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56 浮気の予感?

 目が覚めると、俺はベッドの上で寝かされていた。

 あの後誰かが運んでくれたのだろうけど……ろくな運ばれ方でないのは確かだろうな。

 特に顎辺りがヒリヒリと痛む。


 あれから何時間ぐらい経ったんだ?

 体を起こすが、なんというか、ものすごく体が重い。


「やあ、起きたのかい?」


「父上。あの、ここは?」


 父上はいつもの様子に変わっている。

 俺を蔑むようなことはなく、あの頃の感じた父上のようだった。


「ドリアン男爵の屋敷だよ。今はまだゆっくりしていると良い。君を責めるようなことばかり言って済まなかった」


 そう言って父上が頭を下げている。

 父上がこれまでに間違ったということはなかった。俺なんかよりも兄上が優秀だから、二人が決めたことに間違えるというものを感じていない。


「ど、どういうことでしょうか?」


「この街のことは調べたよ。こんなのを目の当たりにしていたんだね。本当に済まない」


 久しぶりに父上に抱きしめられた。俺の耳元で、「苦しかっただろうね」そう言ってくれた。

 父上も、俺と同じように腹の中で業を煮やしているに違いない。

 だけど父上や兄上は俺とは違う。常に冷静を心掛け、俺が知る限りあのダンジョンを発見したときぐらいしか、父上の焦った様子を見たことがない。


「旦那様」


 ガゼルも来ていたのか……。

 俺が知らないのも当然か、起きた時には既に準備が済んでいたし、ここに来てすぐに寝ていたからな。


「分かった、行こう。アレス、よく頑張った。もう少し休んでいなさい、いいね?」


 今のは……褒められたのか?

 しかし、父上。それは、運んだことですか?

 それとも、暴れたことについてなのですか?

 

「し、失礼します」


「ああ、貴方は確か……確か……ランドルさんの娘で……」


「ミーリアです。この度はこの街にご尽力頂き心より感謝申し上げます」


「そうそう、ミーリアさん」


 あれ? 聞き覚えは全くないぞ?

 ま、まあバレていないようだし大丈夫だろう。

 少しは元気が出たようで良かった。ここの部屋も慌てて掃除をしてくれたのだろう。


「屋敷も随分過ごしやすくなっているようで何よりだ」


「はい、これもアレス様のおかげです。す、すみません、いきなり名前をお呼びしてしまい」


「構わない、何ならアレス君でも良いぞ」


「そんな、恐れ多い……私なんかが……」


 太陽は完全昇っているのだから、かなり寝ていたみたいだな。

 ここについたのは夕方だったような?

 ベッドから降りて軽く体をならす。魔力量は完全ではなかったけど、あんな無茶でなければ問題はなさそうだ。

 索敵を展開するが……反応を感じ取る前に目眩を起こしてしまう。


「大丈夫ですか? ベッドにお戻りください」


「いや、少し魔法を使おうとしただけだから。少し制御がよくないみたいなだけ、心配掛けたようですまないな」


「いえ、私で良ければ、何でも仰ってください」


 いやいや、そんな事を軽々しくいうものじゃないと思うけどね。

 俺のようなやつで助かっているようなものだよ?


「お、お着替えのお手伝いは必要でしょうか?」


「必要ない。それぐらい自分でやっているから」


「かしこまりました。では、お食事を後でお持ちいたします」


「ああ。ありがとう」


 残るようには言われたが、このまま黙って過ごすのもな……窓開け辺りを見渡す。

 監視はされていないようだし、どうしたものかね。

 ここで俺が何か行動すれば、父上に背くことにもなりかねない。


 しかし、俺のことをよく知っているあの父上のことだ。俺の行動も読まれていて何かする事さえも想定している可能性すらある。

 俺が黙っているなんて思うわけがないよな。

 再びノックの音が聞こえてくると、ミーリアが食事を持ってきてくれた。

 随分と早いな……急いで持ってきてくれたのだろうか?


