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58 何で俺が・・・

 あれからというもの、訓練という名のなぶり殺しは一時間程度続けられることになった。

 剣術訓練のはずだというのに、あびせられる殴打からの殴打。

 俺が半分意識を失いかけた時に、誰かが割って入り俺が気がつくと朝になっていた。

 朝早くということもあって、軽く腕鳴らしをしていた。


「大体、二割程度には戻ってきているな」


 エアスラッシュはかろうじて三連撃ができる程度。精度としては二連撃で留めておくのがいいようだった。

 今の俺の状態がだいたい把握はできた

 あとは……。


「こっわ……この疲労感は少しやばいかもしれないな」


 移動するのなら飛ぶのが最適だけど、少し浮くというだけで上空に飛び立つ勇気はまるで出てこない。

 だとしたら……歩きか?

 あまりにも考えたくはないことだけど、状況から考えてそんな事も言っていられないか。


「これぐらいならできそうだな」


 エアスラッシュ。球体ではない、最初から風の刃を発動させる。

 庭にあった草がきれいに刈り取られていく。

 だけど……調子に乗っていいことはない。残されていたアーチを見事真っ二つ。

 さてと、これはどうしたものか?


「アレス・ローバン様?」


「どど、ドリアン夫人!? おはようございます!」


 一番見られたくない人に見つかってしまった。

 草刈りを善意でやっていたとは言え、誰も物を壊してもいいとは思わないだろうな。

 ドリアン夫人は、刈られた草を集め始めている。


「これをお一人で?」


「ええ、まあ……魔法の制御訓練の一環と申しましょうか? 娘さんは大切になされていたようでしたので、このぐらいのお手伝いができればと……その、申し訳ございません」


「ふふっ。ええ、しっかりと見ておりましたから。どうかお気になさらないでください。先日のようにまたアレス・ローバン様がお怪我をなされないかと、そちらのほうが心配なのですよ?」


