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74 再びバセルトンへ

 十二月になり、俺達の関係はまだ続いてた。

 進展と言えば、ハルトとレフリアははれて恋人ではなく、婚約者として仲良くやっているようだ。


 元ロンダリア伯爵の屋敷は解体され、伯爵席はいまだ空席になっていた。

 そして、ルーヴィア子爵の一人娘であるレフリアが、今後引き継ぐことになっている。

 ガドール公爵は最初から二人の好意を認めていて、ハルトを婿養子にと考えていたため、家督から外したらしい。


 二人の婚約が正式に決まったことで、学園を卒業後に襲爵を行い、それから婚姻するらしい。

 何で俺がそんな事をわざわざ聞かされる必要があるんだ……。

 新年を前に、学園では王国主催の年末パーティーが開催される。

 会場は学園ではなく王宮で行われ、多くの貴族たちが集結していた。

 

「それでは皆様、今日はどうぞお寛ぎください」


 こんな所、正直乗り気ではなかったのだが、三人にせがまれると結局折れてしまう。

 俺なんかがこんな所にいると、周りにいる貴族達からチラチラとした視線を集めている。

 俺の周囲では数多くの噂が飛び交っているのだから無理もない。


 それに、目の前には、父上はもちろんのこと、バセルトン公爵、ミーアの父親であるシルラーン伯爵が俺を囲んでいるのだから。

 そんな俺の後ろには、綺羅びやかなドレスを纏った美女が三人付き添っている。うち二人が婚約者として既に発表もされている。

 ミーアやメアリを狙う他の生徒や貴族連中からしたら、面白くもない話になるのだろう。


「アレスは、頑張っているようで嬉しいよ」


「頑張っているつもりはないですよ」


 俺はあの日以降、レフリアの指示に従うだけで俺から何かをしたということはない。そんな気すら起こらなくなっているからだ。


「お久しぶりにございます。ローバン公爵様」


「そういう堅苦しい挨拶はいいよ、ミーア。気軽にお義父さんでいいから。アレスのことはよろしく頼んだよ。勿論、そちらの二人もね」


「は、はい。よろしくお願いしますお義父様」


「こちらこそ。よろしくお願いいたしますわ、ローバン卿」


 好きにしてくれよ……婚約破棄は当然無理だと悟り、俺は半ば自棄になっていた。

 俺の行動に、不可解な表情を浮かべることがあるが、それでも三人は変わらず俺から離れようとはしない。

 突然、首を絞められ、ぎりぎりと締め上げている。

 相変わらずお元気そうで何よりです。


「ミーアも、元気そうで何よりだ。話には聞いていたが、小僧。いいご身分だな、えー? おぉぃ」


 しかもなんて酷い声を出しているんだよ。しかも手加減すらしていないよな。本気で殺すつもりなんじゃないだろうか?

 そういうのなら、そっちから婚約破棄してくれよ……。


「二人がパメラとメアルーンだね。私はミーアの父クーバルという今後とも宜しく。勿論、私のことも父親だと思っていてくれて構わないよ。お前は分かっているよな? 手を出す順番を間違えるなよ、いいな?」


 本当に何なんだよ。

 ガドール公爵が宥めてくれたので、俺は開放されたのだが、実は俺のこと嫌いなんじゃないの?

 というか、順番ってなんだよ……ミーアと目が合い、恥ずかしそうに頬を染めている。

 そのまま二人へと視線をずらすが、パメラは何かを企むかのようにニッと笑い、メアリは静かに頷くだけ。


「パメラ・ストラーデです。えっと、お義父様?」


「メアルーン・バセルトンでございます。シルラーン伯爵」


「うん、よろしくね。おいアーク、うちに娘ができたぞ」


「何言っているの? この子達は私の娘だよ? そのうちアレスと結婚するのだからね。君には関係がないじゃないか」


「ふざけるなよ。ここはミーアと対等なんだ、だったら俺の娘だとしても問題はないだろ」


 親ばか二人が……パメラはちょうど二人の間に挟まれオロオロとしている。

 これは、見ていてちょっと面白い。

 それにしても、結婚ね……そんな事は、ありえないだろ。


 改変によりゲーム中のシナリオは全て度外視されている。アレスには、婚約者はミーアだけだった。それが当たり前なんだ。

 それなのに、ミーアだけではなく、新しく婚約者さえ増えてしまう。

 パメラも父親連中に気に入られており、父上のように認めてすらいる。

 父上は多分そのことでも動いているのかもしれない。


「アークよ。寛いでいる時間はあまりない。本題に入るとしよう」


「おっとそれもそうだね。アレス、一つ頼みがあるのだが、少し場所を変えようか」


 クーバルさんに、彼女らを託して俺達は会場の外へ出た。

 十二月も数日で終わる。分厚く覆われた雲からは頻りに雪が舞い落ちている。


 父上が俺に頼み……ガドール公爵も話を知っているようだけど。

 何をさせるつもりなんだ?


