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67 ダンジョンを攻略した先にある後悔

 それからというもの、その階層にいる全ての魔物を排除するかのように、魔物を倒して行った。

 数は多いが、索敵を阻害される程多くはない。前のダンジョンに比べるとここの魔物は絶対数が少ないのだろうか?


「あれから何日経ったんだろうな? 今は多分八階層ぐらいだったと思うけど……スォークランみたいなことはないよな?」


 ここまで来たというのに、また戻るのも考えたくはない。

 とはいえ、レイスがいたせいなのか、ここでの戦闘も悪くない。

 上級のアンデッドはどれ程のものかと思っていたけど、俺にとってはただの経験値に過ぎない。


「そして……俺は父上から直々に行けと言われた。だから何日経とうとも、俺が怒られるということはありえない」


 俺にとって家族から怒られる心配がないということは、まさに思うがままということだ。

 二人のことだから、きっと俺がこんな所で死ぬなんて思ってもいないはず。

 魔力の制御ができなくなった時は焦りもしたが、今はそんなことも無くあそこまで追い込まなければ色々と実験もできる。


「さぁて……何から始めていこうか?」


 俺の最終目的は決まっている。

 ラスボスを倒すにも、ミーアたちの強さを考えれば、一緒に戦うことはかなり厳しい。

 ゲームだから出来たこと、現実だから出来ないこと。


 だから、できることをもっと知るためにもやれることはやっておくべきだ。

 楽しい楽しい狩りの始まりだ……。


 そんなバカみたいなテンションだったが……三日も過ぎれば、ある程度冷静にもなってきていた。


「つーか、何処まで続くんだ? もう十二階層だぞ?」


 ここに来て多分四日ほど経っている。時計なんか持っていないし、寝たい時に寝ているため、時間の感覚はいつもながらおかしくなる。

 太陽もなく、腹ごしらえはちょいちょいしている。


 時間の感覚は無くなっていき、ただひたすら魔物を倒す日々。

 気にするのは、収納に入っている残りの食料だけだ。

 そして、更に四日。多分寝た回数的に……本当に四回寝たんだっけという、記憶すらかなり曖昧になっていた。


 十四階層までやって来ていた。それでも、ここが何階層かなのはちゃんと分かる。

 ここまで奥へ来ると、魔物は当然のように強く、風球による連撃ですら中には耐える奴も現れてくる。

 しかし、これ以上斬撃回数を増やしても、一発打つのも二発打つのもあまり変わらないので、進行の妨げにはならない。


「それにしても、六連撃を耐えるのか……だとしたら、この辺りなら稼ぎ場として良いのだろうけど、あまり時間も掛けていられないからな。今更だけど父上達は上手くいったのだろうか?」


 ここに来るまでにかなりの時間が経っている。

 これは多分であり、もしもを考えることすら想像したくない。今はまだ八月で、九月になっていないことを祈るしか無いよな……。


 俺は父上からここに行けと言われたが……ミーアたちには九月には帰ると約束していることを思い出していた。

 あんなことさえ言わなければ、素敵なダンジョンライフを過ごせていたというのに、何でこんな事になっているんだ?


「うーん……やっぱり少し惜しいよな」


 十五階層へ来ると、何もないただの一本道になっていて魔物の反応がなく、レイスの再来を気にしつつ警戒をしながらゆっくりと奥へ進んでいく。


 そして、辿り着いた先には大きな扉が待ち構えていた。


 その扉に手を置く、これまでの体験して来たことが頭の中を駆け巡り、本当にこれで良いのか? と、誰かが話しかけてきた気がした。


 俊敏な動きと多彩な攻撃を繰り出す、ゾンビ系と骨系が合わさったかのようなアンデッドロード。

 バンパイアより下位種だけど、このダンジョンで唯一俺の風魔法に耐えられた、吸血種のノスフェラトゥ。

 数多くの闇魔法や、アンデッドの召喚魔法を使う。ゲームでは経験値稼ぎにもなった、リッチ。


 俺がダンジョンを攻略すると、父上の所へと戻ることになる。今、このダンジョンを本当に無くしてしまっても良いのだろうか?

