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82 イタズラは駄目

 俺は目を覚ますと見覚えのある部屋だった。

 体を動かしたことで、左肩に痛みが走る。その痛みで何が起こっていたのかを思い出した。俺は屋敷に戻ってからどうなって……。


「は? なんで?」


 本当に何が起こっているのかが分からなかった。俺の隣にはミーアが居たのだから。少しだけ開いた小さな口から、寝息をたてていた。

 その衝撃的な光景に目を大きく見開いていたと思う。

 頭を何度も振り、意識をはっきりさせても確かにミーアがそこで寝ていた。

 これは一体?


 左肩は痛みが残っているが、受けた傷はなくなっていた。きっと、ミーアが魔法をかけてくれていたのかもしれない。

 お礼も兼ねて、ミーアを起こさないようにゆっくりと頭に手を置いた。こんなふうに触れるのはあの時以来だな……。


 俺はミーアと初めて王都に行った時のことを思い出していた。

 ラカトリア学園で初めて抱きしめた。失いたくないと強く思っていた。それなのに、ミーアには辛い思いばかりさせている。


 後悔ばかりしている。本当は素直になりたいと思う……この暖かな気持ちは、あの頃から大きくなっている。ミーアのおかげでどれだけ救われたか。

 本当に……嬉しいよ。

 それにしても、この状況はあまりよろしくはない。起こさないようにそうっと、ああ、お前もいたんだな。


 左にはミーア、右にはパメラ?

 パメラもいたとは……じゃあ、どうすればいいんだ?

 起こしたくはない、となると上から出れば……が、そもそも何でこんな事になっているだ?


 上半身はともかくとして、下さえ何もなく、男の子の事情が顔を出していた。

 何で俺は裸?

 周りを見た所で俺の服はないし……大体、こんな格好で二人が起きたらどうする?

 というか、誰だよ服を剥ぎ取ったのは!


「ううんっ、アレス様」


 セーフ、寝言セーフ。

 それにしても、やっぱりこうして見てるとやっぱり美人だよな。

 俺の視線は、その声を出していた唇から離れなかった。

 いつも俺みたいな奴の、いつも隣りにいてくれる。ゲームの設定なんて関係なく、俺を本気で慕ってくれているのだろうか?


 だったら、このまま……ダメだ。相手は寝ているんだ。

 俺は何を考えているんだ?

 そういう事は起きている時に、でもねぇよ。こっちは……ひゃぁあ。バッチリ目が合った。


「アレスさん?」


「お、おう。おはよう。大丈夫だ、何も問題はない。何もしていないからな」


 既に問題だらけで、俺はゆっくりと布団を手繰り寄せていた。

 パメラはキョトンとした顔のまま、涙だけがこぼれ落ちていた。

 俺はバレたと思い焦っていたのだが……。


「う、ううっ、アレスさん、良かった。本当に良かった」


 おいおい、いきなりどうしたんだ?

 腕を捕まれ、頭を当てわんわん泣いていた。

 パメラの泣き声で起きたミーアも、俺の顔を触れるとしがみつき二人して泣いている。


 そんな二人にオロオロしていると、何かが落ちる音が聞こえ、部屋の入り口にはメイドの格好をしたメアリが立っている。

 ゆっくりと近づき、今度は正面から抱きついてくる。


「ちょっと待て待て。特にメアリ。お前は危険なんだよ」


 その声を聞きつけたのか、今度は姉上がやってきた。そして、三人を引き剥がして叱り飛ばす。

 俺もようやくメアリが持ってきていた服に、袖を通すことが出来た。

 ちょい、下も早く……メアリさんお願いします。姉上、小言も分かるけどさ、今はそれがないといろいろと問題なんだよ。


 それにしても三人は何を考えているんだ?

