94 それぞれの考え
二人から数枚の書状を受け取り、一先ずレフリア達がいる王都へと向かった。
馬車で向かうには時間が惜しいので当然、運送業を開始した。
「アレス様は本当に大丈夫なのですか?」
「メアリは心配性だな。この程度なら余裕だ。レフリアならこの程度を見たぐらいじゃ何とも思わないだろうな」
三人は顔を揃えて首を傾げていた。
大きめの木箱に三人を乗せ、ロープを俺の体に括り付けている。
ロープは四方じゃなくて一本でも十分だが、この方が安心するだろうと思ったからだ。
箱ごと浮遊させているので重さもない。元からそんなに重くもないから楽なだけ。
大きめのコテージに、ギュウギュウ詰めに人を入れるとか、あれに比べればこの程度は重さもないようなものだ。
次があれば絶対にやりたくはない。
学園に到着すると、レフリアを探すのだが……。
「ところで、あの二人は何処に居るんだ? あまり遠くのダンジョンに行ってないと良いんだが」
「アレス様。何を言っているのですか? 授業に決まっているではないですか」
学園だから当然授業もあるか……そういや俺って、まともに受けたことって、四月ぐらいしか思いつかないんだけど?
十二月はあまり授業にでていないというか、図書室でサボ……英気を養っていた。
なんだろうな、この駄目生徒感は……お願いだから、そんな視線を向けないでくれ。
「あのさ、今って何月? 待て待て、皆して溜息をつくことはないだろう?」
「あれだけの事があったのですから。アレス様の時間感覚が、狂っていても仕方が有りませんわね」
「そうとは言えないですよ。アレスさんはそもそも時間を気にしていないだけですよ」
パメラの心無い一言のはずなのに、他二人は妙に納得した顔をしていた。
俺はそんなにもおかしいですか? 「なるほど」とかいって納得ができるほど狂ってますか?
ちょっとど忘れをしていただけだ。気にしていなかったわけじゃない。
ミーアならきっと分かってくれるはず……困った笑顔をするなよ!
「もういい……とりあえず、教室にでも行けば良いのか?」
「そうですね。レフリア様にお会いするのも久しぶりです」
「俺は出会ってそうそうに、殴られないことを祈ることにするよ」
俺達は、昼休みの時間を見計らって教室へ入ると、教室に残っている生徒の注目を浴びることになった。
居ないのが当たり前で、そんな奴の後ろには美女が三人もいるのだから当然か。
これまたなんというか、随分と懐かしい顔がこちらへやって来た。
「学園から居なくなったかと思えば、まだ残っていたのか?」
「退学はしていませんので、そんなことを言うために? 俺なんかに用は無いはずでは?」
何が気に障ったのか知らんが、いきなり殴ってくるとは、本当にこいつは頭おかしくなっていないか?
後ろにいるミーアとメアリは今にでも、この馬鹿王子に襲いかかりそうな顔をしていた。
とはいえ、相手が王子ということもあって手を出さずに堪えているか。
いくら王族とは言え、こんな事を許されるものじゃないだろ?
「ブタが! この俺様に口答えするとは、いい度胸だな。身の程ってもんを教えてやる」
やれやれ、面倒なやつだ。こっちも相手にするつもりはないから。
構ってやれるほど暇でもないからな。
というか、こいつは何で俺に対して敵意を剥き出しなんだ?
