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50 貴族とは?

 二階の奥にある部屋へと通されたが、そこは執務室ではなく男爵の寝室だった。

 しかし、ここだけは他の所とは違い整えられている。

 床や壁に至るまで装飾の類はなく、ただ他と比べて綺麗に掃除をされているだけだった。


「こ、このような姿で申し訳ない」


「こちらこそ突然の訪問申し訳ない」


 ベッドの上では、上半身だけを起こしかなりやつれている。

 やせ細っているのはメイドや執事も同様だった。

 メイドに支えられ、かろうじて座っているのかもしれないな。


「失礼した。ローバン公爵家の次男、アレス・ローバンです。事情を知らなかったとは言え、伏せっている所、大変申し訳ない」


「私は、ランドル・ドリアン男爵です。このタシムドリアンを任されております。私のような者に一体何の話があるのですかな?」


「この街はなぜこのようなことに?」


 ドリアン男爵は深く息を吐き、首を振りまた深い溜め息をついた。

 男爵という立場もあってか、こんな事を招いたのだからそう簡単には答えてはくれそうにもないな。

 執事も、同様に視線を反らしている。


「言えない事情というわけか?」


「貴方様がもしローバン家の者だとしても、爵位を持たないお方です。ですので、おいそれと話すつもりはございません。どうか、ご理解頂け無いでしょうか?」


 いろんな複雑な事情があるのだろう。それを公爵家の人間とは言え、ここはバセルトン公爵が収めている。

 だから、俺はよそ者でしか無いのだろう。


「それもそうだな。話せない事情もあるのだろう……さて、どうしたものか」

 

 この街を立て直すにも、男爵の協力は必要になる。しかし、伯爵がいる以上、その下に属している男爵は表立って行動はできないだろう。

 それ以前にその体で無理をさせることもままならないだろうな。

 俺が持っている物資だけで、一体どれだけの民が救えるのかすら分からない。


 ただ提供するだけでは、何も変わることはないだろう。

 生き残っている人達を救うには、人々がここで生きる意味や目的が必要になってくる。

 僅かな食料であれば、それを巡って争いも起きる。

 そんなことにもなれば……延命という言葉ではなくなってしまう。


 父上や兄上なら……こういう場合どうするのだろうか?

 俺は冒険者となることが認められたのか、兄上のように領地の事に関して詳しいと言えるだけの教育は受けていない。

 ただ、公爵家の人間としての自覚だけは厳しく言われた。


「どうしたものか……」


 男爵に仕えるメイドからして、この現状を甘んじているようにも思えない。

 メイドは立派な職業だ。俺のような我儘な奴だろうと、俺の身の回りのことは良くしてくれていた。それは、給料を貰うという対価でもある。


 索敵は展開していたままだが、相変わらず屋敷周辺には何の反応もなく、この屋敷をメイドが二人と年老いた執事だけ。

 この街は何時からこんな事を強いられたのだろう。


「ローバン殿。如何なされましたか?」


「は? いや、どう話せば良いものやらとね。男爵の言われるように、俺には爵位もないただの学生だ。他の領の事とは言え、この現状は何とかしたいとは思う」


「ですが……ローバン公爵様がこのような場に来られるとは思えません」


 確かにそうだな。

 父上が現状を見れば動くだろうけど……父上でなく兄上にもどうやって説明をすればいいんだ?

 貴族のこと、領地のことは全て兄上へと受け継がれる。俺には何も政策というものが思いつかない。

 あの二人を動かすには俺だけでは役者不足でしか無い。


「それにはやっぱり、男爵の力が必要なんだ。この現状を変えるためにも、協力をして欲しい」


 俺に今出来ることがあるとするのなら、街にいる人の腹を少しばかり満たす程度。

 それが助けになるというものではない。餓死の日時をずらした程度に過ぎない。

 何人残っているのかも把握はできていない。そればかりか……俺の手元に残っている金もない。


「無知ですまないが、ここの子爵の名前は?」


「子爵様でございますか? この地の子爵様は、ルーヴィア子爵様にございます」


 ルーヴィア!?


「しかし、この現状を知らない訳でもありますまい……」


 男爵からは、深い溜め息が漏れている。

 同時に、俺は目の前が暗くなるのを感じてしまう。

 同名はあっても……同姓などありえない。そういうふうにこの世界は成り立っている。


 まさか、伯爵と子爵が結託しているというのか……?

