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73 思い出の遺品

 俺たちにかかる費用は全て、バセルトン公爵が出してくれると言う。

 そのため、俺たちは一度公爵家へと向かうことになっている。

 移動するというのだから、てっきり俺が運ぶのかと思っていた。


「もしそれでアンタが倒れたらどうするのよ?」


「多分そんなことにはならないぞ? だいたい重量が違いすぎるしな」


「とりあえずその話は無しだからね。くれぐれも私達以外の前で飛んだりしたらダメだから。分かったわね?」


「うぇーい」


 俺の返事が気に入らないからと言って、すぐ暴力で訴えようとするのはどうなんだ?

 ハルト。その毎度のことだが、やってから宥めるんじゃなくて、殴らせるのを止める努力をしろ。

 さっきのこともあって、あの三人は……揃いも揃って『当然です』みたいな顔をしていた。


「それにしても馬車か……」


「アレス様。馬車は嫌いなのですか?」


「恐らくそうではないのかと、アレス様は空を飛べますので、時間を掛けてのんびりというのが性に合わないのではないでしょうか?」


「言われてみれば……ミーカトから歩いて帰るときもすごく嫌そうな顔をしていたね」


 あの時は助かりもしたが、歩くことを考えれば誰だってそうなる。

 俺が気にしているのは、朝のミーアのこともあって……馬車での移動だったため、俺は乗るのに少し躊躇していた。

 あの夢が正夢になるのではと……今はメアリも隣りにいる。

 あんな事になればどうなることやら。


「アンタって面倒な体をしているわね」


 馬車と言っても、貴族たちが使うようなものではなく、ただの荷馬車だった。

 俺としては良かったと胸をなでおろすが、そんな考えは一時間も続かなかった。


「思っていた以上にここの道が揺れるんだよ」


 浮遊魔法を使って横になっていた。


「そもそも気分が悪いのに、よくそんな馬鹿げたことを維持できるわね」


「アレス様。横になられるのでしたらどうぞ私の太ももをお使いください」


 ミーアの思いがけない言葉に、その叩かれた太ももを見てしまう。

 しかし、喉を鳴らしてしまう俺を見て他の二人も当然黙ってはいない。

 膝枕での小さな闘いがあったが、リーダーの一喝によって鎮圧される。

 普段からこうだといいんだが……期待してしまった俺も悪いのだろう。


「ここが僕の実家だよ」


 バセルトン公爵家。ローバンと同じように壁で囲まれているものの、庭というものは無く何処も彼処も訓練場のように見えるのは気のせいだよな?

 俺の実家もなかったわけじゃないが……どう見ても多すぎる。


「まあ、公爵が留守とか、なら大歓迎なんだがな……」


「いるんだな、これが!」


 あまり会いたくなかった公爵が、バトルアクスを振り上げ俺を見下ろしていた。

 別にそれは良いんだけど、わざわざそこに居る必要があったのか?

 そのままテラスから飛び降り、俺達を出迎えてくれた。だから、それも必要なのか?