「あの、お着替えは?」


「父上にゆっくりしてろと言われていたからさ。ついぼっーとしていた。食事を済ませてから着替えることにするよ」


「はい、かしこまりました。少し不安でしたが、よかったです。アレス様がいてくれて」


 俺はベッドに腰を下ろし、用意されたパンと、シチューを頂いていた。

 この組み合わせも中々いけるな。


「さっきの、俺が居てよかったというのはどういうことだ?」


「先程ローバン公爵様に、アレス様のお姿がなければ至急報告するようにと言われておりましたので」


「え? 俺が勝手に何処かへと行くと思っていたのかな?」


「そのようなことを仰ってましたから。私としては、アレス様はそのようなお方ではないと信じておりました」


 俺からは乾いた笑いしか出なかった。

 持っていたパンが、シチューの中へと沈んでいく。

 父上は俺が出かける可能性を想定していたが、きっとそれはこれ以上問題を大きくさせないためのことであって、好き勝手にと言うのは論外なのだろう。

 魔法が使えなかったことで、出ていく気にはなれなかったが……出ていった場合俺はどうなっていたことやら。考えただけで背筋が凍りつく。


「入るわよ」


 ドアが空いているから、ズカズカと入ってくるレフリアは俺を見るなり、深い溜め息をついていた。

 ハルトは居ないようだけど……アイツのことだから、父上たちの手伝いでもしているんだろうな。考え込むよりも、体を動かしている方が何かと気が紛れるしな。


「レフリアか、どうした?」


「様子を見に来ただけよ。あれがずっと寝ていたから、少し心配していただけよ」


 何だこの嬉しくもないデレは……あのレフリアに心配されるとはな。

 どうせやるのなら、額をくっつけるぐらいしろ。まあ、ハルトに何を言われるか分からないから嫌だけど。

 アイツは手が早いからな。


「ミーリア、美味かったよ。ありがとうな」


 シチューをかきこみ、落ちていたパンを最後に頬張る。

 中々に悪くはないけど……染み込みすぎるというのも問題だな。

 皿を渡すが、ミーリアはぼーっとしているだけだった。


「どうかしたか?」


「は、はい。ありがとうございます」


 どういう返事なんだ?

 お礼を言うのなら俺の方だよな?

 レフリアに意見を求めようと視線を送るが……何がすごく嫌そうな顔をしている。

 ミーリアは皿を片付けるために、何故か慌てて部屋から出ていった。


「あーあ。なんでまぁ……」


「何かあったのか?」


 レフリアは壁にもたれ、腕を組みあえて俺を見下ろすかのような目つきをしていた。

 何かを考えているのか、右手の人差指で腕を叩いている。


 お? 今思えば……ミーリアってことは、今ハルトがいたらリアって呼ぶと、ミーリアが反応して修羅場勃発か?

 いや、絶対にそうはならないか。

 それにしても……こいつは意外と普通なんだな。


「なんて顔をしているのよ。ミーアとパメラに言いつけるわよ?」


「何だそれは? あの二人の話が出ることってなんだ?」


「親友の婚約者様が、こんな所で浮気寸前のことをしているのよ?」


 浮気?

 俺とレフリアが?

 ええ……なにそれすっごく嫌なんだけど。


「何でお前と俺が浮気をする必要があるんだよ!! 馬鹿か!?」


「何で私とアンタなのよ! 死んでもごめんだわ!」


 何で俺たちは怒鳴り合っているんだ?

 ただでさえ体がだるいというのに、こいつのせいで余計に疲れてきたぞ。


「とりあえず様子を見たんだろ。俺は着替えるつもりだけど。見たいのか?」


「誰が!!」


 レフリアは顔を背け部屋から出ていったが……自分の家なら兎も角として、ドアは静かに閉めような。

 あの怒った態度がいつも通りで、少し助かっている。


「あの様子からして、気に病んでいなくてよかったな」


 アレだけの事をしたのだ、今までのような対応はないと思っていた。

 レアリアもハルトも、これまでと何も変わらず接してくれたのが、嬉しいと思えるのなら二人は俺にとってやはり友人なのだろう。


 レフリアに剣を向け、恐怖さえ植え付けたようなものだ。

 今回のことがあの二人にバレると少し気が滅入ってくる。


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