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60 ダンジョンで出会った美女

 一つ目のダンジョンを攻略したが……あんなにも気に入らない展開を見せられるとは思わなかったぞ。

 何で俺が悪役のポジションなんだ?

 だけど……俺が気に入らないのはもう一つの原因だよな。

 俺は一瞬だけだが……画面越しに映る、血に塗れたミーアの姿を思い出していた。


 あれがお前の運命だと告げるようなものだ。


 だけど、俺はミーア達といることを決めていた。

 でも……二人には壁を作り、俺からは決して越えることのない壁だ。

 俺はまだ目標を見失ったわけではない。きっかけを待っているのだと思う。


「このタイミングで? 多分、無理だろうな」


 ルーヴィア子爵を見たときのような怒りはない。

 この思いはかなり漠然としていて、現実味がないものでもある。


 ゲームであってここはゲームではない。

 そうなるかもしれないという気持ちだけではなく、そうはならないのかもという期待もあった。あのダンジョンでは……その期待すら打ち砕かれるような気がしていた。


 憂鬱な気分になったが、今は目的を果たす必要がある。

 今立ち止まって悩んだ所で何も解決にはならない。


 二番目のダンジョンへと入っていく。


 俺は溜まった鬱憤を晴らすために、魔物たちを容赦なく殲滅していく。

 前回倒しているということもあってか、思っているよりかは少なかった。

 そんな事は気にもとめず……風魔法を各場所に放ち、索敵にある反応だけ消えるのを確認する。


 階段の場所は大体覚えている。

 以前来たから……次の階層へと向かう間は、魔物の姿を見ることもなく殲滅だけをしていた。


 だけど、三階層へと辿り着くが、索敵に違和感を感じる。

 ここには誰も居ないはずと思っていたが、ダンジョンの奥では一人誰かがいて、魔物の反応が消えている。

 しかし、随分と取り囲まれているらしく、かなり危険な状態だとは思うが反応へと歩き出す。


「この前来た時は、封鎖されていて誰も居なかった。なら、一体誰が居るんだ?」


 この辺りの有様からして、冒険者というのも考えづらい。だとしたら学生だろうか?

 夏季休暇にダンジョンへと入る学生は、きっと俺ぐらいなものだ。

 貴族である以上、交流が多く、夏と冬にこんな事をしているなんて有り得る話でもない。

 近くなってくると、魔物の声と武器同士がぶつかる音が聞こえてきた。


「とりあえず。魔物はいらないな」


 風球を飛ばし、魔物を塵へと変わる。そのまま足を止めることもなく、戦っていた人の所へと向かった。

 襲われていたのは女性か、服装からして冒険者のようだが……その服装の様子からして、この人はそれなりに裕福だろうか?


「今のは貴方が?」


「大丈夫のようだな……」


 何でこんな所に一人でいるんだ?


「まさか、貴方のような人に助けられるとは、思いもよりませんでしたわ」


「そうか……邪魔をしたのならすまない」


 ここの魔物はゴブリン系だから、一人で居るのはあまり良くはないはず。俺からすれば相手にもならないが、この程度で苦戦をしていたのなら集団行動を取るらしいのでそうなれば終わっていた所だろうな。


 はぐれたのか……それとも、やられたのか。

 どっちにしてもこのままという訳には……いかないよな。

 相手が助けを求めていなかったとしても、ここにいることをおすすめは出来ない。


「なんでまたこんな所で? それに一人だなんて危険すぎやしないか?」


「一人なのは、私だけではなく貴方も同じではなくて?」


 それを言われれば返答に困る。

 どう言えばいいだろうか……一人というのを納得させるには?


「その、アレだ。俺が一人なのはだな。父上に一人で行って来いって言われたんだよ」


 嘘は言ってないし、事実なのだからしょうがない。

 俺の言葉に女性は、目を大きく開け驚きを隠せないでいた。

 普通に考えてありえないだろうけど。


「そんな、お父様に逝ってこいと? だとすれば貴方も私と同じなのですわね」


 同じ? それはありえない話だとは思う。

 さっきの様子からしてどう考えても、攻略なんて出来ないだろうに……もしかしたら父上が?


「同じ? それなら、アンタもここのダンジョンの攻略を任されたのか?」


「ダンジョンを攻略? そのような大それた事……私にできるはずもないですわ」


「なら違うだろ? とにかく、俺の事は良いとして。外に出るのなら送るけどどうする? それとも、他に仲間が?」


 女性は首を横に振り、座り込むと膝を抱え震えていた。

 一人でどれだけここで頑張っていたのか知らないが、今はようやく助かったことに少しぐらい安堵でもする所だろ?


 一体何があったか知らないが、受け止めるのに時間もかかるだろう。

 それにしても、綺麗な髪をしている。服装もよく見ると少し汚れている程度でかなり真新しい。

 俺と目が合うと、見られていたことが気に入らないらしく、彼女は顔を背けていた。


「なあ。少しは食べられるか? 飲み物もあるぞ?」


「空間魔法?」


「知っているのなら話は早いな」


 コンロを取り出し、水を温める。小皿にクッキーを数枚置いて、彼女の隣に置いた。

 一口食べて、小さな声で「おいしい」とつぶやいていた。

 お菓子でも少しは食べられるだけまだ良いか。


 何だ? 匂いにつられたやってきたのか……相変わらず面倒だな。

 だいたいこんなものでいいのだろうか?