 信じたくはない話だったが、貴族として受け入れるべきことだろう。


「アレス・ローバン様。子爵様にお会いされてはどうでしょう?」


「失礼だとは思わないのか? ドリアン男爵を前にして、メイドであるあなたが意見を言ってくるとは……」


「これはとんだ失礼をいたしました。申し遅れましたが、私はメリー・ドリアン。ランドルの妻にございます」


「ふぁへ? 大変失礼しました、ドリアン夫人」


 予想してなかったので変な声が出てしまった。

 俺は頭を下げるが、ドリアン夫人は目を伏せ首を横に振る。

 男爵も辛いだろうな。自分の妻が使用人と同じことをさせなければならないということは……。


「どうか、お気になさらず」


「その子爵が居る場所はわからないのだが、手書きでもいいので地図を頂けないか?」


 そう言うと、夫人から合図を受け取った執事は戸棚を開け、何かを探し始めた。

 メイドの服を着ているからてっきり使用人だと思っていた。

 そこまでしてここに残っている理由は何なんだ?


「こんな事をされるのは、屈辱的に感じるのかもしれない。だけど、男爵にはもう少しだけ辛抱して頂きたい」


 収納から、取り出した木箱を並べていく。

 箱に収めているのは食料や日用品だ。

 店主のはからいで、箱に詰めてくれたのだけど出すときに楽で助かるな。


「アレス・ローバン様。それは一体?」


「お母様」


「え? 娘さん? いやいや、度々失礼しました」


 なんなんだよ。じゃあこの執事は男爵の父親だったりするのか?

 そう考えると似てなくもないような。この経済状態なら親族である可能性が高い。いや、間違いなく父親だろう。


「と、とりあえず。食料だったり日用品が入っています。民に分け与えたとしても数日すら持たないでしょう」


「ローバン殿。ですが、この屋敷にはそのような品に対する金品はございません」


「それと、先日スォークランのダンジョンは攻略した。暴走を恐れる必要はもうない。それに、俺は別に金品なんて求めてもいない。今は、貴族としての責務を果たすべきだろう」


「なんと!? いや、しかし……」


 男爵が理解できないといった様子だな。いきなり現れた、俺がダンジョン攻略者だとは思いも寄らないだろう。


「俺がダンジョンを攻略したということは、公にしないで貰えると助かる。その品は口止め料だと思って収めてくれ」


 そんなやり取りをしていると、執事から地図を渡された。手書きではなくちゃんとした地図に、詳細を書いた紙をつけてくれていた。


『私は旦那様の幼少からの執事にございます』


 この執事出来るな……しかし、まあ、いいか。

 ふふっと笑う執事に、俺の考えは見抜かれているらしい。

 セドラといい勝負になるかもしれないな。


「助かる。直ぐにとは行かないが、近い内にまた顔を出すよ。世話になった」 


「アレス・ローバン様。この御恩は決して忘れません」


「必要ないと言っても聞いてくれなさそうだな。そうだな……今度ゆっくりできる時でもあれば、盛大にもてなしてくれ」


「はい、必ずや」


 夫人に見送られ、ドリアン男爵の庭から上空へと飛び立つ。

 あの程度なら、焼け石に水でしか無い。ルーヴィア子爵と合う前にこの辺りの街を見ておくのも良いかもしれないな。


 ロンダリア伯爵。こんな事までして何を企んでいるんだ?

 ダンジョンの封鎖。スォークランで考えられるのは、あえて暴走を引き起こすこと。だとしてもだ、その危険性を知らないわけでもないだろう?


 狙いは一体何なんだ?


 各地を飛び回り、地図に記されたダンジョンには私兵が立っていた。

 上空から、兵士を風で吹き飛ばし中に入ると、ここもスォークラン同様に放置されていた。


 攻略している時間がない。まずは暴走の危機を食い止める必要がある。


「バーストロンド!」


 ダンジョンに入ってすぐに、爆裂魔法を打ち込む。

 魔物は、ここでも大量発生している。

 索敵を使えばあの時の同様に、把握できないほどの数がいるということだけは分かる。


「ちっ……一体どうすれば?」


 ここに居られる時間は少ない。

 風魔法のような、単体魔法を使うよりかは爆裂によるバーストロンドに軍配は上がる。

 だけど……この程度の魔法は時間がかかりすぎてしまう。


「索敵が使えれば、もう少しは楽に回れるのに……バーストロンド!」

 

 二つ目のダンジョンの区切りをつけた頃には、男爵の元を離れ、既に十日が過ぎていた。


 予想以上に時間がかかったのは、弱い魔物だったが魔物の暴走ともなれば話は大きく変わってくる。

 索敵が使えない状態での進行が、これほど大変だとは想像すらしていなかった。


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