされていなかったが、十歳に転機が訪れた。

 それが、あの光魔法を発動させたことだった。

 パメラは無意識に発動させてしまったせいで、末席を設けられた。

 しかしそれは、貴族のご令嬢としてではなく、光魔法を使える令嬢としか見ていないものであり、ただの道具として扱われていた。


 雑用は全て訓練へと変わり、学園の生徒として戦力が必要と判断され、来る日も来る日も槍をただ振り続けていた。


「子爵は私の父親だけど。父親だとは思えなかった。母にきつく当たり、最後には……」


 感情を抑え込み、気丈に振る舞っていたパメラからも涙が止まらなかった。


「慰みものとして……お母さんは、ううっ」


「パメラ。わかった。もういい」


 俺はパメラを抱きしめ、タガが外れたかのように泣き叫んでいた。

 何度も俺を突き飛ばして逃げようとしていた。

 俺は何度叩かれようともその手を離したくはなかった。


 この話は当然、シナリオに関係している。


 パメラ・ストラーデは王子のヒロインだ。この話を聞いた王子はどんな対応をしたのだろう?

 パメラのつらさにどう向き合い、何を語ったのか……俺には分からない。

 今できることは、パメラを手放さないことだけ。


「でも、許せない。わた、私は自分が許せない!」


「自分を追い込むな。お前はまだ子供だったんだ、母親を助けられなくて辛かったんだろう。ずっと苦しかったんだろう。だけどな、お前が全てを背負えるわけ無いだろう?」


 これがパメラの過去。

 子爵のしたことは許されないだろう。

 しかし、パメラだけの証言では……俺はどうすれば言い?


 今の俺に何が出来る?

 慰めたところできっと否定される。なら何なんだ?

 どうすれば、パメラはまたいつものように笑ってくれる?


「ふふっ、あっはは」


「パメラ?」


「アレスさん。私が学園に行く時、なんて言われたと思います?」


 俺は突き放された。彼女はつらそうに笑っている。

 涙を流したまま、拭い去ることもなく笑う彼女、何度も声を出して笑っていた。

 まるで自分を嘲笑うかのように。

 手を伸ばし抱きしめても、彼女は一切の抵抗を見せなかった。


「階級の高い者と懇意になれと言われました。なのに、私は逆らうことも出来ずにいる。本当に自分が情けないですよね。あれだけ嫌がっていたのに、結局は公爵家の人間と一緒にいるなんて滑稽ですよね」


「やめろ。それはお前の本心じゃないだろ?」


「本心ですよ。アレスさんが私を、妾にでもしてくれれば助かるって思っていました。ミーアがそれを受け入れてくれた時どれだけ嬉しかったか。だけど、アレスさんは私を受け入れてくれませんでした!」


「それは違う。俺と居れば、お前だけじゃなく、ミーアだって苦しむことになる。だから受け入れられなかった。メアリも婚約者になって、俺が倒れている時に来てくれたお前たちを見て、俺は心から嬉しかったんだ。手放したくないと思った」


「何故ですか? 婚約者が二人も居るじゃないですか……だから、それでいいじゃないですか。私にはもう無理なんです!」


 パメラにはもう何も届かないのか?

 王族相手では話にもならないというわけか……それとも何もかも諦めてしまったというのか?

 自暴自棄な言葉を並べ、何度叩かれようともこのまま手を離すことだけはできそうになかった。


「話が持ち上がったのは、年末パーティーでのことです。子爵は、殿下に慰み者として母と同じように私を売ったのです」


「まさか、縁談とは……あの話は本当だったのですか?」


「どういう事だ?」


「アレス様はすぐに現地へ向かわれましたので、知らなかったのでしょう」


 年末のパーティーに、現地?

 ああ、そうか。姉上を助けに行った日のことか。

 その時にパメラが?


