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77 脱出

 このままだとやられる。やっぱり、一度下の階層に行って、やり過ごすしか無い。

 屈辱なんてどうでもいい、お前らは邪魔だ。消えてろ!

 ダンジョンにいる魔物からすれば、強者の強さは次元が違いすぎている。

 今までは強者なんていないと思っていたが……こんなにもおかしな設定になっているとか反則すぎるぞ。


「はぁはぁ。アイツは行動は遅いな。ゆっくり来ている……それとも余裕だからか? そのままのんびりしてくれよ」


 階段を進むと、この世界の仕様か、索敵の魔法が使えなくなる。

 今は下の階層に行ってから考えよう。

 アイツの攻撃が強いとは言え、さすがにあの結界ならそう簡単には壊せないだろう。

 それに注意は俺に向いているだろうから、そのうちこっちに来るだろう。


 しばらく待っていても、索敵からはアイツの反応は一切出てこない。


「まだ反応はない。降りてこないのか? 降りてきているのか?」


 こんな時にミーアが居たら回復ができるのに。このまま帰れたとして、絶対に怒られるよな……きっと。

 くそっ、あれから何分経った? あの二人は動けるだろうか? 

 一度様子を見てみるか?


「あの速度が、ずっとというのなら……逃げれなくもないのか?」


 階段を見上げてもアイツの姿は見えない。

 来ていないようだが、状況を確認するには戻るしか無いか……

 元いた階層へと戻り、アイツの姿がなくて少しだけホッとしていた。


「出待ちして無くて助かるよ」


 反応はさっきの場所から移動していない?

 全く行動が理解できない。もっと引き付ければアイツも降りてくるのか?

 倒すか逃げるか、逃げるに決まっているだろあんなの。


『ニンゲン? ハイジョ?』


 まさかな……。

 まずは、ルフさん達をせめて三階層まで……しかしどうする?

 あの人はザコ相手でもそこそこ相手にできる程度。

 それに、一人は負傷しているから、もう一人が背負う必要がある。

 一人が動けたとして……つまり、俺が囮確定だな。


 考えただけで気が滅入ってくる。

 まずは、距離からして今のままじっとしてくれればいいけど。

 最初みたいにフラフラと歩かれたら予測も立てられないか。

 考えているよりも行動だな。まずは結界まで行く、距離次第でルフさん達を起こすか。


「行くか……そのままじっとしてくれよ」


 アイツの反応は移動もなくじっとしている。幸い、遠回りで結界まで戻ることができた。

 魔晶石を解除して、中の様子を確認すると、ぐっすりと眠っていた。

 最初は心配していたみたいだけど……疲れていたらそりゃ寝ているよな。


「ルフさん。ルフさん。起きてください」


「アレスか?」


「今からここを出ます。すぐに準備してください」


「どうしたお前、その怪我!」


「大きな声を出さないで、あまり時間はありません。急いでください」


 まだ残っていたポーションを飲み。少しだけ痛みが収まる。

 もうしばらくしていれば、ある程度は動けるようになるだろう。

 棘の攻撃を受けた肩の痛みは、相変わらず少し動かすだけでかなりの痛みがある。

 アイツはフラフラと行動しているものの……確実にこっちに向かってきている。


「くそ、やっぱり動き出したか。急いでください、アイツが動き出しました」


「アイツ? お前にその傷を負わせた魔物のことなのか?」


「そうです。今の俺では勝ち目はないでしょう。だから逃げます。絶対に戦おうなんて考えないでください。この状態の俺でも、貴方の数十倍は強いですよ」


「わかった、従おう。立てるか? ロロ、リッツを支えてやれ。いや、私も支えよう」


 そうでなくては困る。ルフさんは感づいてくれて助かる。

 しかし、どうしたものか。まだ魔力はあるから、ここを脱出する程度にはなんとかなりそうだ。

 アイツを相手にしなければという条件付きだが……。


「こっちから行きます。全く邪魔な奴らだ」


「すごい、あんなに傷だらけなのに」


「私も正直驚いている。あれ程とは……」


 階段へ向かうが、こちら側よりもアイツのほうが階段に近い。

 どうやら、ある程度なら認識しているようだな。階段で鉢合せるつもりなのか? そんな事になったら守りきれる訳がない。


「次から次へと全く、このまま行ってもダメだな」


 階段周辺は一本道だ。あの衝撃が来れば間違いなく防ぎきれない。

 反対方向から風魔法を食らわせれば戻るか?

