66 上位アンデッド
父上から頼まれた最後のダンジョン。
メアリは運良くレフリアに任せる事が出来て、よかったと思う。中へ入ると、俺は真っ先にバーストロンドを打ち込んだ。
右へ左へ、ここにいる全ての魔物を排除するかのように、手当たりしだいに魔法を打ち込む。
最悪だ。
このダンジョンはアンデッド系が居るのか……そして、魔物の種類。
レイス、グール、スケルトンソルジャー。
それから考えられるとするなら、終盤に行くような所なのかもしれない。
ダンジョンで出現する魔物のことなら、まだかろうじて思い出せる。
ベーオヘウスとは違い一階層から出てくる敵がまるで違う。
どれもが上位であり、ここから奥に行くということは、更に強い魔物が出るということになる。
ダンジョンに行くのは嫌いじゃない、だけどいくら命令だったとしても、アンデッド相手に楽しさはあまり感じなかった。
むしろ、イライラしている。
グールは、近くにいると言うだけで臭い。
スケルトンは、どう見ても人骨でありカタカタと気持ちの悪い音を立てる。
だが、コイツラも魔力が当然あって、遠距離であれば腐臭も嫌な音さえも、感じることなく倒せる。
俺がイライラしているのは、レイスだ。
ある程度魔物を倒して、レベルが上がり、何度も改良をしたものの階段までは索敵で見つけることは出来ない。
少ない魔物に対して、バーストロンドのようなやかましいものは使いたくはない。
索敵は、魔力を感知して魔物か人かを判断し、地形探知との複合としたもの。それだというのに、レイスだけは判断することが出来ない。
「一体どういうことなんだろうな?」
展開している索敵を止めて、魔力だけを調べるために魔力探知へと変更するも。変わって様子はない。
つまり、まったくもって把握ができない。
「先手を取れないのは……この際仕方がないとしても、やっぱり効かないか」
俺が使っている魔法は、そもそもがエアスラッシュであり立派な風魔法だ。
ゲームであれば、霊体系は物理無効の能力がある。霊体には当然魔法が最も有効だけど、属性のついていない剣であれば無理だが、俺が使うような氷の大剣。こういう属性を持った武器であればダメージは通る。
はずだった。
「何だと? この剣でも通用しないとか……本当にどうなっている?」
俺が使う氷の大剣は、物理と判断されたのかレイスの体をすり抜け全く当たるということがない。
風球さえも、レイスをすり抜け繰り出される斬撃も当たることはない。
「うざい……ホーリーアロー!」
聖属性魔法。
あまり使える場所もないので、俺としては苦手な魔法だ。
パメラのように光属性が使えれば良いのだが……どうにも、それを使えることが出来なかった。
とはいえ、聖属性魔法と光属性魔法は似ている気がしなくもない。
「これで一撃なのは助かるが……突然出てくるというのはどうにも、うざったい」
聖属性で広範囲でダメージを与えるとか……全く想像もつかない。
俺が持つゲームなどの様々な知識では、単体の魔法ばかりでうまく創作もできない。しかし、レイス相手のためにそこまでする必要があるのか、かなり疑問に思うところだな。
ここは、直線が多そうだし、前方にビームを出すような? 正確には後方からの攻撃だよな。
今思い出したけど、ミーアがそんな魔法を覚えていたな。
火属性で……敵味方共に食らうやつが……炎吸収とか便利アイテムのおかげで攻撃しつつ回復できるけど、消費するMPが大きすぎるためにあまり活躍できるものではなかった。
「実用性がなさすぎるな。もし使えたとしても、一匹の豚が焼けて終わるぞ……」
そもそも魔法を吸収する。というよりも……ゲームだから、属性に関わるもの全てが吸収とかは現実的にありえない。
それをある意味可能にしているのがレイスなんだよな。
「鬱陶しい。放置されているから数が多い。どうせなら、リッチとか、バンパイアとかならこういうことはないのだろうけど……でも、バンパイアお姉さんはちょっと見てみたい」