「パメラ……どうして……」


「あの時のパーティーで、殿下の周りには多くの貴族が集まっており、気になって話を聞いてみたのです」


 メアリからの話は、あの王子が側室を集めているという話だった。

 なんであいつのパーティーは女ばかりなのか。

 そして、あの手下の言っていた意味……ミーアを品定めしていたあの目。

 怒りで気が狂いそうだった。パメラが、自分を売ったという言葉の意味。


「はい、その通りです。私はその日のうちに、婚約者としてではなく、側室予定として決定された」


「なんてこと……」


「アレスさんは、気にしていないかもしれませんが、スォークランダンジョン。今では、殿下が攻略されたことになっております」


 スォークラン……あそこか、あの後はタシムドリアンのこともありいいように使われたということか。

 そして王子は、ダンジョン攻略者として成果を残したことになっているのか?

 ここまでひどい状況にしていたのも俺のせいだというのか……ゲームでも攻略するのは、可能だったはず……


「スォークランですって!?」


「アレスさんだという明確な証拠がないのです。殿下は、十数人のパーティー。発言権はアレス様よりも大きい」


「そうだろうな。たった一人で攻略したというよりも、十人以上で攻略したという方が信憑性も出てくる。それに王子は相変わらず、俺のことを弱いと思っているからそんな真似ができたのだろう」


 スォークランへ向かったが、ダンジョンが無くなっていることで手柄にしたということか?

 俺が伏せていたということもあって、父上やガドール公爵が後から真実を伝えたところで状況は不利になる。


 俺はそんな事を気にすることはないから、どうでもいい話だった。

 しかし、その結果がこれだというのか?

 何処まで失敗を重ねれば気が済むんだ、俺は!


「そうか……それで側室というわけか」


「どういうことですか?」


「攻略者ともなれば、箔が付くとかいうレベルじゃない。ダンジョンは、攻略ではなく暴走を阻止するために冒険者達が頑張っている」


 そんな中、ダンジョンを攻略したものが現れれば、ましてやそれが王族であれば……周囲に居る貴族達は、称賛し敬意を示すだろう。

 例え愚行だとしても……現状において、スォークランのダンジョンを攻略したという証拠がない。


「ダンジョンを突破するのは容易なことじゃない。そんな人間の子供を多く残すため制限なく側室を集めることに、攻略者というのは一役買っているんだ」


「最悪な話ですわね」


「その機会を与えたのは俺なんだけどな……そして、側室へと入れば当然、子爵にもそれ相応の対価が支払われる。子爵が欲しいのはその金だろうな」


 あの屋敷からして、庭の華やかさよりもキラキラと光るものがいいのだろう。

 パメラは目を伏せ、唇をかみしめている。

 ミーアはよろよろとパメラの足にしがみついた。パメラもしゃがみ抱き合って泣いていた。

 金という代物は何処の世界でも、欲に目がくらんでしまうものなんだな。


「パメラ、王子との婚約の話は何処まで進んでいる?」


「多分、向こうの出方を待っているのだと思う。殿下のことだから、沢山来ている縁談に対応していたとしてもまだ時間はかかるかもしれない」


「パメラ。もう一度、何度でも言ってやる。俺はお前を手放すつもりも、あんな奴にくれてやるつもりもない。お前は、お前たちは俺の側に居るって言っただろ!」


「アレスさん。私なんか別にいいじゃないですか」


「そんな下らないこと誰が聞くか! 俺はこの三人といたい、スケコマシだろうと構わないお前たちが居てくれるのなら、どんなことだって足掻いてもいいだろ。お前も俺も、一人じゃないんだ」


 メアリもパメラを抱きしめ、抱き合っている三人を俺はただ泣き止むまでずっと見ていた。

 こんな事はもうごめんだ。何もかも下らない……。


 パメラは唯一光の魔法を使える。この事であまり猶予はないのかもしれない。

 俺の頭では、何かを見出すよりも、二人に相談に乗ってもらったほうが早いよな。

 宿へ戻り、レフリア達と合流することにした。

 この状況を変える手段が見つからない……パメラが縁談を断ろうにも、相手が悪すぎる。



   * * *



「俺は家に戻る。皆はどうする? 来るか? ローバンのダンジョンにでも行ってくれると助かるのだが、どうだ?」


「アンタにしては随分と控えめな言い方ね」


「アレス様の場合。行けとか待ってろですからね」


「僕はローバンへ向かうよ」


「それじゃ、皆行きましょうか」


 俺は皆を連れて一先ず父上の所へ向かった。

 これ以上、失敗をしてたまるか!


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