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70 婚約者という名の絶望

 俺は天井を見上げ、大きく息を漏らす。

 婚約破棄。俺はそうなることを望んだが、改変により新たな婚約者が俺に充てがわれることになった。

 パメラではどうやら役者不足だったのだろう。

 俺の知らない所でそんな事を決められ、望んでいないことだけが勝手に進む。


「序列としては、メアリさんが第三位です」


 ならどの選択が正しいのか?

 今……思えば簡単な話だ。


 助けなければいい。


 そうなれば、メアリは今頃ここに存在すらしていないだろう。

 俺が自分のためにそこまで考えられればそんな事をしていたか?

 きっとそうは出来ないだろうな。


「パメラさん。メアリ様は婚約者ですので、序列としては第二となります」


「いえいえ、パメラ様の方が以前からお付き合いされているのですから、私が第二位と言うのは申し訳なく思います」


 パメラと付き合っているわけじゃなくて、パメラが俺につきまとっているだけなんだが。

 それに序列って何の話だ?

 メアリにとって、今回のことは本当にいいのだろうか? 養子に出され、俺のような奴の婚約者にされるなんて……ハルトの婚約者にしていた方が、良いと思うのは俺だけなのか?


「私は婚約者としても、付き合いの長さからしても序列一位には変わりません。そうですよね、アレス様?」


「ちょっとまて、俺はまだよく分からないのだが。メアリが俺の婚約者? バセルトン公爵の娘として? つまりハルトと兄妹ってことか?」


「はい。そうなります」


「ミーアも継続して? 婚約者二人ってこと?」


「ううっ、私がその中に入っていないのが辛い」


 つまり、俺が守るべき対象が更に増えたってことでいいのか?

 何でそんな改変になるんだよ……パメラだけでもおかしいのに、メアリってゲームとは無関係じゃないのか?

 何処まで追い詰めるつもりなんだ?

 それとも、俺に対していい加減諦めろと言われているようだな。


「婚約者・・・か。そうか。よろしくな、メアリ」


「はい、アレス様」


 二人の拍手が鳴り止むと、俺は寝るために部屋から出ていこうとしたが、二人に腕を取られ座るように促された。

 はっきり言って逃げたかった。

 新たな婚約者の存在を、認めたくはなかった。


「流石に俺も眠たくてだな……」


 それほど眠たいわけでもなかったが、疲れているふりをすることにした。


「アレス様、もう一つお聞きしたい事があります」


「手短に頼むな。ふぁっ」


「そんなにお手間は取らせません」


「それで? 聞きたいことってなんだよ」


「メアリ様の、指輪についてです」


 ああ、ダンジョンで拾った……あれの話か。

 そういやまだ持っているんだな。俺はここで重要な事に気がついた。


 メアリの左手薬指にある指輪。


 俺には必要がないからと言って、何でか知らないが俺があげたってことになったあの指輪。

 よりにもよってこの二人を前にして、左手の薬指に嵌められているんだ。

 先程から頻りにミーアが序列を気にしていた理由がこれだったのか。


「どうかなされましたか?」


「アレスさん。手短に、なんですよね?」


 メアリからいっそ返して貰う?

 仮にそれが上手くいったとしても、婚約者の話には当然父上達が絡んでいるわけで、これの存在を知っているはず。


 それを取り上げようものなら、拷問及び斬首が確定する。

 となると、二人に別の物を買えば良いのだろうか? それで納得してくれるのなら別にいいんだけど。今はそういう話でも無さそうだな。


「アレス様。なぜ、メアリ様に指輪を差し上げたのですか?」


「待て待て、それは誤解だ。それは俺が上げた物ではなくて、メアリが拾った物だ」


 あの時は、メアリがあの指輪を拾ってきたもので、だから売ればそれなりの金額になると思ったし、それでいいと思ったやつだよな?

 それにあれはメアリに対して、ダンジョン攻略後に出たアイテムだろ? だったら元々俺のじゃない


「あの、この指輪はアレス様の足元にあったもので、私の前には何もありませんでしたわ」


「いやいや、嘘を言わないでくれよ」


 もしそうだったとしてもだ、これは俺があげた物じゃないと言ってくれよ。頼むから!