「それで、話ってなんですか?」


「とある冒険者を救出に向かって欲しい」


「冒険者をですか? それは俺が行って大丈夫なのですか?」


 俺のような厄介者が、また関与してしまうと大事になる可能性がある。

 助けるのは冒険者と言った。学生の分際で冒険者を助けるのは、相手に対して苦渋ではないだろうか?

 二人が俺の強さを知っているとは言え、この判断にはかなりの疑問が生まれてくる。


「メルティオラダンジョン聞いたことはあるかい?」


「無いです」


 初めて聞く場所だな。ゲームにもなかった……ゲームに登場していないダンジョンなんて山ほどあるか。

 スウォークランの他に三つ。ローバンにも、ゲームでの情報は当てにならない。


「バセルトン領内だ。俺の屋敷よりも、もっと北の方のな」


「なるほど……断る、こともできないので行きますが……無論、俺一人だけで行くということですよね? 時間も限られているとは思うので、皆を巻き込むつもりはないですよ?」


 父上もガドール公爵も、俺の睨みに少しうろたえていた。

 知らないダンジョンに加え、他のメンバーが居ると足手まといにもなる。


 目的が救助だというのなら、俺一人でないと無理な話だ。

 父上は肩を落として息を吐いた。

 俺があの時籠もっていたダンジョンには、冒険者達が投入されていた。

 上位アンデッド。俺はレイスに手こずりはしたが、邪魔と言うだけで苦戦ではない。

 しかし、冒険者達が到達できたのは、二階層へ続く階段までだったらしい。


「それが、妥当だね。この地図を持っていくといい。この場所がメルティオラ。そこで、三人の冒険者を見つけて欲しい」


「三人か……」


 生きていれば良いんだけど。

 これだと確かに遠い……しかし、何故ガドール公爵は俺に頼むのだろうか?

 ここを離れられないから? それよりも違う理由がありそうだな。


「何故、俺なんですか? ガドール公爵でしたら、ご自分で行かれるのでは?」


「今から俺が向かっても遅すぎるんだよ。頼む、この通りだ」


「遅すぎるですか……」


 今から行けば、移動だけで数日はかかる。

 ガドール公爵も予想をしていなかった事態なんだろう。

 一人ということなら、別に断る理由もないか……俺にはもっと力を付ける必要があるのだから。


「ああ。明日にでも向かってくれると……」


「いいえ、今から向かいます。あと名前とか特徴とか分かりますか?」


「リーダーの名前はルフ。会えばすぐに分かるよ」


「よく分からないけど、わかりました。支度するので、また後で」


 雪が降る中、俺は自室へと戻り着飾った服をベッドに投げ捨ていつもの学生服を着る。ポーションの在庫や必要になりそうなものを確認をする。

 荷物持ちでもあるので、三人分であれば十分に揃っている。


 帰りには、食料を買いその他にも必要になりそうな物を買い込んでから、王宮へと戻った。

 父上の所には、全員が集まっていた。


「アレス様? 学生服を着てどうされたのですか?」


「ちょっと父上に頼まれて、ダンジョンに行ってくる。詳細は父上から聞いてくれ。絶対に戻ってくるから気にするな」


「はい、どうかお気をつけて」


「頑張ってね」


「ご武運をお祈りしております」


 簡単に挨拶を済ませ、エアシールドを展開してから、そのまま上空へと一気に飛び上がる。


「相変わらず、あの子の魔法はすごいね……頼んだよ、アレス」


「アーク。今はアイツを信じるしか無いだろう」


「お義父様、アレス様に一体何を?」


 地図を確認しながら大体の方角を決め、魔力を集中させていく。

 大規模な寒波の影響か、バセルトンへと進んでいくと積もっている雪の量もかなり多くなっている。

 全力で加速してたが、エアシールドのおかげで、風も雪も感じない。


「それでも、これだけ雪が降っていると、見ているだけで寒いな」


 シールドがなければ、こんな薄着だと凍傷になっていたかもしれないな。

 カイロなんていいものがあればいいんだけど。


 バセルトン領に入ると、まずは目印となる公爵家を探す。この辺りまで来ると一面雪に埋もれ、屋根にかなりの雪が積もっていた。

 山を一つ超え、大体の所までやってくると高度を下げて周辺を探した。

 積もっている雪を吹き飛ばし、爆炎を使って一時的に光を作る。

 何度もそうしてようやく目的地らしいダンジョンを発見した。


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