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89 諦めの決断

「何がどうなっているのか……まあよい。アレスよ、先日のダンジョンでの話だ。そろそろ、『アイツ』とは何かを教えて貰えるだろうか?」


「黒い体をした魔物。というよりも、人でありながら魔物になった、魔人と言ったほうが良いかもしれません。片言ではありましたが、言葉を発しましたので」


 魔物は人を言葉を話さないため、片言でも話すアイツを魔人と呼ぶべきかもしれません。

 ただ、言葉を話すということで、ここに居る誰もが息を呑んでしまう。

 人が魔物化するという話は、これまでにも一度たりとも存在していないお話ですから、当然の結果でしょう。


「それと、あの剣。ダインスレイブは、その魔人を倒した時に出現したものであって、これが何のために作られたものか何も分かりません」


「ふむ、お前は何故この剣の名前を知っている?」


「それは……アイツ、いえ魔人を倒した時、私は光りに包まれ、光の中でとある人物の声が聞こえました。失われた武器は六本ある、このダインスレイブを持ってあの人を助けて欲しいと」


 流石に伏せる必要があるものは伏せ、知りたがっていた情報を話す。

 ずる賢く考えず、慎重に言葉を選んでいく。

 父上とガドール公爵閣下は、深い溜め息をついていた。


「それが誰を指しているのか私には分かりません。それと、魔人が居るダンジョンでは、普段と違う魔物が出現するようです。姉上もその為に調査へ向かったようです」


 ダンジョンには通常の場合、種族系統のみが出現するのが通説であり、多種族があるダンジョンというのはあの場所を置いて存在はしていなかった。


「つまり、いつもと違う魔物が出現した場合お前の言う魔人が居る可能性があると?」


「可能性の話であれば、そうだとも言えます……っ!」


「アレスは対魔人に置いては、唯一と言ってもいいと思うよ」


「お前は自分の息子にそんな危険な所へ向かわせるつもりか? アトラス。もう良いだろう」


 兄上は、私に付けられていた、チョーカーを外してくださった。




「ふぅ。僕はまだ付けていたほうが良いと思うのだけどね」


「アトラス、いくら何でもやり過ぎだよ。もっともアレスに対しては、あまりにも効果的だろうけど……」


 兄上の馬鹿、なんて物を付けやがるんだよ。

 それのおかげでこの数日どけだけ苦しい思いをしたことか!

 あのチョーカーは、イリーシャ姉上に着けられた物で、悪いことを考えたり、言葉にしただけできつく閉まる。

 一体何のために作られたかわからない代物だった。

 そんな魔道具がこの世から無くなればいいのに!


「ガドール公爵。俺はアンタを恨むよ、あんな書状さえ無ければこんな事にはならなかったのに」


「ようやく普段のアレスだな」


 そもそも原因は、俺だけがいち早くここに来たことが問題なんだ。

 二人がかりの特訓を受けることはなかっただろうし、あんな訳の分からないものを着けられて、立ち居振る舞いを見直すとか本当に意味が分からん。

 全くこの数日は、虚無でしか無い。


「アレス様?」


「なんだ、ミーア」


「さっきまでのアレス様は……アレス様のご意思ではなかったのですね」


「なんというか、余計なことを考えるだけでも首を絞められるからな」


 それでも、メアリとパメラをお姫様抱っこをするとは思わなかったけどな。

 中々に際どい服装をしているから、そういうふうに見ないようにしていても下心が出そうで危なかったぞ。

 流石にやりすぎた感はあるし、三人にとっては普段の俺のほうが安心するだろう。


「俺は大して怒られるようなことをしていないというのに……」


「アレス。いいんだよ私は……言っても」


 父上からの優しい指摘に対して、俺は直様姿勢を正し、ガドール公爵に深く頭を下げた。

 本当に調子に乗ってすみません。元はと言えば俺が悪いだけです。


 兄夫婦は、何時でも剣を抜ける準備をしているし、姉上様はまだあのチョーカーを持ったままだ。


「大変失礼なことをいいました、申し訳ございません」


「構わん。さっきの方が俺としても楽だから許す」


「それは有り難いお言葉で。話を戻すけど、その失われた武器を集めた所で、何の意味があるのか分からない。正直に言えばそれに興味すらない。けど……」


 思い出すのは、ベルフェゴルとの戦い。

 ここにいる全員で立ち向かったとして、本当に勝てるのだろうか?