「ほいよ。こんなもので悪い」


「ありがとうございます。頂きますわ」


 最近では、ミーアから茶葉や道具を渡され収納しているが、淹れてくれるので困りはしてなかったが、見様見真似ではあるが、これで大丈夫なのかと心配になる。

 一口飲んでみるが、案の定というべきだろう。それほど美味いものと言えるものではなかった。恐る恐るそんな出来損ないを差し出したが、彼女は文句を言うこともなく飲んでいる。


 言葉使いや、所作に至るまで、恐らく貴族から冒険者になった人なんだろう。

 仮に今年学園を卒業している人だと考えても、この程度の魔物に苦戦をするのか?

 なら、平民の出だとしても、武器に盾、そして胸当てとそれだけ装備が買えるのなら、こんな弱い相手に対してそこまでの事ができるだろうか?


「あの。有難うございました。この御恩はいずれ別の……いえ、申し訳ありません。返す当てもなく余計なことを申しましたわ」


 考えるまでもなく貴族の出になるよな。

 そういえば……父親がどうの言っていたな?

 しかも、お父様となれば、貴族と思っていたほうが良さそうだが、どう考えても訳ありでしか無い。


「気にしなくていいさ。ダンジョンで困っていたら助け合い。義理や恩なんて気にするよりも、これから生きることを考えないか?」


 助かった割にはあまり嬉しそうにしていないんだよな。仲間は殺されたのか、帰れない事情でもあるのか?

 それでも、冒険者を辞めて民として暮らしてもいいだろう。

 そんな人が居てもおかしくはないと思う。


「これからですか……貴方はなぜお父様に?」


「さっき言った通りだよ。父上の命令でここともう一つのダンジョンを攻略するためだ」


 もう既に一つは攻略済みだけど。予定はもう一個あるがこれは言う必要はないな。

 彼女は俺の言葉を聞きぽかんと口を開けていた。

 しばらくそのまま固まっているかと思えば、肩を震わせ声を出さないように笑っていた。


「志が高いのですわね」


「まあ、もう、それでいいよ」


 一人でこの有様からして、俺のことも少し強い程度にしか思えないだろうな。

 ダンジョン攻略者は現在、居たとしてもかなり少数だろう。

 こんな俺の身なりからして、ありえないと思っているんだな。

 だけど、助けて貰った手前、余計なことは言えないからな。


「ダンジョンの攻略ですか……そのお話に、わたくしも同行させて頂いてもよろしいですか?」


「はいはい。いいよいいよ別に……ちょっと待て、同行?」


 どう考えたらそうなると言うんだ?


「はい、だめでしょうか?」


「いや、あの。君、俺、一緒? ダンジョン?」


「あの、何を仰っているのか分かりませんわ。貴方にお供させて貰えればと、やはりだめなのでしょうか?」


 駄目も何も、危険だとは思わないのか?

 貴方のバディ、かなり、危険。

 その胸当てからも分かるほど、セクシーダイナ……いかんいかん、つい余計な所に目が行ってしまった。

 と、とりあえず、頬を染めているのは俺の視線にどうやら感づかれたらしい……そんな事も踏まえて、一体何を考えているんだ?


「戻るつもりは?」


「帰る場所がないですわ」


「街まで送るけど?」


「私といるのがそんなにお嫌でしょうか?」


 何だこの既視感は……パメラと同じ状態だというのか?

 つまりだ、放っておくとまた無茶をしてか?

 どいつもこいつも面倒な奴らだ。


「わかった。俺の言うことは絶対に守ってもらう。守れないのなら強制的に街に放り出すからな」


「ふふっ。その場ではなくて、敢えて街なのですわね」


「こんな所で放置するぐらいなら、最初から助けるわけないだろ。とりあえず名前を教えてくれ」


 最初の頃に比べて、少し笑っているところを見ると落ち着きを取り戻しているようだな。


「私の名前は、メアルーンと申しますわ。今は家名はございません、どうぞよろしくお願いしますわ。アレス・ローバン様」


「メアルーンさんね」


「どうぞ呼び捨てにしてください。よろしければ、その、メアリと呼んで頂いても」


 あれ?

 おかしいな、愛称なんて親しい人だけが呼ぶものじゃないのか?

 俺なんかに言ってくるぐらいだから、誰にでも言ってることなんだろう。勘違いも甚だしい……。


「んじゃ、メアリね。とりあえずもう少し休憩してからだな」


「私はアレス様とお呼びしても?」


「好きにしてくれ、呼び捨てでも、君でもさんでも」


「かしこまりました。アレス様」


 いつメアリに名前を教えた?

 俺が彼女のことをど忘れしているだけか?


 それにしても、貴族のご令嬢……家名を剥奪されたのか、追放でもされたということか?


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