 今は考えているよりも実行するしか無いか。


「皆さんはここで待っていてください。魔物は居ないので安心してください」


「わかった」


 ある程度近づき、魔法を打ち込むとさっきと同様に撃った場所へと向かっているようだ。

 よし、いいぞ。今なら間に合うかもしれない。急いでルフさんの所へと戻る。

 魔物たちの反応は近くにない、このまま逃してくれよな。


「皆さん急いで」


「はい」


「ああ」


 なんとか三階層へとたどり着いたが、立ち止まっている余裕はない。

 少し前に倒していたはずなのに、もうこんなにいるのか……どうなっている?

 とはいえ、風魔法はまだまだ撃てるから魔物は問題ない。

 二階層へと上がる頃、再度あの反応を感じた。


『ニンゲン? ハイジョ?』


 背筋が凍りつく、降りてこなかったのは戻ると知っていたからか?

 それとも、ルフさん達が結界の中に居たから?


 結界には索敵が効かない。

 しかし、アイツは最初から俺やルフさん達も想定していたわけか……だから、ニンゲンというわけか?


 そもそも何のために人間を?


「急いでください。アイツがこっちに向かってきています」


「なんだと?」


「ルフ様……もし私達が邪魔でしたら……捨ててください」


 何言ってる。

 ここまで来て、いまさら捨てられるか。

 そもそもそんなくだらない話をしている時間すら無駄だ。


「貴方は、うるさい。ルフさん、少々辛いですが我慢してください。効果はせいぜい一時間。その人を背負ってください」


 ルフさんにブレイブオーラをかける。これがあれば背負う程度なら問題はないだろう。

 やはり初めてなのだろうか? 自分の体を不思議そうに眺めていた。


「何だこれは」


「強化魔法です。いいですか、絶対に走らないでください。初めてなら感覚がずれるので確実に転びます」


「分かった。行こう」


 俺が魔物たちを殲滅し、一階層までたどり着いた。

 アイツは二階層で巻けたのか、なんとか逃げ切りダンジョンを出ることが出来た。

 流石に魔力が少ないのか、ダメージを受けすぎていたからか、立っているだけでも辛い。

 外はまだ雪が降っていた。


「はぁはぁ。エアシールド。すみません寒さまでは凌げなくて」


「それよりも、お前そんなに魔法を使っていて大丈夫なのか?」


「下らないことで議論するつもりはありません。この近くに町はありますか?」


「ああ、私の屋敷がある。そこへ戻ろう、ここからだとそう遠くはない」


「分かりました。ファイアボール。明かりはこれでいいですか?」


 アイツを倒すにはどうすればいい?

 ドゥームブレイドと剣は効果があった。物理攻撃か……そんなヤツいるのかよ。魔法が効かないと辛いな……。

 あれから暫く経つがアイツの反応もない。流石にダンジョンの外に出ることはないみたいだな。


 あんなのが出てきたら街なんて一溜まりもないぞ。

 アイツがいたということで……あいつと同等かそれ以上の強者。もしかするともっといるのかもしれない。


「大丈夫か?」


 フラフラと後ろをついていく俺に、ルフさんが声をかけている。

 他人を心配している場合なのかよ……。


「これで、そう見えるのなら、医者に目を見て貰えばいいと思いますよ」


「減らず口を、だがもう少しだ」


 それからどれぐらいの時間が経ったのだろうか、意識が朦朧としている。

 ルフさんが何かを叫んでいる。なんだろう……聞き取れない。


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