 慕ってくれるのはいいが、 こっちはこれでも健全な男なんだぞ。

 牙はないけど、狼なんだぞ! 色々と怖くて襲える度胸はかなりないけど。


 今三人は、窓際に立っているので一安心だ。姉上が最初から居てくれればこんな事には、いや二人が隣で寝ていたのが問題だよな。

 モソモソとスボンを履き終え、しばらく小言が尽きそうにないので、そのスキにトイレへと向かった。

 これで一安心だ。


 部屋に戻ると、今度は立場が一変しており。

 姉上が問い詰められていた。


「申し訳ありませんでした。ですが、お姉様。一週間なのですよ? それがどれだけ怖かったか……それがお分かりになられないのですか?」


 姉上が、三人を窓際に立たせて、説教をしていたというのに今は姉上が追い詰められているように見える。

 アレ? ミーアさんですよね?

 ミーアが先頭になり姉上に対して抗議をしている。


「それは分かるけどね。目が覚めてくれて嬉しいのは分かるよ」


 あの姉上に対して……よく詰め寄るなんてことができるよな。

 三対一と分が悪いから、強く出られないなんて、あの姉上からは想像もできない。


「お姉様は何も分かってなどおりません」


「フィールお姉様。ルブルドお兄様が同じような目に合われたとして毅然としておられますか?」


「そ、それは……でもね、三人で抱きつかれるとアレスだってびっくりするでしょ? それに……」


 何なの? 一週間? というか、お姉様? 意味不明すぎて何の事を話しているんだ? 俺はそんな寝ていたというのか?

 姉上、余計な事を言っていないだろうな?

 三人が揃って、顔を真っ赤にしている辺り、その内緒話は絶対にいらないだろ!


「いい? 分かったね?」


「わからねぇよ。姉上。とりあえず事情を説明してくれ」


 そういうと、四人と入り口からも二人の鋭い視線が突き刺さる。

 部屋の入口には、ロロさんとリッツさんが立っているのだけど。すごく睨んでる。

 何で?


「あ、姉上……」


「はいはい。情けない声出さないの。そうね。彼女達は、貴方が倒れて二日後に三人が来てくれたわよ」


「この雪の中をか?」


 馬車でもまともに走っていないだろ?

 それをどうやって? いくら雪国とは言え行路は確保されているのかもしれないな。それでも時間はかかるというわけか。


「一言で言えば、愛の力よ!」


 すごくどうでもいい話だった。


「愛だなんて、そんな……当然のことです」


 姉上は俺にまともに話すつもりはないのか?

 恥ずかしそうに言うのなら最初から言わないでくれよ。ちっとだけ嬉しいって気持ちになるだろうが。


 そもそも、行路はあるからバセルトン公爵も隣りにいたのだから、当然ここにいることは知っているし、あのおっさんが何らかの手を回しこの三人が来ているのだろう。

 あの人ならやりかねない。

 いや、絶対にやるな。


「真面目に話をしてくれ。俺はあの後どうなったんだ?」


 姉上は、テーブルの椅子に座りため息を漏らしていた。

 ようやくまともに話すつもりになったか?


「怪我をしていた貴方を、リッツとミーアちゃんの魔法で、掛かっていた呪いも無事解呪されたわ。パメラちゃんやメアリちゃんも、交代でも貴方に付きっきりでお世話していたのよ。もちろん、ロロも当然お世話をしていたのよ」


 呪い? 最後に受けたあれのことか……そんな効果があったのか。

 通りであの後から不調になったわけだよな。それで、俺は一週間も眠りこけていたというわけか、そりゃ心配もするか。


「皆、ありがとうな。ロロさんたちにはこれで二度目ですね。本当に有難うございました」


「いえ、感謝されるほどのことではありません」


「奥様のご命令ですので、お気になさらないでください」


 姉上の命令ね。それでもありがたいのは確かだ。

 私には? と、言わんばかりに腰に手を当てて、口角を上げている姉上が視線に入り込む。


「姉上、ありがとう。また迷惑かけてごめん。お前達も来てくれてありがとうな」


「アレス様のお世話ができて、その、嬉しかったですわ」


「私達のことよりも、体調はどうなんですか?」


 体調は特に問題はない。左肩は……呪いの後遺症なのか?

 違和感があるけど、これがずっとでないことを祈るしか無いな。


「大体は問題ない。左肩は、くっ、まだ少し痛むな。うがっ」


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