 父上や兄上なら、物理が効くのだから有効とは言える。

 剣や槍での攻撃は何度も吹き飛ばされ、アレを生身で受けていたら無事ではすまない。


 それに召喚もそうだ、あれだけの眷属も相手しつつ大本に辿り着くことさえ叶わないかもしれない。

 フィール姉上でも眷属と戦うのがやっとで、あの時一緒にいれば間違いなく足手まといになった。


「何があるのかな?」


「父上、ガドール公爵。ここにいる全員で何の制限無しに、俺の本気を倒せますか? 倒せるとしたら何人必要ですか?」


 俺は最初から強かったわけでもないし、最初の頃は結構危険な目にも合った。

 魔物も何百何千と数えるのも馬鹿らしいほど倒している。

 レベル差が当然大きく開き、シールドがあるだけで誰の攻撃すら俺には届かない。

 俺の攻撃は剣なら回避できるが、魔法を回避することは難しいだろう。

 それに、空を飛ぶ事ができないという時点で勝機はほぼゼロに等しい。


「前回は何とか勝てたけど。そんな相手が野放しだとどうなりますか? 魔人がその失われた武器を持っているのなら、それが後五体も居る」


 ゲームのように設定だけの話ではなく、この世界では本当に起こる事象なんだ。

 たかが五箇所。しかし、それでどれだけ多くの人が亡くなるか想像すらできない。

 それほどまでに、ゲームのアレスのようにダンジョンの暴走は多くの人に対して絶望を与えてくる。


「アレスが本気になれば、私達なんてすぐに消し飛ぶだろうね」


「そうですね。これまでは剣だけであれば……という前提ですから」


「俺は実際の目で見たわけではないが、あの上位アンデッドのダンジョンを攻略しているだけで手も足も出ないだろうな」


 強者と対抗するにしても、また俺一人で立ち向かうのなら、あの時のようにどれだけ心配をかけさせるか分からない。

 今のミーアたちは、不安な顔をしている。きっと三人は俺がまだ一人で行くと思っているんだろう。

 しかし、俺以外でアイツ、魔人に対抗する手段がない。

 本来であれば、敢えて強者と戦う必要はない……それはゲームでの話だ。


 それにあの武器があった所で、俺にとっては必要はないし今後を考えても利用価値もない。

 ハルトたちが居てくれたとしても、ゲームのように強くなるという保証もない。

 ダンジョンに何日も籠もり、延々と続く魔物をひたすら倒して回る。スォークランでの出来事から始まり、暴走寸前まで魔物が居たことで俺は更に強くなれた。

 その甲斐もあって、強者とまともにやりあえた。

 

 ドゥームブレイドを作り出すのに、あのダンジョンは必要だったし俺の切り札としてはまだまだ不完全だ。


「これから先……魔神が現れたりすればどう対処しますか?」


 父上とガドール公爵は、何も答えずただ目を伏せる。

 答えとしては、俺が討伐するのを期待している。

 ダンジョンに向かい俺が強くなるのは良い。


 強者よりも遥かに大きな問題が残っている。そのために強くなるのなら、俺はむしろ喜ぶところだ……。

 どんな結末が待っていようとも絶対に倒すべき相手がいる。


 だけど俺は……見届けることを決めたんだ。

 俺がこのままダンジョンに行けばどうなるのかを理解しているから。

 この世界に作られたシナリオの最後を……俺はきっと黙って見守ることしか出来ない。


「何も出来ませんよ」


「アレス様?」


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