リッチやバンパイアはもっと後半に出る魔物で、レイスに比べ数倍は強い。お姉さんは、それはもうお姉さんである。その姿が間近で見れるというのならありがたい話でもあるが……。
とはいえ……隣にミーアとパメラが居たら発狂物だろうけど。
痴女の話はともかくとして、ここの魔物がいくら強いとはいえ、スォークランのボスと比べると遥かに弱い。
一番は霊体でなければ、索敵によって、風魔法による斬撃も骨や不死体に、現状効いているのだからいつもの攻撃が出来る。
「だけど、見えないから闇雲に撃つだけ無駄なんだよな」
ダンジョン内は見える範囲が限られている。バーストロンドを使えば、レイスだって倒せると思うが、見えない敵の数に対してそれは有効なのかという話が残る。考えただけでも効率が悪そうだ。
今の所は目視でしか倒せない。背後ともなれば、いつの間にか居るのではっきり言って鬱陶しいの言葉に尽きる。
「そうだ! あの魔法はどうだろうか?」
火球を身にまとわせ、カウンターとしてその火球を当てる。
うまくいくかどうかは、実験していくしか無いな。
あの頃みたいで、楽しいとは思うけど……楽を知ってしまった以上今のやり方が結構面倒になっていたりもする。
使い慣れているというのもあるが、それだけ風球が優秀だった。連撃を増やせば、どの魔法よりも攻撃力は高いし、斬撃による攻撃は小規模の範囲にもなる。
ま……全く効かなければ意味はないとは、思いもよらなかったけどな。。
「シールド。セルフバーニング」
熱風による熱を防ぐためにシールドを張り、その外側にある火球はカウンター用の障壁に触れると相手に向かって攻撃をする。
さて、これを上手く発動する条件を構築しておけば、また別の魔法も応用できる可能性があるかもしれない。
しかし……攻撃を食らう前提というのが少し気に入らないな。
「さあ来い!」
レイスの攻撃はシールドによって弾かれる。霊体なのに、攻撃は物理なのかよ……カウンターによる障壁からは、レイスに向かって火球が放たれる。
「むりむり……これは酷いな」
用意していた火球は五つ。
俺の考えでは、一回に一発。だけど実際には、一回の攻撃に対して全ての火球が放たれる。
しかも、俺を攻撃しているという時点で、相手は超近距離に居る。カウンターによる火球はレイスを目掛けて飛んでいき、俺の周辺は火球の炎に飲み込まれる。
火球は飛ばすのではなく、飛んで行くのだから発動後の制御はできない。
効果は一度きり、数体同時に現れるならともかく、こんな魔法で待っているよりもこちらから攻撃した方が効果的だな。
なにより、この魔法は俺の周りに火球が舞っているのも邪魔だったし、一人だけならともかく、誰かがいると絶対に使用はできそうにもない。
「やっぱり、こいつらウザイ!」
レイスに対してあれこれ考えるよりも、階層によって魔物が変わる所まで進んでいたほうが、楽な気がしてきた。
霊体系はそれほど多くはないし、近くにいたとしてもさっきのようにシールドが弾くのなら、常時シールドで攻撃を防ぎ、魔法を撃つだけで良かった。
「三階層辺りか? まだまだレイスは居るのか……」
文句を言いつつ、魔物たちを一掃してから下へ降りていく。階層が変わってもレイスが居たことでげんなりする。
四階層にまで降りると出現する魔物の種類が変わり、同時にレイスは居なくなった。
ワイト、スケルトンナイト、ネクロマンサー。
ワイトはかなり気持ちの悪い魔物だったが、見なくても倒せるから問題はない。
ネクロマンサーは、ゾンビ系の魔物を召喚するが、索敵からして勝手にそれを実行している様子はない。
ここには霊体が居ないそれだけで、小躍りできるほど快適だった。
索敵による魔物の把握はバッチリ、風魔法による風球を使い一網打尽。
「はっははは。どうした? 耐えれるものなら、耐えてみろよ!!」
これだよ、やっと爽快だ。
レイスでの苛立ちを発散させつつ、下層を目指して進む。
攻略が目的のため、マップの隅々まで確認しておく必要があるのだが……まずは、殲滅を先にしておこうか?