「別にそんな物は必要ないです。とりあえず王子様には用がないんで失礼しますよ」
「調子に乗ってんじゃねえぞ!」
言うこともチンピラなのかよ。
脇を通り過ぎたところで、後ろから蹴られようが罵声を浴びようが、俺は敢えてそれを無視したまま、レフリアの所まで行った。
「話がある。少し良いか?」
「ふざけやがって。この野郎!」
「いい加減にしてくださいよ。わざわざ俺に構う必要はないだろ?」
殴りかかってきたので、腕を払い除け軽く突き飛ばした。
バランスを崩した王子が、運良く椅子に腰掛けることとなり無様に倒れることはなかった。
「二人共行くぞ」
「うん、分かったよ。リア」
「ええ」
レフリアとハルトを連れ出し廊下を歩く。
さっきのこともあり、俺は少しイライラしていた。
怒っているのは俺だけでもなかった。だけど、パメラの様子が少しおかしい。
何があったのかはわからないが、かなり気落ちしているように見える。
「アンタも災難ね」
「全くだ。出会った早々に、レフリアからビンタされる程度のほうがまだマシだぞ」
「私はそんなことはしないわよ? アンタが馬鹿なことを言うのが問題なのでしょ?」
俺は人差し指を刺され、反論しようにも無意味に殴られたことはなかったから、正直言い返しづらい。
レフリアのくせに、ハルトは毎度宥めているのだが……毎度のことながら効果が薄い。
もっとこう、投げ飛ばすとか羽交い締めぐらいのことをして欲しい。
「アレスも元気そうで良かったよ」
「ガドール公爵からお前達にだ。ちゃんと読み終えろよ」
ガドール公爵から預かっていた書状を渡し、落ち着いて読めるように屋上へ昇った。
開封された書状の中には数枚の便箋が入っていた。
よくもまあ、あの短時間にあれだけ書けたものだと感心しながら二人の様子を見ていた。
ミーアが俺の隣に座ると、大したことはなかったが回復魔法を使ってくれた。
パメラは遠くの景色を見ているようだな。
「なお、メアリ。あの王子って長男だっけ?」
「いえ、殿下は第二王子です」
「だったらまだいいか……あんなのが国王なら国が滅びるぞ」
我儘でやりたい放題。気に入らないものは排除する。
暴力も気分次第ともなれば、国が傾く程度で収まればいいって話にもなりそうだ。
「ですが、殿下のお兄様であるソリティス殿下はなんでもご病気でいらしゃって……」
「なるほどな。こういう事は言うべきじゃないのかもしれないが……国王になる可能性があるのは、第二王子であるあいつか?」
メアリは頷き、同時に俺はため息が出た。
マジで国が終わりそうだ……現国王には末永く元気で居てもらいたいな。
「ねえ、これって本気なの?」
「魔人のことか? そのつもりだ。放置できるような相手じゃないからな」
「私達の強さなら知っているでしょ? それとも、ダンジョンに籠もり過ぎて馬鹿になったの?」
どいつもこいつも俺のことをダンジョン馬鹿みたいにいいやがって……レベルを上げるために必要な行動なんだよ。
アレスといえばダンジョンって事になっているのか?
どう考えてもそんなことにはならないだろ?
「なんでそうなる」
「詳しく聞きたいの? アレス・ローバン?」
「アレスは、一ヵ月自由にしていいと言ったらどうするの?」
「一ヵ月か、随分と短いな……いや、まてまて、違うぞハルト。ほ、ほら、ミーアやメアリ、それにパメラだっている。デートするのにもっと時間が欲しいだろ?」
そう言い切っても三人の様子を見るが、しれっとした表情をしている。
少しぐらい照れるとか、恥じらいとかないの?
もしかして、絶対にそんな事を考えていないとか思われているのか?
「まあ、それはさておき、それで? 二人はどうする?」
レフリアは手紙を読み終えると大きく息を吐いて項垂れていた。
「どうするって……言われてもね。私の判断に任せるとは書かれているけど正直に言って自信がないのよ」
「それは僕も同感だね。アレスが期待されているのはもちろん分かるよ。僕なんかを誘ってくれるのは嬉しい。でも、リアと同じ意見かな」
俺ですら苦戦する相手と戦えなんて、二人にとっては到底考えられない話になるだろう。
ゲームのように簡単に立ち向かっていく勇気が湧いて出るはずもない。
「巻き込むつもりだが、無理強いするつもりはない。最悪俺一人でも……は、もう通用しないか」
今更一人でなんて言えば、ミーア達がどう動くかなんて想像しやすい。
これで、目的の場所がわからなければ? 何処へ向かうのか?
目的もなく各地を転々とし、最悪ダンジョンの中に入るかもしれない。
さすがにそんな事にはならないと思うが、気をつける必要はある。
「今すぐに向かう話じゃないんだ。とりあえず休学して、駄目だと思ったらその時は言ってくれ」