 こんな事を口に出せれば良いのだが、二人の視線は相変わらず痛い。


「そんな……これはアレス様から頂いた物……ですわ」


 メアリは今にも泣きそうな声で、右手で指輪を握りしめ、まるで祈りを捧げるかのように額に当て涙を流していた。今の言葉はそんなに何か悪いことだったのか? 

 この展開……女性三人に対して、俺一人では到底太刀打ちができない。


「メアリさん。泣かないで、アレスさんはきっと照れているだけですよ。肝心な事は何も言ってくれないけど、アレスさんは優しいから」


「はい」


 パメラはメアリに心配そうに寄り添っているが、俺を見ると目を細め何かを訴えていた。

 つまり、この俺に何かを言えと言うことか? これだと、まるで茶番に付き合わされている気分だな。

 俺のことを本気で慕っているというのか?


 俺が何をしてこんな事になったと言うんだ?

 ミーアやパメラだって、たまたま助けただけだ。たったそれだけのことが、これだけ大事になるはずもない。


「アレス様?」


「ミ、ミーア。すこしは俺の話をだな」


「メアリ様にとって、あの指輪が何故大事なのかお分かりですよね?」


「い、いや、あのだな……」


「それに私の物も、とても大切な思い出の宝物です。お慕いしているお相手から、たとえ同じ物が他にあったにせよ、これだけは変えられない宝なのですよ?」


 ミーアのそれと同じ様に、メアリにとってあれは同様の価値があると? ミーアと違い、たった数日居ただけだと言うのにか?

 何でこんな事になった? ちょっと助けたってだけの話だろ?

 あの時コテージで一緒のベッドに寝たから?


「アレス様?」


「わからねえよ……何でこんな事に……」


「私達は皆、アレス様をお慕いしております。私達の行動や言動。そして、嫉妬もアレス様と共に居たいからなのです」


 そんな事は言われなくても分かる。

 でも俺には、そうなる資格がないんだ……怖いんだよ。

 ミーアじゃなくても、パメラでもメアリでも、他の誰かでも俺が殺してしまうことに……離れようとしても離れることもなく、そして新たな道連れが用意される。


「ですので、もう少しだけで構いません、もっと寛容に成られてください。私達は常にアレス様のお側に居ます。離れることなど……どうかお捨てください」


 そうなのか、これが俺にとっての普通になるというわけか。

 もしかすると、これからもシナリオはどんどん俺への対策を強めるために、俺を羽交い締めにするのだろう。


 そして、いつの日かあの光景を目にするまで……。


「ああ、やっぱりそうなるんだな」


 俺はその言葉と同時に、まるで糸が切れたかのように意識を失った。



   * * *



 何であの二人があれだけ、執拗に俺のことに執着をしていたのか。

 目が覚めると一人ベッドの上でぼーっと窓の外を見ていた。

 ここに来て心が折れそうになっていた。


 足掻くことで、俺には守るべき者が増えていく。

 メアリはただ助けたいと思っただけで、好意なんて元から気にもしていない。それなのに今は好意をぶつけられ、婚約者として俺の近くにいる。


 俺はこれから先どうすれば?

 こんな負の連鎖に似たシナリオは過酷でしか無い。

 俺が助けた。それだけで済まされず、婚約者として俺の隣に居る。

 それがどれだけ危険なことか……三人は何も知らないから。


 俺だけが知っている、最悪の結末はやはり変えられそうにもない。


 ダンジョンに居る時が一番良かった。何も考えずただレベルを上げ、最後の目的のためにという言い訳が成り立ったから。

 今更一人で行動したとしても、誰もがそれを許さない。


 それに、ミーアはあの時俺を追うといった。

 例えどんな場所だろうとも、命をかけてまで……何をやっても彼女達はきっと折れない、それはなぜか?

 他に婚約者が出来ようとも、俺を好きだという人間が近くにいようとも、必ず彼女は隣りにいる。それはなぜか?


「俺が攻略対象だから……か」


 このゲームの主人公はアレスではない。パメラ、レフリア、ミーアが主人公の世界だ。最後にもう一人いるらしいが、その話は多分、今は関係ないだろう。

 俺がここにいることでシナリオは歪み、全く別のキャラですら俺を攻略しようとしているのだ。


 これ以上行動することで、事態の改善は無くただ悪化していく。

 俺は何もかも諦めて、誰かを犠牲にして、最後の時を待てば良いのだろうか?

 シナリオはそれを望んでいるということか?


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