「アレス・ローバン殿。この度は他領にも関わらず、ご尽力頂き誠に有り難く思う」


「お礼なら別に、気にする程の事では……」


「何を仰る。ささ、どうぞこちらに」


 まるで俺達が、ここに来ることを想定していたのかと思う程、長いテーブルを埋め尽くすほどの料理が既に並べられていた。

 ハルトに視線を送ると、頬を掻き俺への反応に困っている。

 大方、あのおっさんに無理矢理にでも連れて来いとでも言われていたんだろう。

 この料理の山どうするんだよ……どう考えても食べ切れないだろうが……この世界にタッパーがないのが悔やまれる。


「アレスさん。頂きましょうよ」


「分かったよ」


 少し頂くつもりが、デブの悲しい性なのか一口食べると食べきれなくなるまで食べてしまい。

 皆よりも先に腹が一杯になった、俺は別室にあるソファーの上で横になっていた。


「口に合ったようで何よりだ」


「公爵」


「構わん、そのままでいろ」


 こういう豪快な所は嫌いではない。

 いくらそう言われたとはいえ、公爵を前に横になっているわけにもいかない。

 体を起こし、水を飲み干した。


「とても美味かったですよ。ありがとうございました」


 頭を下げようとしたが、下げる頭を掴まれ押し戻される。


「礼には及ばん。それに感謝するのはこちらだ」


「でしたら、これで相子で良いんじゃないですか。これ以上何かをして頂くのも気が引けます。区切りは必要ですよ」


 がははと笑う公爵を見て、少しだけ気になる物が目に入ってくる。

 前回とは違い、随分と緩い私服だからか、公爵のごつい体に似つかわしくない物が首にぶら下がっている。それが何故か少し気になった。


「公爵。失礼ですが、そのネックレスは?」


「これか? まあ、形見のようなものだ」


「見せて頂いても?」


「お前になら見せてもいいだろう」


 その巨体に似つかわしくない小さめのネックレス。やっぱり、何故か見覚えがある。裏に刻印?

 フェリーサと掘られており、きっと奥方の名前なのだろう。

 以前ハルトから聞いたことがあった。何年か前に亡くなったとだけ。だとするのなら、形見なのだろうけど……何かが引っかかる。


「その名前は俺の妻の名前だ」


「気の所為だとは思うのですが、何処かで見たような気がして」


「まさか……それはありえん」


 公爵は驚いた表情を見せ、悲しそうに俯いていた。

 こういう物は、基本的に何かしらの耐性用とかでしか欲しいとは思わない。だけど、装飾品を身に着けていた所で、ゲームと同じような効果が得られることは考えられない。


 なら何で見覚えがあるのか? だけど、もう少し汚い……はず。

 そうか、これは……。

 収納から取り出したネックレスを取り出す。

 やっぱりそうだ。スォークランを攻略した時に手に入れた物だ。


「それを何処で手に入れた?」


「スォークランのダンジョンを攻略した時の遺物です。一応は保管していたのですが……これが何か?」


「それをよこせ」


 公爵は俺の手から奪い取り、その大きな手でその小さなネックレスの汚れを丁寧に懸命に取っていた。

 少しだけ輝きを取り戻したその小さなネックレスの表を重ねていた。

 ピッタリときれいに収まり、まるで一つのネックレスのように見えた。

 涙を流し、ギュッと握りしめている。


「こ、公爵?」


「いや、すまない。これを譲ってはくれまいか?」


「お好きに、どうぞ」


 公爵は執事を呼びつけ、何やら話し込み執事さえも涙を流している。

 なんだか、既視感のある反応だな……。

 俺がこの世界に来た時の頃を思い出していた。俺が何をやっても、涙を流し喜んでくれた。

 体は弱かったため、コケただけですら大騒ぎになるほどに。


「アレス殿には感謝してもしきれん」


「あのネックレスは、公爵の物だったんですね」


「そうではない。俺の妻が身に付けていた物だ」


 それがどうしてスォークランのダンジョンで?


「身に付けていた?」


「今から六年前。スォークランでの遠征で消息を絶った。俺も行く予定だったが、他のダンジョンで行方知れずの冒険者が出た為別れることになった」


「そうだったのですか……」


 おかしい、あれはダンジョンの攻略時、本来であればコアを破壊時にたまに貰えるアイテムであり、だから俺はこういう出現の仕方だと思っていた。

 こっちでは、遺物ではなくもしかすると亡くなった人の遺品なのか? だとしたら、メアリが持っているアレも?

 あの時たまたま拾ったものが、公爵の妻フェリーサさんの物だった?

 これは何かのフラグだとしたら、シナリオは俺に何をさせるつもりなのだろう。


「本当に感謝する」


 翌日になると公爵から一つの勲章を頂いた。

 バセルトンの英雄に送られる物らしいのだが、丁重にお断りさせて欲しい。なんて言えるわけもなく、拒否を出来る状況でもない。

 屋敷にいる人達からは歓迎され、隣りにいる公爵の娘は何処か誇らしげな表情をしていた。


 ドレスを身に纏い、今は、左手にはあの指輪が嵌められていた……。


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