「そ、そうでしたか……では、アーチの件は……その、お咎めがないということで」


 二階の窓から、鋭い視線が突き刺さる。

 兄上は、右手の人差指だけを使って俺を呼び出している。

 あの様子からして……俺がやったことはバレている可能性が高い。


「ドリアン夫人。アーチを傷つけてしまい本当に申し訳ございません」


「ですから、お気になさらないで。そんなに謝られてばかりだとこちらとしても困ってしまいますわ」


「いえ、この失態は必ずや何かの形でお返しします」


 ドリアン夫人は困った様子だが、呼び出しを食らっているのでその場から立ち去る。

 制御が不安定だと、こんなにも不便だとは思わなかったな。

 こんなことは初めてのことだから、兄上にどう話をすればいいものか……考えるだけでここから逃げ出したくなる。


「やあ、アレス。そこに座ってもらってもいいかな?」


 兄上の指差す所には椅子はなく……床を示している。

 俺はそれからというもの、一時間ほどたっぷりと説教を受けることになった。

 当然このことは父上にも伝えられ、ニコニコと笑ったまま何も言及されることはなかった。

 つまり、後で何かをさせられるか、ありがたいお説教を聞かされるかのどちらかだ。


 部屋に再び謹慎隔離され、部屋で大人しく魔法制御の訓練をして寝るだけだった。


 そして……その次の日。

 どうやら睡眠が今の状態にいいらしいのか、昨日よりもかなり調子が戻ってきている。

 飛ぶに関しても、速度をあまりあげない程度であれば問題もない。


 父上に状態を見てもらい、言われた通りにダンジョンへとやって来ていた。

 攻略するダンジョンは三つ。

 しかし、どれもコアが何処にあるのかは分からない。そして、この場所が何階層まであるのかも……。


 スォークランの時とは違い、最初から攻略目的に入るのはこれが初めてだった。

 タシムドリアンから近くにあったのはミケントにあるダンジョンで、ここにいる魔物は動物系だった。野生動物と比べ体は三倍ほど大きい、それなりに面倒なのが狼系だ。


 大抵の魔物は音で寄ってくることが多い。しかし、コイツラは匂いに反応しているのか、一定の範囲まで行くと向こうから勝手にやって来る。

 今は探索がメインなのだが……。


「あーもう。面倒くせぇ、一掃してやる」


 いつも通り風魔法を使い手当り次第の駆逐を開始していた。

 ゲームで行ったことがある所なら、索敵で分かる地図で大体の感覚で次の階層が分かるのだけど、全く知らないと何度も袋小路だったりとイライラしていた。

 そんなこんなで開始から、多分二日が経つとようやく最下層に辿り着いた。


「ああ、あった」


 ダンジョンだと言うのに不自然に閉ざされた扉をようやく発見した。

 これがボス部屋なのだろうが、休憩を挟むべきか、このまま突入するか。

 普通に考えて前者だろう。


「まあ、スォークランであれだったし余裕だろうな」


 扉を開けると、待ち構えていたのは頭が三つの巨大な狼。腕が四本ある熊。

 そして……マスコットのように、小さく可愛らしいほぼどノーマルうさぎがいた。

 これはどういうメンバー構成なんだ?


「バランスが崩壊していないか? いや、弱いように見えて一番強いというパターンだな」


 火と風魔法を重ね、竜巻から炎の渦へと変化していく。

 その渦の大きさを広げていき、三体まとめてその炎に飲み込まれる。

 この程度の魔法でも相手が大きい分それなりの効果はあるだろう。

 そして……。

 

「ぶい、ぶい」


「やっぱりな。どうせお前が強いと思ったぞ」


 二体の巨大魔物は倒れ、小さなうさぎ一体だけ残っている。

 うさぎの体は突然光だし、二体の魔物もそれに同調するように光っていた。

 そういう仕組なんだな。その巨体を取り込み三位一体になるつもりだな。

 こういうのは手を出さないのがお約束ってな。どうなるのか少し楽しみだ。


「ぶい、ぶーい。ぶい」


 なあ、うさぎってそうやって鳴くものなのか?

 飼ったことはないのだけど……それにしても、時間かかりすぎるだろ、何時になったら終わるんだ?

 収納していた果物を頬張りながら、この状況を見ているのだがどう考えても既に三分は経っていた。


「やれやれ、やっとか……」


 光が収まり、二体の巨体がうさぎを見守っていた。

 予想が外れたのか……今の光は回復魔法ということか?

 だとするのなら、あの二体はまだ生きていたということかもしれないな。

 かなり良くなってきているのでもう問題ないと思っていた。それでもまだ、完全というわけでもないのか。


「ガゥガウ」


「グルゥ」


「ぶい……ぶい」


 二匹の巨体は鼻を使い倒れたうさぎを、優しく押している。

 目には涙を浮かべ、何度も何度も揺さぶっていた。

 ちょっとまて……。


「ぶい……ぶ……い」


「ガォォオオオオ」


「グルォォォォオオ」


 遂に息絶えたのか、熊は大事そうにうさぎを抱え、狼はじっと横たわるうさぎを見ていた。

 いや、だからさ……。


「ぶ……」


 最後に言葉を発するとうさぎの塵化が始まる。


「ガ、ガウウ」


「グルルゥ」


「ガウガウガウ」


 いやいや、待て待て。え、何この展開は?

 お前がなんで涙流しているんだよ、ていうか、うるせーよ!


「グルルゥ。グガーー!!」


「ウォーーン!!」


 二体の魔物には、狼には角が生え毛並みも黒から銀色へと変わっていた。

 熊はコウモリのような翼が生え、手の甲から鋭い爪がギラついていた。


「いや、それは違うよな?」


 仲間が倒されてパワーアップとか、普通はこっちサイドの話じゃないだろうか?

 それが終わると、俺の方を見て鋭い眼光で睨みつけていた。

 コイツラにとって俺は、復讐の相手だと?


「バーストロンド! バーストロンド! バーストロンド!」


 散々待たされた挙げ句、こんな茶番を見る羽目になったことに後悔した。 

 魔物たちは塵となり、隠されていた奥への通路が開いていた。

 俺はそのまま風魔法を使い、コアを破壊する。

 地上へと戻された俺は次のダンジョンへと向かっていた。


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