 目の前にはボスが待ち構えている扉。

 そして、ダンジョンのコアがその奥にある


 俺は一歩後ろへ下がる。また一歩と、扉は少しずつ離れていく。


「ボスさん。さようなら」


 俺はそう言い残して十四階層に戻って来た。

 後一日だけ、あるいは、明日にはやるからと、何日かが経ち……俺は魔法の改良を重ねていく。


 理由は、もし勝てなかったら困る。かなり困る。だから、今のうちにレベルを上げておかないと。暴走の危険すらあるのだから、とまあそんな言い訳をして更に数日が経っていた。

 暴走の危険もあるので四階層から初め、何回目かの後一日を過ごし、収納空間に置いてあった、食料の底が見え始めた頃。


「ボスさんこんにちは……始めましてー」


 ようやくその扉を開け、このダンジョンのボスとご対面を果たした。

 あー、あれか。ゲームで見たことあるわ。

 実物だと馬鹿みたいにでかい鎌だな。左手には、水晶玉を浮遊させていて、攻撃も魔法もそれなりに痛いダークリッチだった。


 リッチだけあるのか、薙ぎ払いの物理攻撃自体はそれほど強くはないが、追加効果のステータスダウンがかなり厄介になる。

 魔法防御を削った後に単体魔法はかなり辛い。恐らくこいつの攻撃もきっとそれをしかけてくるはず。


「だから、先手必勝! バーストロンド三連発!」


 二つのダンジョンのボスを一瞬にして沈めたこの魔法。

 だが、相手はあのダークリッチ、この程度ならどうせ耐えるだろう。

 爆炎が収まり、奴の姿が見えてくると申し訳ない気持ちになってしまった。


「フシュルル」


「えっと、怒ってますよね。ほんと、なんかごめんなさい……」


 バーストロンドで両腕、そして体が吹き飛び、頭だけになっている。

 カツカツと歯を鳴らし、音を立ていた。

 恐らくご立腹なのだろうが……倒さないと先に進めないからな。


 俺は魔力を両手に集中させる。

 普段使うことのない雷魔法。魔法が形成されていくにつれて、バチバチと雷撃が辺りに漏れていく、初めて使う魔法その威力を確認するために、時間をかけていた。

 頭だけになったことで、ダークリッチは突進だけしかしてこないため。かわしながら、上位魔法を作り出していく。


 黄色の放電は、青へと変化し周囲の床に音を立てて落ちていく。


「サンダーストーム・レイジング!」


 夥しい雷撃がダークリッチを中心に、そして広範囲に打ち流れていた。


「ギィシャャャヤヤ」


 ダークリッチの断末魔が微かに聞こえてきたのだが……。

 自分でやっておいてなんだが、こんな物はボス以外で何時使うんだ?

 塵となっていたにもかかわらず、鳴り止まない雷撃が収まるのを呆然と眺め終わるのを待っていた。


「コイツは使用禁止だな。奥の扉に入れん」


 かれこれ三分は経っているとは思う。

 解除するように促しているのだが、一向に収まる気配がない。

 持続魔法ではなく、設置型の魔法のため解除というものが存在しない。


 仕方がないので、魔晶石を取り出し、結界を張り残り少ない食事を済ませて、しばらく寝ることにした。

 二時間は経ったのだろうか、目が覚めるとあの雷撃は無くなっていて奥にある扉に入ることが出来た。


「この辺りのダンジョンは散々だったな」


 最後は自分の仕業なのだけど、あんな強敵が出ているのだから仕方がない。

 コアが砕かれ、光が収まると久しぶりに夜空を見上げていた。

 足元には、指輪が転がっており……それを掴み取った。

 またしても指輪なのだが、ここがアンデッドだからか、宝石の代わりにドクロが付いた趣味の良い物ではなかった。


「これは父上に献上だな」


 転がっていた指輪をポケットにしまい、ダンジョンが消滅するのは、国にとっても、民にとっても喜ばしいものだ。

 だけど俺は、初めてダンジョンが無くなったことに少しだけ寂しさを感じていた。


 こうして俺のダンジョン生活が終わった。本来であれば、これから違う所にも行くつもりだったが、これ以上余計なことをしていると今度は何をされるか分からない。


「失礼ですが、アレス・ローバン殿でよろしいでしょうか?」


 俺はその声に対して、氷の大剣を作り出していた。


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